hollow of side archer
その日も。 その場所は風を受けていた。 時刻は午前零時を回った所だろうか。 空は高く、月は蒼く・・・この街で一番空に近い場所は、静かに時を刻んでいる。 どこにでもあるような平和なその夜。 声高に、願いを欲する声があった。 「・・・・・・」 奇妙な夜である。静かでもなく、うるさくもなく、ただ、ひたすらに声を上げ続ける獣達。 再開された聖杯戦争、誰一人欠ける事無く存在するサーヴァント。異常を異常と思えない人々。 それは静かに侵食を開始し、誰にも気付かれずにその街に溶け込んでいった。 幻想。 それが当然のようにそこにあり、今のこの状況を形作っている。 視線を上から、元の場所に戻す。 ビルの真下、大通りに面する駅近くの広場。 そこには今も、大量の獣と対峙する、2人の姿が見えた。 「・・・なるほどな」 1つ頷き、思案するように目を閉じた。 この状況を作り出している犯人と、利用されているその人物。 あろう事か、この「事件」の「主犯格」は彼が最も嫌う人物の姿形を真似ているらしい。 まったく。 あの生き方を真似るなど、正気の沙汰とは思えない。 少なくとも、彼自身は・・・いや、彼だからこそ、その行為は理解できない、否定したいものであった。 「鏡写しの幻影(ホロゥ)か・・・真逆なのによく似ているとは、正に的を得た表現だな」 かつての彼自身を鑑みる。 正義の味方。それこそが彼自身の全てであり、掛け替えの無い大切な物であり、それ故に歪み破綻した心の在り方。 それを美しいと感じていた自分自身。 ツギハギでも頑張っていける。そう思い、只管に貫き続けた信念。 それらの思いは、彼自身が英霊・・・念願の正義の味方になって、戦い続けることでいつも彼を悩ませる存在となっていった。 どうしようもない矛盾。 救いたい者を救えない葛藤。 いつしか、正義の味方こそが、忌むべき存在となっていったのは、いつからだったろうか。 「・・・やれやれ、どうやら色々と厄介な事になりそうだな」 呟いて、その戦いに背を向ける。 ―――その場に聞こえる不協和音――― これは、泡沫の夢。いつかは終わりを告げる楽園。 「奴」の目的は分かっている。そのために必要な事を行なっているのだと理解できる。 ただ、一度憧れてみたかったと言うのが「あいつ」である事は、出来過ぎな気が しないでも無かったが。 ―――徐々にその数を増していく、獣の群れ それは、いつしか目に映った、骸が連なる、あの丘を思い出す――― だが、それはこちらにとっても都合が良い。 「奴」が「あいつ」として目指すその先、自分とぶつかる日は必ず来る。 その時こそ・・・ ―――身を染める聖骸布は無い。 それは自らに課した戦いにのみ使用される、いわば決意の証――― 「―――投影、開始」 両手に生まれる、慣れた感触。 周りの異形の群達が、反応したようにこちらへ目を向ける。 「良いだろうアヴェンジャー。お前に『望み』があるように・・・」 ―――高々と上げた双剣は月に照らされ、美しき刀身を惜しみなく晒す。 それは狩人の牙のように、月夜の下で光を散らした。 「私も、私のこの『望み』に従うとしよう!!」 叫ぶように放った言葉は風に呑まれ。 弓兵らしからぬ弓兵は、込めた力を解き放つように、果敢に異形の群へ 切り込んで行った―――。 全てが終ったその後で、1人佇む彼は呟く。 体を、聖骸布ではない朱で染め上げながら。 「決着をつけるぞ、衛宮士郎」
by 我流
何と言うか・・・屋上のあの血が 気になって気になって夜も眠れなくなったんで、 想像で書いてみました(笑) 違うんだろうな。やっぱり・・・ お目汚し失礼しますた。
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