衛宮邸の朝は早い。 私も普段はその早さにあわせているのだが、昨日珍しく悪酔いしたために今日はうっかり寝過ごしてしまった。 運良く今日のバイトは休みだ。 いや、そうでなかったらいくらなんでも起こされただろうし、何より飲みすぎたりしないだろうが。 しかし、そんな風に目を覚まして居間に向かうと―― 「なんだ、いたのかライダー」 黒いセイバーが、そこにいた。 何だこれは、何の冗談だ？ 寝坊に対する制裁にしても、これはあまりにも性質が悪すぎる。 黒いセイバーは大量に用意されたハンバーガーを親の敵の用にむさぼり喰らいながら、私の事など意に介さずに食事を続けている。 その対面にはラップのかけられた私の朝食。 ラップの上にはメモが置いてあり、そこにはサクラと士郎、両方からの謝罪の言葉が書かれていた。 ＜ゴメン、後はヨロシク頼む＞ ＜セイバーさんをヨロシク、それとゴメンナサイ＞ ……これはあまりにも酷なお仕置きではないでしょうか。 いえ、二人ともに悪気が無いのは分かります。 このメモにも、何度も書き直しの跡がありますしね。 ――問題は、薄れている文字の全てが謝罪文という事でしょうが。 私は横目でハンバーガーを貪るセイバー（黒）を見ました。 食べるのに夢中なのか、それとも私の事などすでに眼中に無いのか、最初の挨拶にもならない一言から、彼女は一言も口を利きません。 今の彼女の姿は問題ですが、どうやらそこまで害悪となりうるわけでも無いようです。 単純にただ様子を見ていればやがて士郎やサクラも帰ってくるでしょう。 会話はありませんが、私自身仲良くお喋りする趣味を持ち合わせているわけでもありませんし。 それにしても随分と多いですね、このハンバーガーは。 果たしてこれは昼食なのか朝食なのか、それとも両方兼ねているなのか。 一心不乱に山積みのハンバーガーを食べ続ける剣のサーヴァントの姿を、私は呆れつつ眺めます。 ――それは、食べるという行為のみを突き詰めた故の奇跡の業でした。 山は、この前テレビで見た早回し映像のような早さで小さくなっていきます。 あっというまにその半分まで減る山。 ちなみに私の朝食はラップすら取っていません。 ……普段のセイバーより、１．２５倍くらいは速いですね。 そして、私がフォークを冷めた卵焼きに突き刺すと同時に、山は跡形もなく消え去りました。 「……セイバー、食べすぎではありませんか？」 「いや、腹八分目だ」 断言されました。 どう反応しろと言うのですか。 私が反応に困っていると、突如セイバーは立ち上がります。 そして、無言で居間から出て行きます。 ――行動がまったく理解できないのですが。 普段のセイバーと違って、その表情の読みにくいこと。 が、何故か嫌な予感がした私は、朝食も食べずにセイバーの後を追っかけました。 廊下に出ると、すぐさま視界に入る、玄関から外に出ようとするセイバーの姿。 「セイバー、何処へ行く気ですか？」 「シロウに会いに行く」 「士郎は学校です、帰ってくるまで待ちましょう」 「いや、今会う」 何と自己中な意見でしょうか。 問答無用というか相手の事情お構いなしというか。 「シロウは卑劣にも食い物で私の足を止めたつもりだが、騎士王にはそんな愚策は通用しない」 「――完食されてからそう言われても」 なるほど、あの大量のハンバーガーは足止め用でしたか。 ではあのメモは、つまるところ足止め仕切れなかった時のフォローを私に任せた、と判断するべきなんですかね？　要するに。 ああ、なんて厄介な。 「セイバー、待ちなさい」 「断る」 二の次告げず外に出るセイバー。 どうやら説得は不可能なようです。 ……仕方ありません。 サクラやシロウに頼まれた以上、どんな手段を用いてでもセイバーを止めなくては。 私はセイバーの頭上を飛び越えると、彼女の前に立ちふさがりました。 「――やる気か？」 「ええ、二人に頼まれましたから」 「面白い、騎乗兵風情が私の愛を止められると思うなよ」 「……愛、ですか？」 恐らくは士郎に対する愛なのでしょうけど。 それは今何一つ関係ないような。 というか、今の貴女の姿はどこぞの英雄王の姿と被って見えます。 「私はシロウに会う。どんな障害も、それを阻むことは出来んのだ」 セイバーが黒い鎧と黒い聖剣で武装する。 私も、すかさず衣装を戦闘用に切り替えた。 「私に勝てるか？　今はシロウもサクラもお前を助けてはくれんぞ」 「ご安心を、年中魔力不足の貴女と違って、私には魔力が有り余っていますから」 もしもの時には自主的に補給できますし……士郎から。 「……今、確実にお前を斬る理由が増えた気がする」 「気のせいでしょう」 少しずつ距離が縮んでいく。 ――その日、衛宮邸前は戦場となった。 サクラと士郎が帰ってきたのは、それから三時間後の事でした。 ですから一応私の勝ちです。 ええ、長い戦闘の結果衛宮邸前がボロボロになってサクラに大層怒られたとしても、その後始末のためにカレンやイリヤに大きな借りが出来たとリンが愚痴りつつ私を非難していても、勝ちは勝ちです。 それに元に戻ったセイバーもこってり絞られたのですから、痛み分けです。痛み分け。 「……ですからサクラ、そろそろ勘弁してくれませんか？」 「くすくす、まだですよ。ライダーにはもう少し反省してもらわないといけませんから」 一応言いますが、後悔はしてません。 ただまぁ、次に黒いセイバーの面倒を任されたときはもう少し穏便にしようと、少しだけ反省はしました。 そして、もう二度と悪酔いはしまいと心に誓うのでした。 END

by ラリアー

ライダーが大好きなので、こんなSSを書いてみました。
そして黒セイバーも好きなので、登場させてみました。
結局何がしたいのかワカラナイSSでしたが、ライダーと黒セイバーを応援しようとする意思はできるだけ込めました。
目指せライダーTOP3入りだ！

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