"虎ブルにおけるバゼットとアヴェンジャー。あと槍" by はっしー五号機

相手の顔を読むということは相手の手の内を読むことでもある。それは戦闘であっても遊戯であってもまったく変わることのない真理である。
　さて、此度の聖杯戦争は今までと大きくルールが改定された。イレギュラーに次ぐイレギュラーがそのルール改変の真実である。七つに分かたれた星のかけらをひとつに集めた者こそが聖杯を得られる、一度の勝負で決着がつくなんとも背水なバトルロイヤルとなってしまった聖杯戦争は、戦闘方法が伝統遊戯である花札。
　衛宮士郎は喜び、遠坂凛は落胆し、虎ブルイレギュラーコンビはふふふふふふふふふふふ…………！！！！！ と笑いあう。そんな中、このルール変更に最も戦慄を覚えるコンビがいた。時計塔の執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツとアヴェンジャーのこれまたイレギュラーコンビである――！

「そんな……私は花札など……貴方はどうなのですか？」
「出来るわけねぇよ。ていうかまず正規のマスターぶっ殺して星奪い取んなきゃ始まらねぇよな」
「それはそうですが。そもそも私は花札のルールなんて知りませんから、誰かに教えを請うしかないのでしょうか……」
「おう、ならいい奴がいるぜ。参加者でもないくせにハーレム作るとか言ってしゃしゃり出てる奴。あいつ女ならいいみたいだしあんたならいけるんじゃねぇの？」
「確かに私は女ですが……まぁいいです。とりあえず行ってみましょう」

そんなこんなでバゼ復コンビがやってきたのは川沿いの公園。ここに間桐の御曹司がいると聞いて訪れたのだが……。

「間桐の御曹司はいませんが、どういうことです？」
「知らねぇよ。情報にゃ間違いだってあるってことだろ。ま、その分いい奴がいてよかったな」
「あぅぅ、貴方は私と彼がどういった関係か知らないからそんなことが言えるのです。あとで矯正しますから覚悟しておいてください」

バゼットはそう言ってアヴェンジャーの言ういい奴へと歩いていく。その先には全身青タイツの槍兵がいる。おそらく斥候中だったのだろうが、道行く女の子に目を走らせているあたり流石英雄。色を好むを体現していると言えよう。ちなみにバゼットはそれが面白くない。

「ランサー」
「む、なんだよアンタか。一応、敵対してるんだけどな。どうする気だよ」
「い、いえ。その、今回の聖杯戦争は特殊でしょう。貴方は今回のルールである遊戯を知っているのか、と問いにきました」
「教える義理はないね。そんなに教えてもらいたければ俺を倒すこった」
「……いいでしょう。それでは魔術師らしくじゃんけんで。後出しは負けです」
「オウ、じゃあいくぜ。じゃんけん――」
「……“後より出でて先に断つもの”」
「ってちょっと待ちやがれ！ それ確実にオレ負けるだろ！」
「勝つために手段は選んでいられません」

フラガラックに帯電させたまま、にこりと笑ってない笑い方でバゼットは嗤う。その後ろでアヴェンジャーが腹を抱えている。ランサーはそんな二人の光景を見ながら静かにため息をつく。どうせいずれは戦う相手だが、相手が戦えなくては卑怯だ。それは自分が嫌うところでもある。
　仕方なくランサーは花札をどこからともなく取り出し、バゼットの前に置いた。

「まずは実践で叩き込んでやる。覚悟しろよ」
「望むところです。ほら、アンリ。貴方も来てください」
「へいへい。ま、どーせこの状況じゃ宝具もオカシイことになってるんだろうしな」

アヴェンジャーの言葉は実に的を射ている。ルール改変があった時点でそれぞれのサーヴァントの宝具はその効果が花札用に変わっているのだ。それはバゼットのフラガラックについても同じである。この場合、宝具のみが花札対戦中に効果を発揮しうるためフラガラックもルール改変の範疇に入ってしまったということなのだろう。もちろんアヴェンジャーのヴェルグアヴェスターも同じことなのではあるが。
　そうこうしている内にランサーによる花札講義が終わる。バゼットは満足げに頷き、自分の頭の中で自分たちの能力を思い浮かべる。言うまでもなく宝具の確認だ。

『斬り抉る戦神の剣、消費ＭＰ４／４。相手の宝具の発動時に効果発動可。相手の宝具効果を打ち消す』
『偽り写し示す万象、消費ＭＰ８／８。相手の勝負時に発動可。自分および相手が０文にならない限り相手に同じ量のダメージを与えることが出来る』

「成程、効果としては好ましい。ランサー、ありがとうございました」
「いいってことよ。あんたは人一倍頑張らなきゃなんねぇ立場だからな。イレギュラーの奴らはまず星のかけらを手に入れてナンボだ。ま、言峰の所に来たらオレが相手してやるよ」
「ええ、いずれは。行きますよアンリ、まずは誰かからかけらを奪いましょう」
「はいはい。じゃあなランサー、とりあえず礼言っとく」
「柄にもないことすんじゃねぇよ」

そうして彼らはまた別の道を歩き始める。
　激突はいずれ。バゼット・フラガ・マクレミッツが六個のかけらを集めたとき、必ず訪れる宿命なのだった。