しすたーくらいしす2
「それではここに―――! 第一回『衛宮家姉王者頂上決戦』を開催するっ!!」 こうして、本日二度目のゴング(皿)が鳴らされ、狂乱の宴が幕を開けた。 ・・・ごめん、寝ていい?っていうか、寝せて下さい。 いつから我が家は法律が通じない治外法権区域になったのでしょうか。 みんな、お酒は二十歳になってから。 「・・・落ち着け。戦場では冷静さ失った奴から死んでいく。ビー・クール」 とりあえず、気を落ち着けるためにお茶を飲む俺。 「さてさて、始まりました姉王者決定戦っ! 司会は引き続き、私、遠坂凛っ! そして、解説の藤村親方はというと、 年も考えずに選手サイドに回ってしまったため、新しい解説をお呼びしておりますっ! この方たちですっ!どうぞっ!」 「セラです。」 「リーゼリット。こんばんはシロウ。ぐーてんたーく。」 ぶほぅっっっ!!! 死にました、即死です。 いつの間に来たのか遠坂の隣には二人のメイドが。 「???シロウ、お茶吹くのはマナー違反。めっ。」 「エミヤ様、貴方は人として最低限のマナーも守れないのですか? まぁ、もともと見るべきところが無いのですから、 見損ないようが無いのですけれど。」 そして、ピンポイントに追い討ちをかける黒メイド。 なんでさ、俺、なんかした? いや、確かにお茶を吹いたが。それは仕方ないというか、如何ともしがたいというか、 俺の驚きを察して? 「では、解説の方もそろった所で。 まずは、選手紹介から始めたいと思います! セラさん、リズさん語彙の貯蔵は十分か?」 「もとよりこの身は、ただそれだけに特化した魔術回路。 否も応もありません。」 「がんばる。」 お茶の間には、俺の意思そっちのけで司会進行をしている赤い悪魔とメイドコンビ。 あまりの異次元ッぷりに、俺の意識は奈落の底へ――― 「落ちてたまるかっっ! なんなんだよっ!さっきからっ!いったい何が始まるんだよっ!」 ここで家主の威厳を示しておかないと収拾がつかなくなる。 何とかこの三人を押し留めようと「なによ、聞いてなかったの?」「エミヤ様。話の腰を折るのもエチケットに反します。」「シロウ。空気読む。」 する暇も無い。なんでさ。 「レディス・エーンド・シロウ! これより姉王者頂上決戦、無制限一本勝負を始めます! 廊下第一ゲートより、 チーム『聞け!サーヴァントの雄叫びを』ライダー・セイバー組の入場ですっ!」 「入場テーマは『クイーン』の『ウィ・ウィル・ロック・ユー』ですか。 おそらく、セイバーによる選曲でしょう。 さすがはブリテンの王、良い選曲です。選手の勝利への強い渇望が伺えます。 まぁ、この騒々しさは私の趣味ではありませんが。」 「セラ、私も足踏みしたい♪」 「やめなさい。はしたない。」 「セェェェェェイバアアアァァァァ&ラアアァァァイダアアアァァァァ! 私たちをあっと言わせる事ができるのかっ! ・・・続きまして、廊下第二ゲートより、 チーム『愛は奪うか殺すか飲み込むかっ』イリヤ・桜組の入場だー!」 「入場テーマは、『セックス・ピストルズ』の『シド・ヴィシャス』ボーカルによる『マイ・ ウェイ』です。 この退廃的ですがパワーは有り余っている感じは間違いなく、間桐さんの選曲ですね。 まったく、お嬢様にはもっと典雅で優雅な曲が似合うというのに・・・ この辺りに彼女の本性が垣間見えます。」 「イリヤは自分の道を行く。ふぁい♪」 「イィィィィリヤアアアァァァァ&サアアァァァクラアアアァァァァ! 己の道をゴーインにマイ・ウェイ! 桜は曲の趣味までアングラなのか!イリヤは飲まれないよう注意せよ! ・・・最後になりました。台所ゲートより、 チーム『孤高の虎は一人戦場に』藤村組タイガ!入場っ! って、へ?」 「・・・この入場テーマは『ロッキーのテーマ』ですね。 コメントは差し控えさせていただきます。」 「ぴったり。」 「そうね、あまりの違和感の無さに素に戻ってしまったわ。 あ、タイガーです。」 「誰が虎かっ!タイガーかっ!」 いや、突っ込み所はそこじゃない、ってか・・・ どこから突っ込めば・・・ 「っていうか遠坂さん、なんでチームなの? あと、何で私だけ一人で藤村組なの?」 「はい、良くぞ聞いてくれました。 今回は姉王者決定のため、姉属性の強い、藤村先生、ライダー、イリヤの三人で競っていただ き姉王を決定していただきます。 そして、セイバーと桜にセコンドとして付いていただきました。 さすがに属性がちょっと違うので。」 「ん〜、セイバーちゃんと桜ちゃんは分かるけど、イリヤちゃんは? さすがにイリヤちゃんは無理がない?」 「なに言ってるの、タイガ。シロウのお姉ちゃんはこのわたし。 ただの年増とお姉ちゃんの違いを教えてあげる。徹底的にね。」 「いやー!この悪魔っ子、日に日に私を追い詰めます! 今の私は船の舳先で飛んでます、私飛んでるのYO!」 まずは、後ろから支えてくれる人を見つけろ。藤ねえ。 ・・・もういい、誰でもいいからこの狂乱の宴を止めてください。 それだけが私の望みです・・・ 《第一ラウンド》 〈姉的エピソード〉 【ライダー】 「第一ラウンドは選手の姉度を測るため、姉としてのエピソードを話して頂きます!」 「最初の立ち上がりでいかに相手を怯ませるか。 相手のペースを乱すか、自分のスタイルを貫くか。 戦いはすでに始まっています。」 「戦うと決めたらそこから戦い。油断せず行く。」 見事なチームワークを見せる放送席。そのチームワークを別の所に回せ。 「では、まずは私が。」 「おおっと、全国の大きいお兄ちゃん憧れの的! 貴方の大事なところ(心)を一撃必殺カチカチに! どじっ子属性デフォルト装備なメガネの素敵なお姉さん、ライダーの登場です!」 まずはライダーか、まあ大人なライダーの事だからそんなに危ない事にはならないだろう。 「ライダー、貴方は確か末っ子でしょう。姉のエピソードは難しいのでは?」 「問題ありません、セイバー。この間の話をしますので。」 「「「「この間の話?」」」」 「ええ、私の服を見立てに士郎が新都まで付き合ってくれたのです。」 「ほぅ、それは初耳です。」 うう・・・周りの視線が痛い。針のむしろの様な・・・ あ、あれは桜の頼みで・・・確かに途中からは自分が楽しんだような。 いや、そんな余裕は無かった。うん。 「あれは、十月のある日のこと。その日は秋晴れでまさにデート日和でした・・・ ―――――『姉弟遊技』より――――― ・・・そうして照れているのを隠そうとして隠しきれていない士郎に、親愛の情を感じたのを まるで昨日の事の様に覚えています。」 「ほぉ〜、私と下着売り場に行くと言っておきながら・・・」 「ふ〜ん、額にねぇ〜。わたしじゃ届かないしね〜。」 「まさに獅子身中の虫というか飼い犬に手を噛まれるというか・・」 「私がタイガー号でハチロクと下り最速を競っている間にそんなイベントがぁ!」 視線の鋭さが針からゲイボルクへレベルアップ。 俺の心(臓)は穿たれまくりです。あれ・・・痛いんだよな・・・ 「のっけから激しいラッシュです!ニャンプシーロールも目じゃ在りません! いかがですか、解説のセラさん。」 「そうですね、年下の少年に連れられショッピング。顔を赤くしながらも手を握る少年。 お店では少年の純情さを突っつきながらの楽しい買い物。 『彼女はその、俺の姉みたいなもので!』 『可愛いでしょう?恥ずかしがり屋さんなのです』 大人の余裕でトドメの決め台詞。 『私のを見たくありませんか?』 流れるような姉コンボ。なるほど、前回四位はダテでは無いと言った所でしょう。」 「さすが、三十位の人の言葉は胸にきます。」 「なっ!順位の事はイイのです!あのような物で私のホムンクルスとしての価値が下がる訳では ありませんっ! 私たちは生まれた時に存在意義は自然から引き継いでいるのですっ! 人間の人気など取るに足らぬ些末な事なのですっ!」 「でもセラ、ちょっと涙目になってた。」 「リーゼリットッ!貴方もちゃっかり何を言っているのです! 勝手に過去を捏造するのはおやめなさいっ!」 「私、二十三位、勝った♪」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!」 仲良く喧嘩するメイドの喧騒が遠い。 竜牙兵も殺せそうなオーラが渦巻くお茶の間中央。 一発目でこれじゃあ、バーサーカーでもなきゃ生き残れない。 「まさか、ゲイボルクに刺されたいと思う日が来るとは・・・」 俺のつぶやきは中央のオーラに飲まれ、誰の耳に入る事も無く消えていった。 【タイガ】 「次はわたしね。士郎を育てて来た年月はダテじゃないんだから。」 「おおっと、二番手は(いちおー)本命、藤村タイガ。 士郎のどんな嬉し恥ずかしエピソードが出てくるのか!これは期待できますっ!」 「ええ。子供の頃の想い出は姉のエピソードには欠かせません。 言わば一種の宝具と言っても過言ではありません。」 「士郎の子供の頃?わくわく♪」 狼少年ならぬ虎少年。もしも、藤ねえに育てられていたら、俺は今ごろどっかの道場で師匠とブルマの間でお茶くみをしている。 ・・・なんか平行世界を垣間見たような? 「っと、藤ねえ。いったい何の話をするつもりだよ?」 「ん〜?士郎と始めて一緒にお風呂に入った時の話とか?」 「ほう」「・・・・・・」 「また、お兄ちゃん泣いちゃうよ。タイガ。」「私は聞いてみたいです。」 「へぇ〜、衛宮君がねぇ♪」「ふしだらな。」「?バーデツィマー?」 くっ、みんな他人事だと思って。 「止めろ。あれは俺のPTSDだ。あの話をするなら俺は全力で止めるぞ。」 ああ、投影も辞さんぞ。 「ええ〜。おもしろいよ〜。なんで〜?」 「な・ん・で・も!他に無いならパスだパス!」 「あるわよ〜、そういうのなら幾らでも♪ じゃあねえ、士郎がわたしの事を『藤ねえ』って呼ぶようになった時の話は〜?」 あ〜、そういえば、気が付いたら藤ねえが当たり前で気にしてなかったが・・・ いつからだ?『藤ねえ』を『藤ねえ』って呼び出したのは。 「あれはねえ、十年位前のことでねえ。 士郎が公園の覇権を賭けて争っていた時の事なんだけどね。」 「ほう、シロウはそのような小さい時から戦場に立っていたのですか?タイガ。」 「ん〜、戦場っていうか、この近くって大きい公園が一つしかないのよ。 でね、この近くの子達って、その公園の覇権をかけて戦うのが伝統なんだけど。 士郎の時ってちょっと特殊でね、この辺りの大きいグループを吸収合併していくカリスマがい たの。 もー、そのやり方といったらライブ〇アが手本にする位でねー。 ほんの一月位で一大勢力を築いて、仲間以外の子達を公園から追い出しちゃったのよ。」 「藤村先生、父兄の方たちは何も言わなかったんですか?」 「うん。ここで育った人は自分も通った道だし。 そのカリスマもいじめをしてた訳じゃないの。 遊具はちゃんと順番を守って皆で使うし。 年長の子で見回りなんかもして、小さい子が怪我しない様にしたり。 ゴミなんかも片付けたりして、環境美化もそつなくこなすし。 入りたいって言う子はちゃんと仲間に入れてあげてたしねー。 カリスマが出てからの方が公園で怪我する子は減ったんじゃないかな〜。」 「では何が問題なのですか? 一人の王が皆をまとめるのは理にかなった事のように思うのですが。」 「まあ、大人から見ればそうだけど。子供から見るとね〜。 そういうルールが合わない子もやっぱりいるのよ。 でもそれに関しては見捨てるって言うか。十の内、九をきっちりする為に一を切り捨てるって 感じなのよ。」 「む、それは・・・王としては・・・正しいはずです。」 「セイバーちゃん、その意見は九の側にいる人間の意見ね。 一の側からすれば一方的に遊び場を取られちゃったのよ?」 「それは・・・そうですが・・・」 「しかぁ〜し、そこで立ち上がったのが幼き日の士郎なのよー!」 「「「「おおおぉぉぉぉぉ〜〜〜」」」」 何で自分の覚えてない子供の時の話って、こんなに恥ずかしいんだ。 一種のいじめか?放置系の。 「士郎に寄せられる悲痛の叫び 『衛宮君助けてよ、あの子にはついて行けない』 『公園のルールは一人一人のモラルの問題だろ!』 『もっと自由に遊びたいよー』 虐げられていた子供達の声が士郎を立ち上がらせた! 公園に乗り込む士郎、 『お前たちのボスの所に案内しろっ!』 『生意気なっ!ボスはジャングルジムにいる! ボスに会いたいなら俺達の屍をこえて行けぇぇっ』 『俺はただみんなを幸せにしたいんだ!君達と戦いたいわけじゃないっ!』 『なにぃ!俺を踏み台にしただとぉ!』 『今だっ!衛宮っ!ここは俺たちに任せて行け―!!』 走る士郎!悪の根城『雷雲宝石ジャングルジム』に待ち受けていたのはなんと!」 「「「「なんと!?」」」」 「予想を裏切りフリフリの服を着た女の子(仮名メイデンちゃん)だった! 『くっ!いきなりラスボスかっ!?』 『ふふふ、よくここまで来れたわね。正義の味方さん。 でも、それもここまでよ。私の決めたルールに従がえない奴らは排除させてもらうわ!』 『俺たちは・・・腐ったみかんなんかじゃないっっっ!』」 「それで、どうなったのですか?」 「うん、士郎が勝って公園は元通りになったよー」 「さすがはシロウです。」 「ところで、それでどのようにタイガとつながるのですか? 話の中にタイガは一度も出てきませんでしたが・・・」 さすがはライダー、あの悪電波に毒される事無く冷静に突っ込みを。 「ああ、その後すぐにメイデンちゃんが家に来てねー。 『あいつを出さないとひどい目にあうわよ』って。 なんか手をピカピカさせて来たんだけど。 振りかぶった所でフリフリの裾を踏んじゃってねー、思いっきり転んじゃったの。 すごいのよー、あまりの勢いに爆発したんだから、ド――――ンって。」 「「「「ば、爆発っ!」」」」 「うん、メイデンちゃんススだらけになっちゃってねえー。 『あいつの送ってくる服なんかもう二度と着ないんだからぁぁぁーー』って、 泣きながら帰って行ったの。 でー、泣きながら帰って行くメイデンちゃんを見た士郎が、 『あいつを倒すなんて!?大河、いや、藤ねえ。俺に修行をつけてくれっ!』って。 それからよー、呼び方が変わったのは。 それまで大河だったのが藤ねえに変わったんだからー♪」 「「「「・・・・・・」」」」 わかった事が一つ。 酔った虎の話をまともに聞くと・・・生きる気力が根こそぎ失われるということ。 「まったく、アレだけ長く話をしておいて・・・ この話の趣旨を理解していないだけとは・・・ まったく嘆かわしい。これだから人間は。」 まて、あれを人間の基準にするな。世界中のホモサピエンスから苦情が来る。 「シロウがんばった、セイギノミカタ。かっこいい。」 「ありがとう、リズ。俺の味方は君だけだよ。」 俺は完全に四面楚歌。援軍一人いやしない。なんでさ。 「ふぅー・・・ 気を取り直して。司会進行をお願いします。次はお嬢様の番ですので。」 「・・・・・・・」 「ん?聞いているのですか?」 「あ、ああ。ごめんなさい。ちょっと記憶の底に引っかかるモノが・・・ とりあえず、職務を再開! えー、藤村選手は対戦相手をコーナーポストと間違えていた模様です。 が!ドン・キホーテは気にせず、皆様も気を取り直して参りましょうっ! さぁ、お待たせしましたっ!ラストはこの方! 問答無用、説明不要っ!ドイツが生んだ白い悪魔っ子っ! イリヤスフィール・フォン・アインツベルンですっ!」 「お嬢様、この場にいる有象無象にアインツベルンの強さをみせつけてやって下さい。」 「イリヤ一番!」 「任せて頂戴。タイガの話は長いのよ。ホントに教師なの?待ちくたびれたわ。」 待ちくたびれたと言うか、ただくたびれただけの様な。 「なに言ってるのよー。これでも皆には人気あるんだから! 『藤村先生の授業は聞いてると大概の事はどうでもよくなる』 『聞くたびに脳のシナプスが断裂していってる気がする。』 『もはや一種の快感ね★』って。喜びの声が」 「ただの悲鳴よ。それは。 やっぱりタイガにはお姉ちゃんはムリみたいね。 誰がシロウのお姉ちゃんにふさわしいか思い知らせてあげる。」 む。意気込んでいるイリヤには悪いんだが。 可愛らしさしか伝わってこないのだが・・・ 【イリヤ】 「お姉ちゃんって言ったら、弟のやんちゃをやさしく見守るもの。 この前、わたしの部屋に泊まった時の話なんだけどね。」 「「「「部屋に泊まった」」」」 「ええそうよ。 わたしのベッドは、お城と同じでそんなに大きい物じゃないけど。 まぁ、二人位なら充分寝れるからね。」 「「「「二人で寝るっ!」」」」 違う。物置で寝させられそうになったという前置きが省略されている! そこをきっちり説明しとかないと大変な事になる! 「あれは違「おおおっと、ここでイリヤのEX専用技。同衾発言だ――!」 そして、まるでこっちの反応を見透かす様な、的確なブロックをする赤い悪魔。 なんでさ。そんなに分かりやすいか俺? 「セラ?どーして泡吹いてるの?カニのまね? あと、解説の途中で眠るの良くない。おきる。」 さらには、もの凄いリアクションをしているセラさん。 すいません、起こさないで下さい。覚醒めた時が恐ろし過ぎます。 「その時、シロウったら何度も毛布を跳ね飛ばしちゃったのよ。 でもね、わたしはその度にやさしくかけ直してあげたの♪ もちろんシロウを起こすような事はしないでね。 まったく、シロウの寝相の悪さには呆れちゃうんだから」 そう言いつつも、嬉しそうに微笑んでいるイリヤ。まるで天使のように・・・ そうですか。その節はお手数おかけしました。反省しています。 だからもう勘弁してください、イリヤさん。 「どう!これが本物お姉ちゃんの在り方よ。 タイガなんかには逆立ちしたって出来ないんだから!」 「む〜、確かに寝ている士郎を見ると、ちょっかいを出したくなるというか。 思わず踏みつける虎の性。 で、でもそれは、士郎に強い男になって欲しいっていう愛なのよぅ!」 「負け犬の遠吠えは見苦しいわよ。潔く負けを認めたらどうなの?」 「ううううううぅぅぅぅぅ・・・ 士郎のバカ〜〜〜〜〜っ!」 襖から跳び出て行くバカ虎。一休さんの前以外でやるな! 誰が直すと思ってるんだっ! 「やった―!わたしの勝利よシロウ!」 思いっきり抱きついてくるイリヤにこにこと笑っている姿はこっちまで幸せになって来る。 いや、今はそんな場合じゃない! 「まったく、何を考えてんだよ。」 「ええ、人間の思考は理解できません。どうしてこうも簡単につけ上がるのでしょうね。」「え?」 後ろから聞こえる、地獄から響いてくるような声は・・・ 「セ、セラさん?」 錆びたブリキのおもちゃの様な動きで振り向くと・・・ そこには・・・ 「私が帰った後にお嬢様の寝室に忍び込むとは。」 鬼より怖い鬼メイドが立っていた。 「エミヤ様には己の分をわきまえて頂かないといけないようです。 でないとアインツベルンの輝かしい歴史に汚点を残します。お嬢様こちらへ。 リーゼリット、ハルバートを。」 「なにぃ!」 「セラッ!」 「エミヤ様には口で言っても分かって頂けないようですので、体で覚えていただきます。宜しいですね、お嬢様。」 「む、壊しちゃダメよ?」 しぶしぶながら離れるイリヤ。それは、安全圏からの離脱を意味する。 「ええ、もちろん。 ただし、覚えて頂けるまでは城には入れないものと思って下さい。 ・・・まぁ、生きていられたらの話ですが。」 「待て、今ぼそっと何て言った!?」 「お気になさらずに、エミヤ様。こちらの話です。 リーゼリット、まだですか?」 「セラ、怒ってる。なんで? イリヤが嬉しいと、わたしも嬉しい。セラはちがうの?」 「いいからっ!やぁっておしまいっ!」 「・・・あらほらさっさ。」 「だああああぁぁぁぁ!」 振り下ろされる超重量兵器。唸りを上げるハルバート。 「ったっとわぁっ!待て、話せば分かるっ! 人間もホムンクルスも関係ないっ! ベコちゃんのケーキを美味しいと感じる心に種族なんて関係ないっ!」 死神が手を振っているのを横目に幻視(み)ながら、なんとか逃げる。 たぶん、リズが手加減してくれているおかげだろうけど、それもすでに限界だ。 「み、みんなも見てないで止めてくれっ!ここは茶の間だぞっ! なに考えてんだよっ!」 「ええ、本当に。あれほど私がいない時は気をつけて下さいと言ったのに。」 「随分と仲が良いのですね。」 「ふふふふふふ・・・ムリですよ先輩。人間同士でも争ってしまうんですから。」 ぎゃあー!なんか変わってるー!鎧!?ボディコン!?ってか桜!黒っ黒っ! 「ロープロープっ!審判ロープっ!」 ここはなんとか遠坂に助けを――― 「ボックスッ!」 ―――分かってたよっ!期待してないよっ! 最後の希望で命乞いを試みる。 「み、みんな?」 「無駄よ、士郎。今のお姉ちゃんは冷徹なキョセイマシーン。 この刀に血を吸わせるまでノンストップ止まりません。CMなんぞは割愛です。」 いつの間にかやって来て、胴着と袴に着替えた虎は真剣を振りかぶり・・・って! 「そ、その刀はっ!」 なんだ!? 英雄王のエア以外の宝具、その全ての形状を看破できた俺でさえ・・・ あの刀がなんなのか判らない。 「ふっ。流石、我ブラザー。この刀の恐ろしさが判るか。」 ―――悪寒がする。 戦ってはいけないという直感が、どうしても離れない――― まさか、エアと同等の宝具!?そんなモノがこの世に存在するのかっ! 「これは、とあるゲーム会社に行った時に、チーフグラフィッカーの机の傍らに落ちてたのを拾 って来たのYO! 二尺三寸一分、反り六分、互ノ目乱れのナウい奴。 その名も妖刀・三味線丸っ!」 それは窃盗ですっ!犯罪ですっ!!いけない事なんですっ!!! いかん、またもや俺は異次元に迷い込んでしまったのか? 右を見れば、黒桜&ボディコンライダー。 左を見れば、鬼メイド&わくわくしているイリヤとリズ。 後を見れば、エクスカリバーもろだしの王様。 前を見れば、妖刀を構えた血に飢えた虎。 逃げ場は・・・・・・無い。 「どうやら、第一ラウンドは全員参加の場外乱闘でかたが付く模様です♪」 司会の声もただ楽しげで、助ける気は感じられず・・・ 「さて、何か言い残す事はある?士郎?」 最後通告なのかやさしく問いかける野獣。 「・・・じゃあ、一つだけ。 『ナウい』は、もう平成生まれには通じな・・・」 「いい笑顔で夜空に浮かべぃ!!」 こうして、衛宮邸の夜は更けていく・・・ 「でも、秋の夜は長いからね。第二ラウンド行くわよ♪衛宮君♪」 「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――!」 続く
by 凹口+
ただ、皆が好き。順番なんか関係ない。 それぞれが、世界に一つだけの華。 でも、SSでは出番に差が・・・ なんでさ?
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