新説 聖杯戦争
赤!朱!!紅!!! 薔薇よりも赤く。 太陽よりも朱く。 血液よりも紅い。 あぁ、どうしてコイツはこんなにも、 俺の心を滾らせる―――!!! 五感は疾うに消えている。 死線は疾うに越えている。 第六感が、ヤメロと言う。シンデシマウと俺を惑わす。 赤い死神が、コイと言う。カカッテコイと、俺を誘う。 ヤメるな!ヤメてはいけない。たとえこの先に、逃れようのない「死」が待ち受けていたとしても。ここで諦めてはいけないんだ。 「シロウ!!もう限界です!一旦退きましょう!」 確かにまだ間に合うかもしれない。ここで、自分に打ち克つことをやめるのならば。命だけは助かるかもしれない。これからの日々、自分に負けたという悔恨を背負い続けて生きていくことができるなら。 「どうした衛宮士郎。おまえの理想など、所詮はこの程度ということか」 しかし俺は、そんなに器用な人間じゃあない。 ―――視界は死界、盛る炎に支配され、 ここで諦めるくらいなら、死んだほうがマシだ。 ―――自壊し死灰は、着実に死骸へと化していく。 進めど死。退けども死。 ―――なのにどうしてこの不器用な自我は、決して、 なら俺は行く!絶対にこの手だけは止めない。自分の理想に克て。もしも俺がここで退かぬことで、この戦いの後にどんな結末が訪れようとも、それは決して「死」であるはずがない。それは、勝利以外の何物でもないのだから!! ―――諦めることを、認めない!! 俺の中で、何かが爆ぜた。 ただ本能で、腕を動かす。 「なっ・・・!ペースアップだと!?」 重力さえも敵になる。死の上下運動。 赤い色は、人を興奮させるという。 あぁ、間違いない。 だってこんなにも、俺はコイツを求めてる。 俺を着実に死へと追いやっているはずの、この、赤い死神を―――。 「シロウ、何もここまでしなくともっ!」 「ちょっ―――、衛宮君、本気!?」 「先輩っ、もう充分です!先輩っ!!」 まともに働かない目と耳に、かすかに届く悲痛な叫び。 俺は守る。この日常を絶対に守ると誓った。誰でもない、自分に誓ったんだ。 自分にすら勝てないヤツが、どうして、他の誰かを救える? だから勝つ。 聖杯を手に入れて、俺は守る! 「グ・・・。グフゥ・・・!」 ガチャンッ! すぐ傍で断末魔の声がした。しかしどうやら俺のものではないらしい。だって俺の腕はまだこうして、動いている。グツグツと音をたて、真っ赤に滾る死の海を、突いて、屠って・・・、あれ? スプーンを握る手先からわずかに伝わってくるのは、先ほどまでとは異なる、硬くて薄い、ただの、薄っぺらい皿の感触だった。 噴き出していた汗が、顎から滴り落ちるのを感じた。 視界は序々に回復し、眼下に広がる、この世のものとは考えがたい、美しい純白を捉えていた。 「やった、食った・・・、完、食だ―――。」 薄れゆく、朦朧とする意識の中最後に見たものは、俺の隣で、最早ボコボコという擬音が相応しいほどに煮えくり返ったマーボー豆腐に、思いっきり顔を突っ込み気絶している、言峰の姿だった。 ―――喜べ少年、君の願いはようやく叶う。 そんな祝福が、聴こえた気がした。 俺は、聖杯を手に取った。中で揺れる、この透明の液体―――水が、こんなにも神々しく見えたことはない。 「う・・・。ううう・・・」 視界が、再び霞んでゆく。 驚いた。嬉しいはずなのに、俺、泣いている―――。 汗だくの頬を伝い、聖杯の中へと零れていった一粒の涙は、とても輝いていて、目も眩むようだった。俺は全てを飲み干した。 体はいまだ、燃えるように痺れているが、心はしかし、真紅の灼熱をさらに上回る、何事にも代えがたい、白い歓喜を叫んでいた。ただただ押し寄せる達成感を謳い、じわっと染み渡り灼けた心を満たしていく、強烈な安堵感に身を任せ―――、 俺は、倒れた。 その後、俺は、我が衛宮邸で目を覚ました。どうやら事後、セイバーたちが、気を失った俺を運んでくれたらしい。 「まったく、衛宮君たら。お金がないなら相談くらいしなさいよ。こんなことする前に」 はぁっ、とため息をつきながら、遠坂が言った。 その手には、 『来たる○月×日!激辛マーボー1500グラム早食い王決定戦!!(水は無し) 勝者には当店商品券壱万円分進呈アル!!―――中華飯店 紅洲宴歳館泰山』 と書かれたチラシ。 「シロウ。なぜあんな無茶をしたのです。今後あのような暴挙は慎んで下さい」 まったく、とセイバーに咎められた。 「士郎ぉ。なんで私を呼んでくれなかったのよぅ・・・」 と、藤ねぇが拗ねる。 ・・・アンタらのせいだ!!こちとら急激にエンゲル係数上昇してんだ!食費が足りないんだよ食費がッ!! と、言ってやりたかった。 「う・・・。うっぷ!」 しかし、アンリミテッドに襲い掛かってくるリバースが、口を開くことを許さない―――! 今日はどうやら、トイレで新たな夜明けを迎えることになりそうです。ウップ・・・。 「またですか。あれくらいで情けない」 「セイバーに任せれば良かったのにねぇ。カッコつけるから」 「でも先輩のお陰で、当分食事には困りませんね。よかったじゃないですか。感謝しましょうよ、ほら藤村先生も、ね?ね?」 「むー。わかったわよぉ。じゃあ士郎に感謝して明日はみんなで中華ね。パーッといきましょ、パーッと!うふふ」 「大河!楽しみです!!」 かくして衛宮家の深刻な懐事情は、刹那的に救済されたのでした。 めでたしめでたし カチャカチャ カツカツ ウプッ ゲプッ ―――戦争は、佳境に差しかかっていた。響きあう食器の音も、もう聴こえなくなりつつあった。すでに限界を越えている。もう、だめかもしれない。 意識を半ば失いかけたそんな時、アイツの姿を、幻視した。赤い外套を纏った、あの、大きな大きな背中を。 『―――ついて来れるか』
by ほすとべが
ついていきますどこまでもっ!! ってなワケで、アーチャー兄ィ頑張って!!(え
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