"古代と未来と現代っ子" by R+R

「ねえねえギル、他に何か面白いものないの～？」
　狭い地域にあまりに多くの釣人が密集してしまったためヒット数が減った某埠頭。その結果子供達は釣りに飽き始めていた。
「なんだ今週のジャ○プはもう読んでしまったのか？」
「あんなの、一つか二つしか面白いもんないもん」
「最近つまんなくなっちゃったんだよね～、同じ展開ばっかりでさ」
　口々に連載漫画の悪口を言い合う少年達。次第にその内容はエスカレートしていき、ついにはお互いの好きな作品についての悪口の言い合いに発展する。
「ハハハ、悔しいからと言って怒鳴り返しても不毛だぞ雑種ども。やるならば相手が再起不能になるまで徹底的に貶してやらねば勝てぬのが何故分からんのだ」
　子供達の友情の危機を招くようなことをサラッと言う古代の英雄。
　それに乗り、過剰を越えて喧嘩へと発展しそうな勢いの子供達。
　もちろん五月蠅い。
「ええい、どうして止めぬ、ギルがメッシュ。これでは勝負以前に獲物が逃げてしまうではないか！」
　あまりの喧騒に痺れを切らしたアーチャーはギルガメッシュに文句を言う。
　ここで子供を直接叱らないのは英雄の意地なのか。
「ほう、では問うがアーチャーよ。貴様の腕はたかが子供の喧騒で左右されてしまう程不確かなものなのか？」
「む」
　言葉を詰まらせるアーチャー。対するギルガメッシュは余裕の表情を崩さない。
　続けて畳みかける。
「それにこの距離だ。百里も離れていれば別だが数ｍも離れていなければ我と貴様は同じ条件だと言えるだろう。ともかく我はこやつらの声は邪魔にはならん。止めさせたいと言うのなら貴様自身ですることだ」
　眉間に皺を寄せるアーチャー。だが数秒の後、ニヤリと笑う。
「……仕方が無い。これは秘義中の秘義なのだが」
　そう言うとアーチャーは釣竿を置いて両手を掲げると、精神を集中する。
「ハァ――ッ！！」
　その両の手に現れたのは謎の棒。鉄のグリップ、中央よりやや上部に付いたボタンらしき突起物。そして側面には何かを嵌める事が出来そうな穴が開いている。
　アーチャーはそれを持って子供たちに目線の位置を合わせ、手に持った二つの道具を手渡す。
「これをあげよう。遊び方は分かるか」
「……このボタンを押すの」
「そうだ、押してみろ」
　受け取った子供二人がボタンを押す。

ブォ――ン

「うわっなんだこれっ！」
「あ！　俺、これ知ってる。お兄ちゃんの部屋で見た、ビームサ○ベルって奴だ！！」
「ふふ、違うな。良く思い出せ、ビームサーベルはこんなサイズでは無かっただろう」
「分かった！！　映画の奴だね、ライトセ○バーだ！！」
「ご名答。なかなかに賢いな」
　ここまで聞き、ギルがメッシュが反応を示す。
「なに、セイバーだと？」
　子供たちが手にするものをマジマジと見るギルガメッシュをアーチャーはほくそ笑みながら告げる。
「原初の英霊ともあろう者がこの程度の武器を知らないのか。これはかの騎士王を象徴する剣、エクスかリバーを元に作られた量産型兵器だ」
「量産……つまりは汎用ということか。貴様の複製より程度が低いではないか」
「ふ、侮るな。この剣は遥かなる未来、伝説の勇者たちを象徴する武器となるものだ。その英雄達が好んで使用する武器ともなれば、それが劣る筈が無いということは解るだろう？　伝説によればその武器はあらゆる敵の攻撃を跳ね返し、超鋼鉄の装甲すら打ち破る力を持つという。それを一目見た程度で汎用と言い捨てるとは、原初の英雄とはよほどの自信家の事を指す名称らしい」
　ギルガメッシュは今一度その道具を用いてチャンバラをしている子供達を見る。
「ふむ。しかしアーチャー、そのようなものはこの雑種どもには少々荷が勝ち過ぎるだろう。死人が出るかもしれぬぞ」
「その点は抜かりない。出力を落としてあるので人体を斬る事はない。悪くて打撲だ」
「ねえねえ、これ二個しかないの？　もっと出してくれないと皆で遊べないよ」
「もちろんだ、とうに私の準備は出来ている」
　言うといつの間にか複製したのか、もう一対のライトセ○バーを子供たちに手渡すアーチャー。それを受け取った子供達は彼らの元から離れ、埠頭の中央でチャンバラごっこに精を出す。
「なるほど、これで分かった事がある」
「言ってみろ、アーチャー」
「貴様の人望とやらは私が与えたおもちゃ程度で揺らぐ不確かなものだと言うことだ」
「む」
　先程とは対照的な表情を浮かべる両人。
「どうした、なにやら苦しそうだが、聖杯を飲んだ反動が今来たのか？」
「黙れ、偽者。剣しか真似出来ない分際でなにを吠える」
「ふむ、どうやら図星を突かれて痛がっているようだな」
「誰が吠えているのだ？　どこかの犬畜生でもあるまいて」
　――瞬間、埠頭の隅の空気が凍る。
　しかしギルガメッシュはそんなプレッシャーなど感じていない。
「それほどまでに言うのなら見せてやろう、我の倉庫に収められている秘宝中の秘宝をなっっ！」
　ギルガメッシュは突如虚空に現れた歪みに手を突き入れると、ガサゴソと掻き回す。
「ここかっ、いや違う、普段使わぬ物ゆえどこにしまったものか皆目……む」
　ギルガメッシュは手を止め、不敵に笑う。
「ふん、こんなものか。まあ雑種どもにはアレの使用は不可能だろうし、戯れにはこちらが向いているだろう」
　ゆっくりと手を引き抜くギルガメッシュ。
　その手に握られていたのは１巻きの上質な絨毯だった。
　それを見たアーチャーは冷笑する。
「……ふ、大口を叩いた割に、そんなものか」
「好きに言うがいい」
　ギルガメッシュはアーチャーの挑発をあっさりと受け流すと埠頭の中央へ歩を進める。
「そこの雑種ども。空を飛んだ事はあるか？」
「ん～ん、無いよ」
「飛行機ならあるけど」
「そうか、ではこれを使ってみよ。そのような遊具などでは味わえぬ高揚感を得る事が出来るぞ」
「――ッ！！　まさかギルガメッシュ、それは」
「今更これの価値に気付いたか、さすがは雑種。眼も曇っておるわ」
ギルガメッシュは勝利を確信した笑みを浮かべながら絨毯を広げるとその絨毯は宙に浮いた状態でゆらゆらとはためく。
「おおーーー、すっげぇええ！！」
「これどうなってるの、宙に浮いてるよ？」
「説明しても貴様たち雑種には理解出来まい。暫くの間これは貴様らに預ける。好きに使うがいい」
「やったー！　俺一番乗り～」
「あっ、ずるーーい！！　ねえギル、あれもっとないの？」
「アレは一つしかないが、似たようなものならいくつかある。他の者たちにはそれらをやろう」
　そう言うとギルガメッシュは両手をゲートオブバビロンに繋がる空間に差し入れ、人数分の絨毯を取り出す。
「わーい、ありがとギル！」
「じゃあさ、さっきのも使って空中戦をしようよ」
「「「さんせーい！」」」
　嬉々とした子供達は今度は埠頭上空へと舞い上がり、空中でのチャンバラを開始する。
「ふん、どうだ偽者、出来るものならこの絨毯をコピーしてみ」
「トレース、オン―――ッ」
「なに、出来ると言うのか？！」
　アーチャーから発する魔力の発動を見て驚くギルガメッシュ。その複製によってもたらされた閃光がギルガメッシュの目に飛び込み、慌てて目を覆う。
　その後視力が回復したギルガメッシュの視界から、アーチャーの姿は無かった。
「まさか本当にっ？！　どこだ、どこに消えた、偽者！」
「ここだ」
　ギルガメッシュの背後から声が響く。
　そちら側に足場は無く、
「く――っ」
　慌てて振り返ったギルガメッシュの目に飛び込んできたものは、
「な、なんだと……？」
　海面スレスレを滑空するように滑るアーチャーの姿だった。

ひとしきり海面を堪能したアーチャーは埠頭先に鋭い視線を向けているギルガメッシュを一瞥すると、その傍へと移動する。
「さすがの私でも剣以外の初めての道具を複製する事は困難だが、何度も挑戦し、習得したものならばたとえ剣以外でも複製が可能だ。知らぬであろう古代の亡霊……おっと英霊殿に説明すると、これは近い将来、魔法でも叶わなぬ時間跳躍を可能にした研究者と共に未来へと飛んだ少年が持ち帰ったものだ」
「なに、魔法だと？」
「……ほう、驚いた表情をしているな。そのような表情を見るのはは柳洞寺以来だ」
「……ええい、左と言えば右、右と言えば左と、偽者の分際で――っ！　良かろう、ちょうど退屈を持て余していたところだ。あの日の決着、ここでつけてやろう」
「ふん、臨むところだ。いくぞ原初の英雄、武器の貯蔵は充分か？」
「舐めるな雑種、よもや貴様、刀剣だけが武器だと勘違いしてはおるまいな？」
　激しく視線をぶつけ合う両英雄。
　ギルガメッシュは埠頭から飛びながら倉庫の門を開き、自身も空飛ぶ古代兵器に乗り移る。
「奔れ、インドラの雷――！！」
　ヴァジュラを振うギルガメッシュ。
「甘い、雷は金属に引かれるもの。ならばっ！」
　すかさずアーチャーは複製した剣をギルガメッシュの上空に打ち上げる。
　すると金属に引かれた雷は剣を伝い、ギルガメッシュ目掛け、天を駆ける。
「むぅぅぅぅううう！！！」
　かろうじてヴァジュラを用いてにして海に雷を落とすギルガメッシュ。すかさず次の兵器を取り出す――。
　一方。
「いっけーーー、俺は雲男だーー！」
「ちがうよっ！　僕が雲男だぃ！」
　子供達は埠頭上空を飛び回りながら、様々なごっこ遊びに精を出す。

その状況に、未だ埠頭より動かず、周囲の状況を極力無視して釣りに専念していた一人の英雄が愚痴を洩らす。
「……てめえら、やるならよそでやってくれ」

（終）