"廃屋の雑談" by 愚者

「神よ、私の汚れ無き信仰をこの世に示す機会をお与え下さって感謝します。
　神の恩恵をもってすれば今回の人気投票、あの乳がデカいだけの暴力女を押し退けて必ずや私は上位に入れるものと確信して…………」
「何が汚れ無き信仰ですかカレン、戯言もその辺にしておきなさい」
　今にも崩れそうな造物主の前で祈りを捧げる修道女の呟きを、男装の麗人が呆れた表情を浮かべながら遮った。
「あらバゼット、来ていたのですが。全然気付かなかったわ」
　わざとらしさ満点な態度で、言峰教会の現主人は挑発するような眼差しで振り返りながら立ち上がった。
「遠の昔に気付いていた上でさっきのような嫌がらせを…………その底意地が悪い性格、一生治らないでしょうね」
「失礼ですね、慎み深いと訂正して下さい。先程の発言は、つい本音が表に出てしまっただけです。
　ついでに言うとバゼット、貴女は１０位内に入れるかどうか微妙かと」
「いつ私が貴女に負けると決まったのですか！　大体さっきから何です、その自分勝手な予想は！？」
「いえ、私はただこれから先起こりえる事象を予測しただけです。
　外れようがない予測なのでショックなのも分かりますがバゼット、どういう結果であれ貴女ほどのたくましさがあればどんな困難でも乗り越えられることでしょう」
　本当に失礼なのはどっちだと思いながらも、バゼットは怒りの拳を懸命に抑えながら彼女の元へと歩み寄った。
「…………貴女は奇跡などという大層な存在ではなく、単に陰湿を具現化した存在です。
　その意味では比類無き存在であることは、私が保障してあげます」
「封印指定の実行者からそんな評価を戴けるなんて、光栄の至りだわ。
　上位にランクインした暁にはバゼット、お礼に貴女の言う陰湿さをたっぷりと味あわせて上げますね」
「あ～どっちだっていいじゃねえか全く。大体俺や他人の順位がどうなろうと、俺の知ったことじゃねーし」
　言葉の剣戟を響かせ合っている修道女と魔術師の姿を、反英雄は半壊した長椅子にだらしなく背中を預けながら眺めていた。
「何を言うのですアンリマユ！　今回のような好機を逃して、一体何処で頑張るというのですか！？
　大丈夫、男性キャラは確かに不利ではありますが、多少の劣勢など努力と気合いでどうにでもなるものです！！」
「その点はバゼットと同意ですね。正直自分の順位はどうでもよいのですが、それはそれとして胸が大きいのと戦うしか能がない某メイガスと私の差がどれくらいあるのかについては非常に興味があります」
　ここぞとばかりに精神論を力説するバゼットと、またしてもその彼女に喧嘩を売るような発言を口走るカレンに、アヴェンジャーは疲れた目で見やりながら溜息を吐いた。
「あーうるせえ。大体マスター、俺はあんたと違って本編から名前出てる頃からランキングに載ってるような大層なキャラじゃないんだよ。
　あとシスター、どう足掻いたってエロいあんたには勝てそうにないから安心して上位爆走してくれ。
　俺は俺で、野良犬らしく一人ぼっちで下位ランキングを彷徨ってる…………」
　そこまで口にして、最弱の英霊は何かを思い出したかのように突然押し黙った。
「どうしたのですアンリマユ、そんな難しい顔をして？」
「…………ん、いやなに、俺みたくステイナイト本編で名前だけの存在なキャラが他に居たような気がしてな。確か台詞まであったけど、結局ランキングにも載ってなかったんだが」
「何の冗談ですかそれは。台詞が一言も無かった私ですらランキングに上がっていたというのに」
「全くです。それは多分、何処ぞのエキストラか飲んだくれかでしょうね」
「なんじゃそりゃ。まあ確かに、体が酒で出来ているようなもんだけどな。いくらいい女でも、アルコール臭しか漂ってないっていうのは人としてどうかと思うぜアヒャヒャ！！」
　
　
　
　　
「何やってるんですか、ネコさん？」
「ん、いやね、なんか今さっき誰かがアタシのこと凄く馬鹿にした気がするから、ひとつ酒の力でもちょっと思い知らせてやろうかなと。
　エミヤん、ちょっと留守番頼むね」
　その頃コペンハーゲンでは、音子が凄みのある笑顔でモロトフカクテルを一杯に詰めたリュックを片手でからいながら、勢いよくバンへと乗り込んでいた。