"桜さんの悲哀" by ６６６番目の破滅

――――とりあえず、アレなんだろ。

ランサーの楽園、冬木の埠頭、数多のサーヴァントが来襲する不思議空間は、一人の少女によって暗黒空間に染められていた！！

・・・・・・っていうかランサーとかどこ行ったんだろ。サーヴァントによるフィッシング頂上決戦は4日間を超えたいまでもなぜか続いていたのに。

いや、深く考えると危ない。っていうか怖い。だって桜の髪が白いし。服が黒のストライプだし。

視界の隅でオロオロしているライダーに話しかける。

「なぁライダー、桜どうしたんだ？」

「ああ士郎、いいところに来てくれました。・・・実は桜があのとおりで」

「いや、それは見ればわかるんだけど・・・・・・なんで黒化してるんだ？　なんかああいうの此処でよく見かけるような気がするし」

そういえば慎二もいないな。桜に気づいて真っ先に逃げてくれたんならいいけど、なんとなく海に浮いてるワカメがシンジに見えてきてちょっと怖い。

「桜も基は遠坂の人間とはいえ間桐の魔術師ですから。遠坂の致命的なうっかりスキルはないものの、代わりに間桐のどうしようもない、いじけ体質が備わっているのです」

「いや、そのセリフ危ない」

下手をすれば冬木埠頭殺人事件の被害者がプラス1されるくらい危ない。場合によってはプラス２されかねない危険物である。

「いや、追及するのはよそう。俺たちまで危ない。それよりも、どうしていじけてるんだよ」

「ええ、コレです」

ライダーが一枚の紙を渡してくる。

「第二回キャラクター人気投票？　コレがどうかしたのか」

「エントリーキャラクターの一番下を見てください」

素直に一番下を見る。・・・・・・黒セイバーにカレイドルビー！？

「悪夢か・・・・・・？」

「いえ、それはいいのです」

・・・いいのか？

「何か足りないような気がしませんか？」

キャラクター欄を一番上から下まで見てみる。特に不審な点も足りないものも見当たらない。

「わかりませんか。ではヒントを。桜を見てください」

素直に桜を見る。相変わらず白くて黒い。・・・・・・って、桜その釣り針に引っ掛けた蟲はまさか間桐の爺さんじゃ・・・・・・・・・あ、投げた。

「では次に一番下を」

黒セイバー、カレイドルビー。どちらも悪夢だ。できれば忘れたい・・・・・・って、あ。

「お分かりになられましたか？」

「つまり黒桜がないんだな？」

「そうです。他のヒロインの別バージョンは公式に登録されているというのに、彼女だけハブられているのです！！」

・・・・いや、ハブって・・・・・・・・・

「そうなんです・・・・・・・・・」

「うわ桜！？」

いつの間に近づいてきたのか、背後に桜が立っていた。・・・・さっきまで前にいたはずだよな？

「ただでさえ今回はカレンさんとかバゼットさんとかアンリマユとかの新キャラがいてピンチだって言うのに、すでに開始の時点で姉さんとセイバーさんに差をつけられているんです・・・・・・・・・」

「いやまて桜、カレンとバゼットはともかくアンリマユは新キャラじゃない！！」

「突っ込み所はそこですか」

「そ、それにだな、コレは逆にチャンスかもしれないぞ桜！！」

「・・・チャンスですか？」

「そ、そうそう！　だってセイバーと遠坂は別バージョンにも票が確実に割れるってことだろ？　でも桜は黒桜と書こうが素桜と書こうが票はすべて桜のものってことじゃあるまいか、多分！！」

きっとそうだ。コレはきっと菌類の神様とかのわかりにくい温情に違いない、多分！！

「・・・素桜」

「そうです桜！！　たとえキャラクター枠をひとつしかもっていなくても嘆くことはありません！　あのキレる王様や変身魔法少女とは違い、貴女は貴女一人に特化すればいいのです。いつだって勝利するのはオンリーワンなのですから！！」

ライダーは必死だ。俺も必死だ。
　だって命が危ない。あの影がこちらに伸びてきたら俺たちは死ぬ。

「・・・・・・そうよね、私にもチャンスってありますよね！　前回みたいに自分のサーヴァントに負けるなんて屈辱を味わうことも限りませんよね！！　もう私は首をつらなくっていいかもしれないんですよね！？」

希望の光に桜が元に戻っていく。
　いやよかった。桜の希望は俺たちの希望だ。・・・いやなんていうかもう直接的に命が助かるって感じの。

「というかやっぱり根に持ってたんですね」

「いやライダー、その辺は俺も傷を残しかねないからやめてくれ」

セイバーはともかくとしてアーチャーとか。３位って何だ３位って。

「・・・・・・帰るか。これ以上ここにいると更なるチャレンジャーが現れかねない」

イリヤとか。藤ねぇとか。ベストテン危うい気がする面々が。・・・いや俺もか。

「そうしましょう桜。海は好きですがここは空気が悪い」

同意を得て、埠頭を去る。
　その前に、もう一度生みに浮かぶワカメを見る。

「ちなみに、アレは紛れもなく正真正銘慎二です」

「慎二ー！？」

うわぁぁぁぁぁシャレになってねぇぇぇぇぇ！！？