「契約しよう。我が死後を委ねる、その代償をここに貰い受けたい」 　今では何よりも後悔しているこの言葉。 「大丈夫だよ、遠坂。オレはこれからもがんばっていくから」 　今では何よりも大切にしているこの言葉。 　戦場に出るまでは、一つも言葉の重さを理解していなかった。 「体は剣で出来ている―――」 　だからどうした。剣で人が救えるか？ 「血潮は鉄で、心は硝子」 　オレがどんなだろうと関係ない。鉄も、硝子も、全てを救うには程遠い。 「幾たびの戦場を越えて不敗」 　戦場で死ぬ事が敗北というならば、確かにこの身は不敗だろう。 「ただの一度も敗走はなく」 　救う為に、駆ける。それは敗走に限りなく近いけど、それでも敗走と言わないだけの意地はある。いや。意地しか無い。 「ただの一度も理解されない」 　欲しかったのは理解じゃない。欲しかったのは――― 「彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う」 　救えなかった。誰も救えなかった。地獄のようなこの戦場で生き残ったのはオレ独り。遠くに見えるあの町も、助かったけど救われない。 　だからここで勝利に酔う。誰も救えぬ罪業と、見渡す限りの朱を肴にして。 「故に、生涯に意味はなく」 　唯一つの真実を、全てを救うと言う大言を、守れなくては意味が無い。 「その身はきっと剣で出来ていた」 　全てを救うという戯言の裏に隠された本音。 　オレは、全てを、救えない。 　剣は、全てを、切り裂くだけ。 「お前はどれだけこの言葉を理解してるかな？」 　約束の四日間が終わり、明けぬはずの五日目が顔を出す。 「アーチャー、何か言った？」 　隣で凛が不思議そうな顔をしている。 「何、あの愚か者が詠唱の意味をどれだけ理解しているか気になってな」 　くっくっくっ、と限界まで嫌味を込めた笑みを浮かべる。 「はっ？　なに、アイツ等に頭でも殴られた？」 「失敬だな、君は」 　ムッとして言い返す。そう軽口を叩きながらも体はうっすらと消えていく。 「ああ、この世界には私は居ないみたいだな」 「そうね………」 　あらゆる可能性が詰め込まれた四日間。その中には当然私が現界していない世界も存在するのだから。 「世界も忙しない物だ。一日位、正常な世界を観光させてくれてもいいのにな」 「じゃあねとは言わないわ、アーチャー。私は第二魔法を取得して、どっかにいるアンタに絶対会いに行ってやるから」 　やれやれと肩をすくめる私と、ふんと無い胸を張る凛。私達らしい別れだった。 「何か不穏な事を考えてない、アーチャー？」 「おやおや、邪推かね？」 　………本当に私達らしい。 　私も現界時間が３０秒を切った時点で、凛が唐突に話題を変えた。 「で、さっき士郎に何か言ったじゃない？　伝言くらいは引き受けるわよ？」 　ふむ、ともうほとんど無い時間で考える。アイツ言うべき、最も皮肉を込めた言葉は何か。 「そうだな、では一言頼もうか」 　目の前で髪が軽く揺れる。 「こことは違う世界の果ての、貴様の言葉を楽しみにしている」 　凛がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。私の真意が分かったようだ、流石赤い悪魔。 「すごい嫌味ね、アンタらしいわ」 「お褒めに預かり光栄だよ、マイマスター」 　後、数秒。セイバーを見送ったような暁の空を目に収め、 「体は剣で出来ている―――」 　私の分身の言葉を世界へと遺すことにした。 「」に最も近く、最も遠い場所。 「さて」 　私は近くにあった本を拾い上げ、ゆっくりページをめくる。 「アイツはどんな言葉を込めたかな―――？」

by しらき

アーチャー応援ショートシナリオ。
アーチャーがどんな気持ちであの詠唱を作ったか、書いてみた『つもり』です。限りなく自己満足。

ずいぶん難解なシナリオになってしまったので、一つ説明を。
アーチャーの遺した言葉は、
いい人生を送ったらアーチャーの希望になるし、
悪い人生を送ったらざまあみろと笑ってやるという、
士郎君にはどう転んでも面白くないという物です。

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