初夢AKUMU.
「問おう」 気付けば、腰を地面につけていた。 いつかそうした時のような光景が目の前に広がっていて、いつかのように石の床は冷たい。 そんな体勢の俺は胸を穿たれていた。そしてそこから回復していた……。 何もかもあの時と同じ。 ただ、一つだけ。 違うモノを除けば。 青ではない、俺は赤い者を見上げていた。 誰だ? しかしそいつは俺が問う前に……。 「お前が、私のマスターか」 そんなことを。聞いてきた。 『初夢AKUMU』 「――――違うっ!!!」 考える必要もなく、その時残っていた僅かばかりの気力全てをそいつにぶつけていた。 全身全霊で否定する、しなければならない。 何でコイツが? 知りもしない目の前の知り合いに、俺は早速それが何であるか知っているのように疑問を抱いた。 だけど思い出せない。 何で否定するのか、今の疑問が何だったのかを思い出せない。 しかし、そんな違和感もやがて消えていく。 まるで俺自身記憶の中に埋没するかのように。 奴は、俺を助けたのだ。 訳も分からず襲ってきた青い槍使いを退け、そして目の前に居る。 助かった気がしないのは何故だ。 期待もしてなかった時に、期待もしてなかったやつに助けられ、期待もして無いのに絶望させられる。 そんな不条理が有って良いのだろうか。 「違わないな」 『不条理なんて日常だ』とでも言うように皮肉って口の端を吊り上げたそいつは。 アッサリと否定しやがった。 「私のことはアーチャーとでも呼んで貰おうか。 それと一応儀礼なので聞いたが、お前に拒否権は無い。そのことはよくよく肝に銘じておけ」 そいつはまるで勝手知ったるかの様に、土蔵のガラクタを見もせずヒョイヒョイと避けて歩いた。 その先に有るのは扉―――あの青い奴が待ち受けている死地(そと)へと続く扉。 止める気も無いしそいつは止まらないだろう。 何故なんだか。 死地に赴く奴は命懸けでも止める俺が、そいつなら行かせても良いと思ってしまった。 その赤い男は何かを思い出したのか、立ち止まる。 そして付け加えるようにそのまま高い背中から語った。 「生き延びたいのならば、な」 否定したいのに否定できない事を、何処までもズバズバと言う奴だ。 友達、居ないんだろうな。 絶対。 そいつは月でも見に行くかのように軽く歩んで行く。 鉄靴が甲高い音を立て、それが闇の帳へと飲み込まれて、あの紅い姿は『役目』を果たしに。 ……そのまま無音の果てへと去っていった。 誓ってもいい。 アイツの口もとには笑みなんて既に無い。 目の前の敵を追い払う―――いや。 ついでに潰すくらいの気力を瞳に映し、やはりズバズバと殺し合いをしにいく。 そんな絶対的に引き締まった顔で、今、扉を蹴破ろうとしている筈だ。 炸裂音。 コンマ数秒の間も置かないで扉は蹴破られた、俺の部屋とも言える土蔵をいとも簡単に壊してくれる――まるでお菓子の家のように上下 二つに折れて止め具が中に舞う。 と同時に、扉の向こうに張り付いていた青い奴は蹴られる寸前に後ろへと跳んでいた。 並の反射神経でも脚力でもない、バカみたいな距離を一瞬で後退。 まるで遙か後方にバンジージャンプのゴムを結んでいて真横に引き戻したかのようだ。 蹴られるギリギリに跳んで見せたのは単なる『余裕』とでも言うのか、槍使いは空中で楽しそうに冷えた笑みを浮かべていた。 「手前、セイバーか?」 鋭利な剣が獣になったかのような動きで青い影を追う、赤い影。 「さて、どうだろうな。生憎と死者同士語り合う趣味は持ち合わせていない」 「……言ってくれる」 速度としては劣っているがそれでも俺の倍の速度、赤い影は青と諸共一瞬で見えなくなった。 速過ぎる、それなのに喋る余裕が有るとはどう言うことか。 どれほどの速度で動けば一瞬で消えられるのかも見当も付かない。 だが確かなのは、 その直後に金属のかち合う音が激しく鳴り響たということだ。 瞬きの後、残酷なお祭り騒ぎとも取れるマシンガンのような剣戟の音が飛び交い踊り始める。 間を置き、激しくぶつかる。 見えないほどの速さで呼吸を溜め、引く動作を見せずに伸ばしきった腕で突き出される槍。 間も置かず、激しくぶつかる。 本当に息をしているのか怪しい。アーチャーと名乗った男はそんな速さで何処からともなく双剣を取り出すと応戦していた。 一方の黒い剣で象でも一発貫きそうな槍を止め、もう一方の剣でその槍を弾く。 一拍の間にそれを4度繰り返す。 そのどれもが異常なほど鋭かった。なお、強烈だった。 間違いなく人間ではない。 時には流し、時には押し、それらは寸文の狂いもなく相手を殺しに掛かって、寸文の狂いもなく防がれる。 だからこそ音は鳴り止む気配がしない。 見えなくてもハッキリと分かるほど戦っている。 あいつらはそのためだけに居るのだ。 それ程に戦いのための戦い。 今から俺の家は戦場と化す。のだろうと。否応なしに理解させられた。 「………って、堪るか。うちの庭はコロシアムじゃねぇ!」 俺は土蔵の壊れた扉から飛び出ると死の危険(おとのするほう)に向かって走った。 走ってみて、奴らが一足飛びした距離の長さを噛み締める。 化け物だ。 噛み締めて出てきた味はそう告げた。 走って走って、やっと戦場に追いつく。 永く感じた2秒を終える。 見れば、戦いは緊迫の一瞬とも言える様相だった。 赤と青は静かに、お互いの武器を突きつけ合っている。一方はその槍を斜めに構えて鎌首を下げ、もう一方は構えすらろくにとっていな い。 その意味はお互いに銃口を向け合っているに等しい。 どちらも必殺の頃合を探り合っている。 ……その半径5mほどの空間は、夥しい程の魔力のせいでホタルのように淡く照らされていた。 見ようによっては幻想的とも言えるかもしれない。 だが実際にその場に立ってこの殺気を浴びてみれば、幻想に食い殺される白昼夢を見るだろう。 発光の源は青い奴の槍だ。 そこに有る果ての結果を想像したくも無いほどの魔力が集まってきている。 たった一人の奴を相手にするために使うのか疑わしい程だ、100人纏めてあの世に送れそうなほどの力。 切嗣の魔術は俺なんかとは比べ物にならないけど、あの槍にはその比べ物にならない魔術を何十回使っても追いつけそうに無い。 現実が想像を絶していると言ってもいい。 対してアーチャーはブラリと二本の小ぶりな剣を提げているだけだ。 見るからに逸品だが、あの槍とは比べ物にならない。 そんな小物をぶら提げてそいつは言った。 「邪魔だ」 皮肉も此処まで来るとただの嫌味と言うか。 赤い……アーチャーとか言う奴は先ほどまで漂わせていた悠々とした雰囲気を脱ぎ捨ている。 故に今の言葉は何処までも戦略的に俺が必要ないことを告げていた。 反論はその壁のように立ち憚る背中に押し潰される。まるで俺には何も許されていないかのような態度だ。 何かの違いが許さないのだろう。 文句の一つでもぶつけてやろうと思ったが、この状況ではそんな気力も失せていた。 まさか此処までとは思ってもみなかった。 それに、言った所でどちらも聞いちゃいないのだから。 ジリ……、と青い槍使いが動く。 勝負に出た。 均衡が崩れた瞬間の事だ。 「今のお前には何も出来まい。せいぜい、そこで何も出来ない事を噛み締めていろ。 それがお前の一生であり、それを止めて一歩でも動き出したときが、お前とお前の理想(うそ)の死ぬ時だ」 赤い奴は吐き捨てるように言った。 そして言葉とは裏腹に、いや言葉通りなのか、……俺を守る為に戦い始めた。 …………………そんなところで、目が覚めた。よりにもよって夢落ちかよ。 残念ながらテレビ番組ではないので次回には続きません。 と言うか、続かせて堪るか。 「なんだこの初夢はーーーーーーーーっ!!!」 初めて見た夢がこんなだとは。 誰にも言うまいと。 俺は正月の朝に固く硬く誓ったのだった。
by 風月
アーチャーラヴいです。 どのくらいラヴいのかと言うと固有結界(自分の世界に入って語りまくる)が使えるくらい。 目指せ、ギャルゲーで男が一位! お前ならできる!
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