Last interlude plus
最後の砦たる騎士王の剣をもってこの舞台は閉幕――― いや、まだその幕を下ろし舞台裏を覗くにはまだ早い。 天への伸びる一筋の長い糸の中腹。そこにその赤は辿り着いていた。 ただの一匹。それも今にも倒れてしまいそうなほどにその足取りは覚束ない。輪郭も傷を受けすぎて闇に解けてしまいそうなくらいあやふやだ。 それは単なる偶然。巨大な大嵐に巻き込まれた一匹が、天高く舞い上がりこの蜘蛛の糸に引っ掛かった。ただそれだけの話。 生きてそこにいるだけの、ただそれだけの存在。 しかし、十分だ。 彼等の目的を為すにはその一匹だけで十分過ぎた。ただ一匹あの天に空く大穴に飛び込めればそれで事が終わる。 ああ、何と言う事だろう。 下にいる守護者達が気付きさえすれば、ほんの数秒で―――いや、それにも及ばぬ時間で駆除できる赤い染み。 しかし、この地は遥かな高み。探すつもりで視線を送らなければ気付けるはずもないほどの途方もない距離だった。ましてや彼等は湯水をも上回る速度で沸く赤い獣を駆逐している只中である。ほんの小さな、星の瞬きに劣るこの赤い点に気付こうはずもなかった。 あと一人。 過剰な力は要らない。 この傷ついた獣を倒せるだけの力を持っていればそれでいい。 そんな者が一人でもいれば、この戦いは勝利で終わるというのに――― (エミヤ#2 ON) 「―――、―――?」 獣が立ち止まった。何か思うところがあったのか、重い首を持ち上げ、これから向かう先を―――階段の先に視線を移す。 「なあ、一つだけ聞いていいか?」 そこには一つの人影が鎮座してた。 「―――、―――、―――!?」 ありえない。そんな馬鹿な事がありえるはずがない。 ここは遥かな空の上。ここに彼等を近付けまいとした守護者達は出尽くした。この階段に自分とあの裏切り者以外の者がいるはずがないのだ。 「いきなり目が覚めたらこんな馬鹿げた場所にいたんだ。これじゃ何がなにやら分からない」 獣は気付いただろうか。先に座る人影は彼らが目標としている裏切り者そのものであるということに。 アンリマユが脱ぎ捨てたとある人間の外殻。本来あってはならない『ニンゲンのソトガワ』という物体。 存在してはいけないものは存在しない。それが世界のルール。ならばその存在しないはずのモノには何らかの処理を行わなければならない。 世界がそのソトガワに対して今回行った修正は、『その元になった人間の中身の召喚』であった。 そうすればそこにあるのは違法な『ニンゲンのソトガワ』などではなく――― 「オマエは俺達の敵、って事でいいんだよな」 衛宮士郎そのものだ。世界にとってなんら違和感のある存在ではない。こうして彼はここに存在を許された。 衛宮士郎が立ち上がる。その手には二つの赤黒い短剣。 「……何か変なもの投影しちゃったな。俺、こんなのに見覚えないぞ」 無意識に握られたその短剣を間近に見ながら不思議そうに呟く。 「―――!!」 隙だらけだ――― そう感じ取った獣が、体に残る力を全て出し切り、鋭利な爪を目の前の肉に突き立て――― 鋭い金属音が二つ。 それだけで事は終わった。 触れれば筋肉を引き裂き骨を分かつはずの爪は、衛宮士郎の持つ右手の短剣に弾かれ、逆にそのままの勢いで左手の短剣がその首筋に突き立てられる。 「―――――――――!!!」 最後の断末魔を上げ、獣が黒い霧へと霧散する。 「俺だって伊達に遠坂や彼女に鍛えてもらったわけじゃないんだ。いつまでも苦戦ばっかりじゃ……格好つかないじゃないか」 何ていうか、その……正義の味方として。 そうこっそり呟いて、息を吐く。 ふと遥か下にいる彼女へと視線が向く。 剣を携え鎧を纏い、赤い闇を圧倒的な黄金の光でかき消していく一人の少女。凛々しく雄々しく、誰より誇り高い聖杯戦争を共に駆け抜けた騎士王。 ああ、わけの分からない変な夢だったけど。 間違いなくこれだけは言える。 また、彼女を見る事が出来て、本当に良かった、と。 ―――これで本当に閉幕。 未来を賭けた夢中の戦いはこれをもって完全決着となった。
by クスミダ弐号機
主人公(というより元主人公か?)応援SSです。 最後のブロードブリッジで最後に衛宮士郎本人が出てきたら一層燃えるかな、と思い、大急ぎで妄想を形にしました。 頑張れ士郎。今回、出番なかったけど。
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