従者と黒犬
王が死に、国が朽ちて後、彼は修道院で神に仕え生きた。 そして寿命。床にて彼は長く生きたと走馬灯に思いを馳せた。 枕元に悪魔。 「最期だし少しだけ、貸してあげようか?」 フンフンと、鼻を鳴らす黒い犬。 現在から過去へと遡る走馬灯はだんだんと犬の思い出へと近づいていく。 /fin avalon 物語は結末へ。 彼が語り部となることを選んだ物語は樹の下で閉じた。 眠るように眼を閉じていた彼の王。 それが穏やかな顔だから、 それは緩やかな笑みだから、 安堵した。 王が死んだのに、 彼は安堵した。 好いていたのに、 総てだと思っていたのに、 そんな、王が死んだというのに、 安堵した。 悲しくは無い。怒りも無い。 まるでそんな感情は欠けているかのように、 /14 roma 両腕で剣を持ったなら一緒に違和感も持った。 ガウェイン卿、ボールス卿、ライオネル卿、それと彼で四人。 目測では捕らえきれない量の敵。 こちらは使者なのだ。それなのにこの仕打ちは何なんだと彼は思った。 覚悟を決める。 怒りは湧いて来なかった。 戦とはこういうものなんだと諦めた。 そうしたらカタリと音がして左腕が外れた。 このほうがやりやすいと彼は思った。 そして疾走。 円卓を囲む騎士の中で彼より速く駈けるものは無い。 血飛沫が頬を討つのを感じた。 結局。彼らは四人でその敵軍を追い返した。 /11 camelot 間抜けなことに、それに気づいたのは兄が最初だった。 彼の兄は彼を指差しどうしたんだと尋ねた。 彼は首を傾げ何のことだと問い返した。 姿見にて自分を確認。 そして左手が生えていることに驚いた。 そしてそれはケイという騎士の眼に触れた。 それは即ちキャメロン、否、ブリテン中の人の耳に入ったという意味だった。 王は魔法使いを彼に紹介してくれた。 魔法使いは笑いながら悪魔の仕業だと言った。 なんとかしてくれと頼んだら、魔法使いは笑いながらそのほうが便利だろと言った。 その日から黒犬の姿を見なくなった。 その前日はローマからの使者が来た日だった。 使者が伝える言伝を犬は嬉しそうに聞いていた。 /5 sir 笑わない王に怒りを覚えたのは何時からで、 笑わない王に怒りを覚えなくなったのは何時から? 彼が犬と出会ったのは戦場でだった。 迷い込んだのか、それとも血の香に誘われたのか、鼻をヒクつかせながら犬は戦場を歩いていた。 彼はヒクヒクと匂いを嗅ぎながら進むその理由は近くに来たときに理解した。 犬には眼球が欠けていた。 ワンと犬は彼に向かって鳴いた。 戦が終わりキャメロットにて平穏。 他の騎士とは若干毛色の違う立場である彼はむしろ戦よりも忙しく働いていた。 戦争は始めるよりも終わらせることが難しい。 そして終わって後は更に忙しい。 黒犬は何を思ってか彼について回った。 彼は気に留めなかったが時々愛でもしたし、餌をあたえたりもした。 しかし、そうしたときの犬はどこか物足りないという顔をしていた。 「欠けていたんじゃなくて無くしたんでしょ? もともと持って生まれた物なんだし、死ぬときも一緒のほうが良いんじゃない?」 悪魔の言葉に彼は首を振る。 「そう?貴方の初期衝動を取り戻したいとは思わないの?」 悪魔の言葉に彼は首を振る。 「本当にいらないんだね。ごめんね、余計なことだったね」 悪魔は去っていった。 入れ替わって天使が見えた。 もうすぐ自分は死ぬのだろう。 途端に怖くなった。 顔が引き攣るのを自覚する。 これが死ぬことだと思った。 私は死んでしまう。それがとても怖い。 そして、王の死に顔が浮かんだ。 あぁ、あんなにも穏やかだったなら、 安堵したのは決して間違いではなかったと胸を撫で下ろす。 そして突っ掛かていたものはストンと落ちた。 始まりは怒りからだったけれど、 こういう終わりが悪い筈が無い。 朝になれば誰かが気づくだろう。 子供だったら、少し辛い。 けれど出来るなら、 私も穏やかな顔で、 そうすればきっと、 安堵してくれるだろう。 そして老人は、瞼を閉じた。
by 軍鶏
hollowじゃ欠片も出番が無かったベディヴィエール… きっと士郎よりも一途にセイバーを思ってるのですよ。彼は
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