「もう一つテーブルを継ぎ足さないと足りないな」 居間を眺めて口に出す。 「2人増えましたからね」 桜がため息混じりに答える。 食事の際、イリヤと藤ねえが来ると総勢９人になるので、テーブル一つでは すし詰めになってしまうし、全員分料理を並べるには面積が足りなさそう だった。 これ幸いと他人の皿まで藤ねえが領空侵犯しようものなら、惨劇の幕が 上がりかねない。 バゼットとカレンが滞在する一週間はどこから争いが勃発するやも知れず、 わずかな火種も見過ごせなかった。 そうして２人のストレンジャーが滞在し始めて３日目の夕飯は始まった。 カレンもバゼットも理由は別として和食に抵抗はなかったし、箸使いにも何の 問題もないことがわかったので、焼き魚と煮物とサラダという標準的なメニュー を囲んでいたとき、予期しなかった所から争いは芽吹いた。 「メイガス、ひとつ気になっていたのですがよろしいですか」 バゼットが箸を止めてセイバーを見る。 「何でしょう」 「その、食事の仕方などそれぞれが自由にすべきことで、あれこれ口を出す など、失礼なことだとは十分わかっているのですが･･･なぜあなたはいつも そのような順序で食事を済ませてしまうのですか」 ああ―――３日目にしてついに触れてしまったか。俺も気になってはいたの だが、決して口には出さなかったバゼットの食事様式。 問われた当人は何を言われているのか、全くわかっていない様子だった。 バゼットの食事が早いことは別にして、その途中経過はというと、ご飯茶碗 は空、焼き魚は骨となっているのだが、味噌汁、煮物、サラダは全くの手付かず で、これからというところだった。つまり、小学校の給食で教えられるところ の三角食べが全く出来ていないのだ。一旦箸をつけたらそのメニューにのみ集中 して食べ尽くしてしまう。容器が空になって初めて次のメニューに移行するのだ。 一つの皿に取り掛かっている間にはお茶にすら手を伸ばさない。伸ばすときは 次のメニューに移行する前で、必ず一気飲みと徹底していた。 「まあ、気に入った食べ方があるならいいじゃないか」 「シロウがそう言うのなら、仕方ありませんが、私はその･･･せっかくシロウが 毎日手間をかけておいしい料理を作ってくれているのに、その食べ方では味の 楽しみが半減してしまうのではないかと心配しているのです。。色々な料理に 次々と箸を伸ばすことで味わいは豊かになり、もっと料理の魅力が増すと思う のですが」 言いながら空になった茶碗を渡してくる。 ご飯をよそおうとしていると、それまで黙っていたバゼットが口を開いた。 「毎日自分の手で、これだけの人数分の料理を作る士郎君の姿勢には敬服して います。しかし、それと料理の魅力とは別物です。彼の料理の魅力とは、この ように多様な食材をとりまぜて使用して、栄養が偏らないよう配慮していること にこそあるのではないですか」 「それは違う。この味噌汁ひとつにしても、ダシをとり、具材のアクを抜く のも、この繊細な味を引き出すためにするのです。それを頂く我々は、その 味わいを十分に楽しむことが礼儀というものではないですか」 「セイバーさん、バゼットにそうしたことは説いても無駄ですよ」 冷静な声が割ってはいる。全員が視線を向けた先にはカレンが取り澄まして お茶を飲んでいた。ちなみにきちんと三角食べができている。 「バゼットにとって食事とは栄養補給と同義です。生存に必要なカロリーと 必須栄養素があれば、ここに使っている食材が生のまま転がっていても今と 同じように順番に食べ尽くしていくことでしょう」 平然とした顔で言ってのけた。 「なっ」 なぜかセイバーが色をなす。 「何ということを言うのですか。それは料理を作ってくれるシロウにあまりにも 失礼というものです」 バゼットが続いた。 「その通りです。食事の目的が栄養の補給にあるという点に反論はしませんが、 生の食材を獣のようにかじると言われては黙っていられません。きちんと火 は通します。殺菌もしていないものを平気で食べるはずがないでしょう」 そうか、やはり味はどうでもよかったのか。 「メイガス、その言い方は問題があります。火さえ通ればいいというのでは、 焚き火で食材を炙って食べる原始人と変わりがありません」 ああ−−−なんかだんだんとヒートアップしている、というか、表現がみなさん 過激になっていませんか。気がつくと、議論を見守っていたというか、黙って 食事を続けていたライダーは既に席を立っており、藤ねえとイリヤも食事を終えて 部屋の隅で二人で遊んでいた。居候との関係が最も微妙な姉妹は黙々とうつむいて 食事を続けている。「私たちを巻き込まないで」とそのオーラが語っていた。 結論を言えば、俺もそっちの無関係グループに入りたいのですが･･･。 「食事の仕方と言えば、私もセイバーさんには意見があります」 原始人と言われて片方の眉が痙攣したバゼットがセイバーを見据えた。 「何ですか。私の作法は平均的な日本人より完璧なはずですが」 「作法のことではありません。作業効率についてです。あなたは毎日こまめに ご飯を小さな器に繰り返し補給してもらっていますが」 ちょうど３杯目のおかわりを腕を伸ばして要求していたセイバーが固まる。 「その都度士郎君は食事を中断してご飯をついでいます。非効率このうえない。 どうせ３杯以上食べるのですから、最初から大きな器を使用すれば何度もつぎ なおす手間が省けます。明日からそうすべきです」 「どうせ食べるとは何事ですか。調子が悪い時だってあります。２杯しか食べ なかったことだって何度かありました」 そう、それでも２杯は食べていた。てゆうか、おかずを人から貰ったときに限る ような気はしたのだが、当然胸にしまっておくことにした。 「そもそも使い魔であるあなたが、そう毎日毎日食事をする理由もわかりません。 戦いで魔力を消費しているわけでもないのに、同じ使い魔のライダーさんの２倍 は食べています。体格差からすれば逆であってもおかしくないというのに。のみ ならず、彼女は自分の考えとはいえ外で働いてもいる。あなたは特になにもして いないでしょう。士郎君があなたを使役しているのを、私は見たことがない」 「２倍･･･っ」 顔を赤らめて一瞬絶句するセイバー。 「ライダーは桜から魔力の供給を受けられるのですから条件が違います。 それに２倍とは言いすぎです。私は霊体化もできないのですから消費する エネルギーは全て食事から補うしかないのです。それにエネルギーを消費すること だって色々あるのです。日々シロウを鍛えることや･･･色々と」 「士郎君の鍛錬以外にあるのですか。ああ、昼寝しているのも大変そうですが」 「くっ･･･」 セイバーの旗色が悪そうだな、と思いつつこの争いに絶妙のタイミングで油を 注いた毒舌シスターに目をやると、涼しい顔で「ごちそうさまでした」などと 呟いていた。その口元に浮かんだ穏やかな笑みが悪魔のそれに思えてならない 夕飯時であった。 この後、セイバーとバゼットの口喧嘩はついには道場での果し合いへと発展し、 負けたほうは相手の言い分を認め、セイバーが負けたら明日から茶碗をどんぶり に換えること、バゼットが負けたら三角食べを徹底することを約束し、命以外の 色んなものを賭けた勝負の幕が切って落とされるのだった。 で、何故か俺は「シロウの料理の名誉がかかっているのです」とか「自分の サーヴァントの勝負には魔術師として責任を持ちなさい士郎君」とか何とか まくし立てられて結果に責任を持たされることになり、レフェリー兼立会い人 を引き受けさせられることになるのだった･･･ 「誰か助けてください」

by まるを

バゼット応援投稿2本目です。
バゼットとセイバーに小競り合いしてもらいたくて
書いてみました。
バゼットのダメぶりがまた出せませんでしたが、
自分では結構気に入ってます。

もし読んでいただけたらありがとうございます。

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