白衣のあくま
ぷちん、ぷちん。 「この雑草結構綺麗な花をつけているな・・・」 独り言を言いながら庭で命じられた草むしりをしていると 上から途端に声がした。 自分の、アーチャーの名前を呼ぶ声。 その声は・・・名前の通り凛と透き通っていて・・・ 待て。 茶を淹れろとかしょうもない用事じゃないだろうな。 だったらマスターには地獄に堕ちてもらおう。今度こそ。 大体自分は茶坊主でもなければ庭師でもないというのに。 そう思いながらも「今行く」と短く残して アーチャーは凛の部屋に急ぐ。 今からさかのぼること5分前。 「・・・ぅん・・・退屈ぅ・・・」 自室のベッドに横になりながら 凛はごろごろと身をよじる。 実際、退屈であってはいけないのだが。 自分の悲願ともいえる聖杯戦争が始まった。 アーチャーというパートナーも得た。召喚できた。 うん。私完璧。最強凛様。 そう薄い胸を張る。 ・・・しかし何でこう退屈なんだろう。 「・・・こっちから打って出れないのよね・・・」 戦力として頼れる弓兵は 先日の剣兵・・・衛宮士郎のサーバント、セイバーとの対決で 怪我をしたまま回復が遅い。 こんな状態じゃ他のサーバントと出会ったら即アウト。 ・・・家事をするのに支障はないようなので 家事を・・・今は草むしりを・・・してもらっているのだが・・・ 「そもそも・・・私アーチャーのことよく知らない・・・」 奴は自分の生前の名前・・・「真名」すら忘れたへっぽこサーバント。 彼の能力は私にも未知数だ。 「・・・知らないのなら知る状態にする。 それが魔術師ってものよね」 よしっと起き上がると 小さなテーブルを出し キャスターの付いた椅子を二つ持ってきてテーブルを挟んで置いて クローゼットから白衣・・・なんてもってないから 白いコートを羽織り 最後に伊達眼鏡。 鏡の前でくるり一回転。 「・・・完璧!」 コンコン、と控えめにそれでいてちゃんと聞こえるように気を使いノックをする。 霊体にもなれるこの体でそれは無意味なような気がするが。 さらに、向こうから呼んだんだ。不都合もあるまいが そこはそれ。相手は女の子だから。 「はい、次の方どうぞ」 ああ、相変わらず綺麗な声だ。 こんな声で、あんな顔であんな性悪だと あの衛宮士郎が知るのはいつだろうか。 そのときは是非凛の横に居合わせたい・・・。 どんな顔をするのか確かめたい。 自虐行為のような気が激しくするが・・・。 静かにドアを開け彼女の部屋に入る。 ・・・正直、絶句した。 この寒さの中でも、なお違和感のある白いミンクのコート。 あんなものを彼女は所有しているのか。 彼女の母親か。一体どんな親だ。顔を見てみたい。純粋な好奇心で。 正直着こなしているようには見えない。 あんなものを着こなせるのは某ゴージャス姉妹くらいのもので・・・ それに全く逆属性の黒ブチ眼鏡。 どこのお局だ、そんな眼鏡。 「はい、アーチャーさんですね。そちらにおかけください。」 なんだその他人行儀。他人だが。 ・・・凛の真意がわからない以上、今は従うしかない。 「今日はどのような用事で?」 それはこっちのセリフだ。 「ふむふむ・・・」 こっちをきれいに無視して手元のカルテ・・・なのかあのボード・・・に目をおとす。 「お名前を忘れた・・・重病ですねー。 他のセンセイならお手上げですよー」 バカにしているのか。 それとも、やはり凛は今の自分に不満なんだろうか。 名前を聞いても答えられないサーバントは役立たずか、やはり。 「・・・しかしこの遠坂センセイなら違います。 貴方の能力、出来ることを洗い出し かつ私の分析を加えることで あなたのお名前を取り戻しちゃいます!! それが遠坂クリニックのすごいところ!!」 指をびしっと立てて ずずいっとこっちに寄って来る。 そうか、これは医者の真似だったのか。 凛は健康そうだから医者の世話になったことがないらしい、本気で。 じゃなきゃこんな偏見たっぷりの医者のコスプレなんてするものか。 「・・・マスターとして出来ることなんてそんなにないんだから 遠坂センセイに華を持たせて下さい。アーチャーさん」 途端に不安そうな表情になりこっちをじっと見る。 まるで猫の目のようだ。と苦笑する。 「そうですか、それは頼もしい。 よろしくお願いします、遠坂センセイ」 素直に、頭を下げてやる。 こんな他愛のないことでも マスターが自分の身を案じてくれていることはありがたい。 信頼関係も深まるというものだ。 それに二人でこうして冷静に分析することで 本当に得るものがあるかもしれないし。 「はいはい。共に最善の手を尽くしましょう。 ・・・そうと決まったらアーチャーさん。お茶です」 「は?」 どこの世界に患者に茶をせびる医者がいる。 ・・・ここにいるか。このエセ医者。 「ちょっと暑いですからアイスティーがいいです」 地獄に堕ちろ、このあくま。 二杯のアイスティーをテーブルに並べて ふたりでアレコレ語り合う。 遠くを見通せる目。 割とよくはたらく聴覚。 白い髪に浅黒い肌。 民族が特定できないな、と凛が愚痴をこぼす。 敏捷性は・・・あの槍兵に比べたら劣る。 耐性もよろしくない。 それからそれから・・・ 大体の物の構造が分かる特技。 現にだだっ広い遠坂邸と 入り組んでいる衛宮邸の家の構造は 平面図が書ける位しっかり把握できている。 「あとは家事かしら? 本当に弓兵には要らない能力ばっかり」 「五月蠅い。」 「書き出してみたけど さらに分からなくなってきた。 アーチャー。あなた本当に英雄?」 「・・・世の中には色んな英雄がいるんだ!!」 「まあ・・・いいけどねどうだって」 そういってアイスティーの最後の一口を飲む。 ズコーっと氷とストローがマヌケな音を立てる。 「そう・・・どうだっていいの。 貴方は私の最強の僕。 そのことに変わりはないのだから、ね」 コトっと音を立ててグラスを置く。 未だ溶けない氷が音を立てる。 「それで?今の言葉が結論ですか?遠坂センセイ」 すると、むぅと頬を膨らませた凛は 「そんな抽象的かつ一歩も先に進んでない結論 魔術師としてちょっと癪だわ。 ここからは私の考察を開始するわ。 お茶のおかわりお願い。」 下手に逆らっても自分が動きにくくなるだけなので 素直に下に降りて紅茶を淹れ直すことにする。 一杯目はストレートだったから二杯目はミルクティーにしようかと だったら少し蒸らす時間を長くして・・・と 凛の喜ぶ顔が見たくて 色々考えながら。 メモに色々書いた下に 思いついたことを書いていく。 初めて会った時 何を思った? 私ほどの魔術師なら そういった印象とか直感とかいうものも 結構侮れなかったりする・・・・。 初めて会った時・・・ セイバー召喚に成功した!と思って 地下から上に上がったら そこにアイツがいて・・・。 思ったことは あの夕焼けの中の 高跳びの少年・・・・・ 「・・・結局なにも分からないじゃない。 ・・・結果はコレね」 メモの下に赤で 「色々キザだがカッコイイ」 それだけ書いて 抽象的かつ一歩も先に進んでない 遠坂クリニックは 閉院と相成った。
by 文月みさき
弓主従コンビが大好きです。 ぜひ今度は1・2フィーーーーッシュ! ・・・ではなく、 1・2フィニッシュをキメてください!
<<PREV<<
>>NEXT>>
一つ戻る
一覧へ戻る