１０月８日、夕刻。 　「きゃあああああああああーーーーー！！！」 　衛宮家を切り裂く悲鳴に反応し、士郎は全速で廊下を駆け抜けていた。 　平和に腑抜けた自身を呪う。ここは冬木。世界の表にあらざるものが少なからず住まう地。たとえ聖杯戦争が終わろうとも、守るべき存在に害をなすものが現れる可能性を考えなければならなかったのだ… 　「たのむ、間に合ってくれ！」 　最速のコーナリングで最後の角を曲がる。 その先には……… 　「まあ、実際変化は無いわけですが」 　「だめー！くじけそうになる発言は禁止ーーー！」 　完全武装で、たたずむライダーと、 　崩れかけた膝をささえ、苦悶の表情で立つ桜がいた。 「桜、大丈夫か、けがはないか。俺はてっきり……」 「てっきり何なんですか、先輩？」 「なんと考えたのですか、シロウ？」 　目の前にいるのは、『胸の前組み手＋上目使い＋ほんのり上気した顔』の強力コンボ使用の桜と、チィシャ猫笑いを顔に貼り付けたライダー。変わり身早すぎるぞ、おまえら。 「えっと、だからな、その…」 「答えてください、ね。先輩」 「言ってもらわなければ分からないのですが、シロウ」 　く、言えない、恥ずかしくて言えない。 　が、言わずしてこの結界を突破できるのか衛宮士郎ッーーー。 「さ、さくらが、」 「私が？」 「サクラが？」 「…………敵に襲われてると思ったからだよ！！！」 　結局、わずかな抵抗もこの最強乙女結界にはかなわないのであった。合掌。 「せんぱい、私を心配してくれたんですね、うっうっ…」 「サクラ、胸を張りなさい。あなたは愛されてここに在る存在なのです」 「アノ、コノコユウケッカイヲトイテクレマセンカ」 　この光景は、結界が世界に塗りつぶされるまで続いたのだった。 「なんであんな悲鳴を上げたんだ、桜。しかもライダー、お前、完全武装してたろ。あれじゃ勘違いもするぞ」 「えっと〜」 「あのですね、シロウ」 「お願い言わないでライダー。先輩には、先輩だけにはっ！」 　視線を落とし、そして俺は納得できた。 　 　桜の足元には、 　世間において体重計と呼ばれるモノがあった。 −Interlude　Start− 時は少々遡る。 「それではお暇いたします」 「ではお大事に」 　 　対石化セービングスローを失敗した桜を引きずってライダーが部屋を出て行く。 『ふっ、10ペナルティ付きだ。当然の結果だろうな』 「……はっ？」 　いま、いないはずのヤツの声が聞こえたぞ。しかも言ってる内容は聖杯戦争とは全く関係無い。はっ！　もしかしてこれが「世界の意思」というやつか。 　…多分違うと思うぞ、士郎。 −Interlude　End− 「ダイエット？」 「シロウ、その通りです。サクラが言い出しまして。本日の昼より実行しています」 「それで、どうだったの」 「うふふ、聞きたいですか、センパイ？」 「イエ、ケッコウデ…」 「結論から言えば、変化はありません」 「ライダー！」 「この場合、隠しても無駄と判断しました。むしろ大切なのは、シロウがあなたをどう見ているかではないのですか？サクラ」 「え、え、え」 「答えていただきたいのですが、シロウ。シロウはいまのサクラをどう見てらっしゃるのですか」 　今、俺は究極の選択を迫られているというのか。誤れば「道場」直行とか… 　ってちょっとまて、『道場』ってなんなのさ。 『…気にするな、この世には決して知ってはならないことがある。』 はっ、またヤツの声が…っていかん、今に集中せねば。落ち着け、クールになれ、そして考えろ。最善を探せ、それは必ずそこに在るッ！ 　キュピーン！！！ 「桜、俺は、俺はッ」 「せ、先輩っ」 「ちょっとぽっちゃりしている桜も好きだっ！！！これだけは―――決して、間違いなんかじゃないんだから……！」 「………」 「………」 「センパイ」 あれ、ジガイツモトチガイマスヨ。 「うふふ、うふふふ、そうなんですね。センパイもワタシがフトッテイルとオモッテるんですね。うふふ、うふふふ」 「えと、違うんだ桜、その」 「先輩の」 「ばかあああああああああああああああああああああ！！！！！」 　光速の平手が閃き、ソニックブームを曳いて桜は駆け去ってしまった。 「やはり、シロウは朴念仁ですね」 ため息をつくライダー。 「しかし、シロウはサクラに甘い。案外、遠くない道なのかもしれませんね。サクラ」 この声は二人には届かなかった。 　その後、理由も無く遠坂にぼこぼこにされた。（あのセリフをつかうんじゃないーーーって怒鳴られたけど、なんでさ？） 　そしてそれから３日ほど、食卓にはいつもと異なる料理が並び、セイバー以外には概ね好評だった。作る量はいつもより多くなったので大変だったが。 　そして１０月１１日、夜。 「ライダー、これって、これって」 「ええ、確かに１キログラムほど前回より減少しています」 「やった、やった。やった〜♪」 「良かったですね、サクラ」 「ふふふ、見てらっしゃい姉さん。私は、負けません」 しかし、ここは所詮４日のみの箱庭。当然のごとく 「きゃあああああああああーーーーー！！！」 歴史は繰り返すのであった。 おわれ −　おまけ　− 　泡沫の４日間は跡形も無く消え、役者たちの記憶には残っていない。 しかし、その４日間は役者たちの深層意識に確実に影響を与えた。脳は覚えていなくても 魂が覚えていたのだ。 　繰り返す４日間の中で供され続けた健康ダイエット料理は桜の食生活を劇的に変え、ライダーとともに繰り返されたダイエットの運動は日常のそれとなり、繰り返された士郎の告白は確かな自信として桜に根付き、士郎を変えた。 　 　健康な生活は、健康な肉体と精神を育む。 　以前にも増して磨かれたプロポーションは人々を振り向かせ、影を払拭した笑顔は彼女をよりいっそう魅力的にする。元々の素質は凛と同等。彼女は日陰の花から、太陽の下で咲く向日葵へと変貌していく。なぜならば… 「じゃ先輩、行きましょうか」 「ああ、せめて卒業までは一緒に行きたいからな」 「…お願いだから朝っぱらから世界を作らないでくれるかしら？」 「なにか言いましたか、遠坂先輩…いえ姉さん」 「ふん。今に見ていなさい」 「ええ、待ってます、姉さん。といっても負けるつもりなんてないですけど」 長い夜は明けて、桜の前には彼女を照らす太陽があるのだから。 …………ってエンドがあったらいいなあ。

by あんくん

実はfateのSSは初めてだったりします。
しかもギャグでベタ。あああ、反応が怖い。

桜応援用です。
今度こそ、我がサーバントよりうえにっ！

こんなですが、読んでもらえるとうれしいです。ぺこり。

補足
セービングスロー：古典ＴＲＰＧのＤ＆Ｄにおいて使われる抵抗判定。２〜２０まで有り、低いほど有利。
判定時２０面ダイスを振り、自身の値以上ならＯＫ。
１０ペナルティとは、判定時出目から１０を引くという意味。
よほどのことがないと成功しませんこうなると。
Ｄ＆ＤにおけるＳＴは種類が少なく、ＧＭは状況に応じて当てはまるＳＴを決めていた。そのため同じ状況なのにＧＭが違うと使うＳＴが違ったりした。
そうか、ＴＭのＧＭ（多分きのこさん）の場合忍耐は対石化ＳＴなのか。

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