"フィンランドの魔術師" by 熊鼠

某月某日　ＡＭ １０：５３
―――――関西国際空港

私は来たのだ――――

この極東のへんぴな島国の大地に私は足をつけている。
本来ならば、こんな島国の存在を認知することなく魔術の研究に没頭していただろう。
しかし、私は果たさなくてはならない使命ができた。自らの汚名を返上するために…
　私の祖は、一人はこの地で命を落とし、もう一人は聖杯戦争なる戦いに敗北し、エーデルフェルト家の名に傷をつけるという大惨事を招いた。
　しかし、それもこれも本当は悪魔のような魔術師達の闇討ちによるものである。
そもそもこれは、この極東の地に住まう悪しきトオサカのペテン師の企みによるものが原因なのだ。英霊などと言う降霊術で魔術師を魅了し、高い信憑性を持ったような噂を流し、名立たる名門の魔術師達を食い物にしているのだ。
　思い出しただけで腹たたしい、生前の魔術師達はそんな輩にやられてしまったのだ。
さらに、以前、時計搭でトオサカの人間が訪れたが、あれには驚いた。私の祖先をそそのかした張本人とも言える人間が現れたのだから。
　私はそこでトオサカに決闘を申し入れた。
トオサカは地に堕ちきった外道。だがしかし、私は決闘する相手として最低限の礼節で戦った。
拳と拳をわたりあった決闘で、結果的にトオサカに勝利したのだ（ワンラウンドに限り）。当然の結果なのだエーデルフェルトが負けるはずがないのだ。
しかし、トオサカが無謀にも再び挑んだことで泥試合となり、結果として両成敗として事態は収拾された。
　だが、これで終わるつもりはない。終わるわけがないのだ。
トオサカが去った後もあの受付嬢からトオサカの精細な居所を探しあてた。
　これを見つけて我がエーデルフェルトがなにもしない訳がない。
こうなれば徹底的だ。再起不能、そして、時計搭に二度と訪れることができないまでにトオサカ家を潰そう。

私の胸は静かに高鳴った。
待っていなさい、ミス・トオサカ。あなたは私の手で紡ぎとってあげますわ。
　その後、金色の髪に青いドレスを纏った貴族は、空港から姿を消し冬木市へと向かったのであった。

某月某日　ＰＭ　１４：０５
―――――冬木市　商店街

「これで今日の食材は全部だな」
　卵のパックを袋の中にしまいスーパーの外へ出ていく。
数日前からカレンとバゼットが俺の家に居候することになって食費をやりくりするのが大変になってきた。
　こういう事情のためバゼットは居候する間、家賃を支払ってくれてはいるが、カレンは賃金を一切払ってくれないため我が家の家計は火の車になるまで追いつめられた。
　まぁ彼女達だけが原因と言うわけではなく。他にもただ飯ぐらいの人間はいるからなので、ここ最近は皆からお金をもらうと言うことで承諾してもらい、毎月集金すると言うことで決着をつけたのだが―――
「やっぱりこれでも少ないんだよなぁ。普通に食べる人はともかく、セイバーと藤ねえの暴食で集金を上回るし」
　すでに金額を設定しているだけあって、これ以上金額を上げるわけにもいかないのでこれでやりくりするしかない。だが、所持金がそこを尽いた時のことを考えると背筋が寒くなる。
　断食も考えたが、そんなことをすればセイバーが黙っているわけがないし、臨死体験を味わうことになるのでやはり却下だ。セイバーには悪いが節約料理にでも手を出してなんとかしのぐかな。味の質は落ちるかもしれないがこれしか手段がない。
　そんなことを考えながら住宅地を歩いていると視界の先になにやら目を疑わせるような光景が飛び込んでくる。
　それはまるで西洋の人形に出てくるような縦ロールでオレンジのまじった金色の髪に、舞踏会などで着られそうな青いドレスを纏った女性だった。その井出達はどこかの貴族のお嬢様を連想させた。
　外国人であろう。ここは住宅街だから恐らく知り合いの家にでも遊びにきたとも思えるが、しかし、こんな女性がいったい冬木の町に来るだろうか。とてもここに来るような人には見えないと、俺は思いながらその場を立ち去ろうとすると―――
「そこの人、お待ちなさい」

某月某日　ＰＭ　１４：２８
―――――冬木市　住宅地

ありえない、ありえない、ありえない、ありえない―――――
こんな異常なことは絶対にありえない。いえ、あってはいけないのです。
日本は小さな島国だと聞いていた。話の通り本当に小さく、土地は人と人とがせこせこと分けあわなければ自分の家を構えることも難しい。ならば、大方の場所が掴めているのならあとは自力で探し出せばいいのだが……。
「なんていい加減な造りの町なの。これだけ住居が入り組んでいたらどこに誰がいるのかわかりませんわ」
　考えたくはない。だが、結論から言うとそうなるのだろう。
私はいま、屈辱ではあるが…。
認めたくはないが認めざるえない事柄ではあるが…

――――――まい…ッッッッ！！！！！

いけない。なにを血迷ったことを考えようとしたのかしら、私は。
そう、私は迷ってなどいない。ちゃんと目的地には進んでいるのだ。そう前に進めばなんの問題もないはず。
「………そうですわ」
　ここは誰かに聞いてみるのも一つの手段かもしれない。私は大方の目的地が解っているのだ。ならその場所をより明確にするのも正当な手段―――
なんら問題もない。そうなれば、誰か手ごろな人を探せば……

―――いた

茶髪で小柄の男性、しかも御人好しそうな顔立ちをしている。恐らくはこの付近に住む住民。ならここの地理にも強いはず。
「そこの人、お待ちなさい」
「お、俺のことか？」
「あなた以外に誰がいるの。私はあなたに聞きたいことがあるから呼びとめたのです」
　目の前の男は周りをキョロキョロと伺うと、『あぁ、たしかになぁ』などと小さくつぶやいた。
　全くそんなことは当然でしょう。
「それで俺になにか用かな？」
「私、この住所の屋敷を探しているのですけど、心当たりはありませんの？」
「家かぁ…この住所だと近所かな？多分だいたいの場所くらいならわかるけど」
　―――よし
　これでトオサカの根城は見つけたも同然、あとはこの男を案内人にすれば目的地まではすぐですわ。
「なら私をそこに案内いただけないかしら」
「ちょっと待ってくれ。俺はこいつを持って帰らなきゃならないんだ。もしかして、このままでそこに書かれている所へ連れて行けって言うのか？」
「それではあなたの用がお済みになってからでかまいませんわ。それから私をそこへ連れていってくださればいいわ」
　たしかに、私の私情だけでこの男に負担をかけるわけにはいかないけれど、ここまできたのに逃すわけには行きませんわ。なにがなんでもトオサカの家に辿り着かなければならないだから。
　男はなにやら神妙な面持ちでこちらをじっと見つめてくる。
なにかしら、じろじろとこちらを見て。服に汚れでもついていたのかしら。今日はいつも以上に身だしなみを完璧にこなしたというのに、変に見られるところは一切ないはず。一体なんなのかしら。
―――すると、次に男はとんでもないことを言ってきたのだ。
「おまえさ、もしかして道に迷ったのか？」
「なっ――――」

某月某日　ＰＭ１４：５９
―――――冬木市　住宅街

「おまえさ、もしかして道に迷ったのか？」
　俺はなんとなくそんなことを言った。
なんと言うか、住所までわかっているのに案内人が必要ってことになると、もしかしてこいつは方向音痴なのかもしれない。
　あれ、なんだ？わなわなと震えだし、こちらに射殺すような殺気をもつ視線が刺さってきたぞ。
「あなた―――この私が道に迷ったですって？」
「いやだって、住所がわかっているなら案内人なんか必要ないだろ？それなのにそれが必要ってことは、まい―――　」
「お黙りなさい！！！！この無礼者！！！」
　ぴっしゃーんと、バックに雷鳴が派手に鳴り響いたような光景が映ってしまった。
　まずい。何かとんでもないことを言ってしまったようだ。
　怒りに燃え上がった金の鬼は、一歩前へと獲物を追い詰めるが如く詰め寄ってきた。
「いいこと、私はただ正確な場所を特定したいがために、あなたに道を尋ねているだけですのよ。
　それなのに、この私が道に迷う？
　世迷い事を言うのもほどほどにしないとトゥオネラ（冥府）に誘うことになりますわよ」
　仁王立ちで金色のお嬢様は鋭く睨み付けてくる。
　あぁ。
　こいつは本気だ。さっさとなんとかしないと、この場で俺の心臓をえぐりとられてしまいそうだ、と脳裏をかき巡っていった。
「わ、わるかった。案内はする。ちゃんとそこまで案内するから機嫌を直してくれ」
「―――ふん、最初からそうしていればいいのです」
　うわぁ…なんだかとんでもない人に関わりを持ってしまったようだ。
「お待ちなさい」
「っと。こ、今度はなんだよ」
「あなた、今からどちらに行くおつもりですの」
「どこって、その住所の家にだよ。さっきから散々案内しろって言ったじゃないか」
「それは後です。あなたの用事が済みもしていないのに連れまわす、なんて非常識なことをするつもりはありませんわ。
　まずはあなたの屋敷から向かいますわよ」
　当然のことでしょう。というような顔つきで俺に語ってくる。
　少し驚いた。もしかしたら、ちょっと良い奴なのかもしれない。
「わかった。それじゃあ俺の家に行こう」
「ええ、道の方はあなたにお任せしますわ」
　そうして俺の家に向かう事になった。

某月某日　ＰＭ１５：４３
――――冬木市　衛宮邸

「ここがあなたの屋敷？」
「屋敷っていうか。俺の家だな」
　なんとか家にまで着いたのはいいが、買い物袋を置いてからさっさと行くのもなんだし、ちょっとくらいは休んでもらっても良いんじゃないのかな？その間に住所の正確な場所を調べるのも良いだろうし。
「早く荷物を置いたらいかが、そのままではつらいでしょう」
「あぁ、そうだな」
　まぁちょっとくらいなら待ってくれたっていいだろう。せっかくだからちゃんと案内してやりたいし。
　俺は玄関を開けて中に入る。それについてきて後ろの金髪の女性も入ってきてくれた。
「ちょっとだけ上がってくれ。ええっと……」
「あら、そういえばまだ名乗っていませんでしたわね。
　私はルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。ルヴィアで構いませんわ」
「そうか、俺は衛宮士郎」
「エ…ミヤ……シェロ？」
「違う。えみやしろう、だ」
「言い難いですわ。私はあなたのことをシェロと言います。いいですわねシェロ。」
　なんか勝手に人の名前を変えられてしまったけれど。エーデルフェルト？
はてどこかで聞いた名前だけど、記憶の片隅に靄がかかってしまって引っ張り出すことができない。ごく最近に誰かに聞いたような気がするんだけど。
「シェロ。私を招き入れてくれるのではなくって？
　それともここでずっと棒立ちのままレディを待たせるおつもり」
「あぁ悪い、じゃあ上がってくれ。ルヴィア」
「ええ、お邪魔させていただきますわ」
　買い物袋を持って居間まで持っていく。しかし、居間には人が居なかった。
俺は買い物袋を台所に持っていってお茶の用意をした。
「バゼットとカレンは居ないにしても、セイバーまでがいないのは意外だな。」
　もしかしたら、商店街に行って食べ歩いているのかもしれないな。
どちらにしろややこしい話にならないですみそうだ。
　お茶を入れて、居間で休んでもらっているルヴィアにお茶菓子といっしょに出した。
「どうぞ、日本のものが口に合うかわからないけど」
「お気遣いはいりませんわよ。日本のものには興味がありますものいただきますわ」
　と言うとルヴィアはお茶を飲んでくれた。
　こうしてじっくりと見るとルヴィアは実はとんでもないほど綺麗だということがわかった。
最初は、人を顎で使うような女だと思っていたが、こうしてみると落ちついて見てみると非常に気品のあるお嬢様のようで、俺なんかがお近づきなること事態が異常のような感じがしてきたのだ。
　その動作のひとつひとつが品の動作で異文化であるにも関わらず、その姿は優雅でかつ美しさもかもしだしている。そんな光景を俺は見惚れてしまっていた。
「シェロ。どうしたのです。さきほどから呆けたりして」
「え、俺そんなにぼうっとしていたか？」
「ええ、心ここにあらずといったような感じでしたわよ。まさか、いまさらになって私の案内をするのを断りたくなった、などと言うわけではなくって」
「ちがうちがう。俺はただ、ルヴィアが異国の人なのに…その飲む仕草とかすごく様になっていて、綺麗だなぁって」
　って、俺はいきなりなにを言い出しているんだ。
ほら、ルヴィアだってすごく驚いたような顔をしているし、というか少し赤いような。
「な―――」
「な？」
「なにを言いだしてんのよ、あんたはぁぁぁ！！！！」
　ごろごろぴっしゃーーん！！
　な、な、今のは、背後から声が聞こえてきたのは
「遠坂！？なんでお前が家にいるんだよ」
「なんでいるだ、じゃないわよ。このへっぽこ！！
　私はさっきからセイバーの部屋にずっと居たわよ。それで帰ってきたんだと思ってこっちに来てみたら、あんた！！
　見ず知らずの女にいきなり媚売っているじゃないわよ！！」
　ぐわぁーーっと、遠坂が息を荒げて詰め寄ってくる。
いや、別に媚を売っているとかそういうのじゃなくて、ただ正直な感想を言っただけなんだけどなぁ。
　そんなことを言った日にゃ、ガンドじゃなくて右フックが飛んできそうだから黙っておこう。
「それくらいにしたらどう、トオサカ。レディの振る舞いにしてはあまりにも無作法ですわ」
　遠坂の一方的な抗議に水をさすように、ルヴィアが割って入ってきた。
「……そうよ。一番わからないのは、なんであんたがここにいるのよ」
「簡単なことですわ。私はシェロの客人として呼ばれたのですから、ねぇシェロ」
　なんだかとても驚いたような顔をする遠坂さんがいらっしゃられますが、本当ですよ。
「ちょっと士郎。どういうことよ」
「どうって、たしかに俺はルヴィアを家に呼んだけど」
　まぁそれはあくまでルヴィアの知り合いの家へ案内するためにたまたま家に寄ってもらっただけなんだが。
　遠坂はうな垂れながら、この御人好しは…、とブツブツつぶやく。
御人好しってなんだよ。困っている人がいるなら助けたっていいだろう。
「そういうことですわ、トオサカ。まぁ私の目的はあなただったのだから、手間が省けてちょうど良かったですけれど」
　へー、ルヴィアは遠坂に用があったのか――――ってちょっと待て
「ルヴィア、おまえさっきの住所っていうのは」
「ええ、トオサカの住居を記していますわ」
　なんてこった。ルヴィアは遠坂の知り合いだったのか。どおりで似たような雰囲気を感じていたわけだ。
「待ってなんだか話が読めないから、二人だけで話さないで」
「あら、トオサカの一族はこの程度の会話が理解できないほど知能が低下していますのね」
「そういうことじゃない。あーもうなんだって士郎かこんな奴を連れてくるのよ」
「失礼ですわね。私がどのような方に招待されようが、あなたの知ったことではないでしょう」
「うるさいわね。あんたがここにいることが間違っているって言っているのよ」
　あーなんだか完全に場が混乱しだしているぞ。
「まぁ、失礼極まりない。だから、あなたのような方は時計搭に相応しくないと言ったのです」
「またその話、あんた昔のことでぐちぐち言ってんじゃないわよ」
「ふん、聖杯戦争とやらで魔術師を喰いものにしているあなたの言うことではありませんわ。だから私はあなたとは徹底的に潰さなければならないと判断したのです」
「ふーん。そういうこと、だったらあんたとはとことん勝負してやらなきゃわからないみたいね。時計搭でつけれなかった決着つけてやろうじゃないの」
「あら、私は最初からそのつもりで参上したのですのよ。その緩みきった思考でよくも戦おうとしますわね」
「緩みきってるのはあんたのくるくるの縦髪よ」
「私の髪型にケチをつけるおつもり！」
「つけるつもりで言ってやってるのよ！」
　このまま悪口合戦だったらどれだけ楽なことだろうな。さっきから言葉を発するごとに二人の間で魔力が高まっていく。
　ってちょっと待てぇ！！ここは家の中だぞ！！！
「もはや問答は無用ですわ」
「一瞬でけりをつけてやるわよ」
「あら、前はあっけなくやられたのは誰でしたかしら」
「そちらこそ、服を破らないくらいの知恵はつけたのかしら」
　――――――ゴゴゴゴゴゴゴゴ
　もはや、一触即発。
どちらかが暴発したっておかしくない。
そうなったら衛宮邸にて原因不明の爆発事故発生。明日の朝刊に一面を飾るだろう。

―――まずい
まずいですよ。果てしなくまずい。セイバーのエクスカリバーの次にやばいことだぞ。
とんでもない事になる前にさっさと止めなければ。
「二人ともやめ―――」
「いい加減にしなさーーーーーーーーい！！！！！！！！！」
　――――――ゴアァァァァァ！！！！！！
　まさに獅子の怒号、二人の殺気は一瞬にして消えていく。
「な、なんですのあな―――」
「メイガスよ。あなたはあなたなりの信念があって、ここに参上したのはわかる。
　だが白昼堂々、さらには赤の他人の屋敷内で戦を始めるとは何事か。恥を知りなさい！」
　ルヴィアは居心地が悪そうに萎縮してしまった
「リン、あなたもあなただ。聖杯戦争での誤解で生まれた怨恨なら誤解を解くものであって、決闘で始末をつけるものではない。何事も己の力でねじ伏せようとする考えはやめなさい。
　それに聖杯戦争のことならばそれを今ここで証明すれば良いだけのことだ」
　そういえば、そうだった。遠坂も口を押さえていまさらのことのように気づいた。
たしかに、セイバーが来たのだから説明は簡単にできる。
「ちょっとお待ちになって、いったい何の話ですの」
　遠坂は仕方のないと言うより、いやいやという感じで話しだす。
一方ルヴィアは一向に場の空気が読めていないようだ。
「いい、ルヴィア。あんただから特別に教えてやるのよ」
「私が聖杯戦争で呼び出された英霊の一人。セイバーです」
　凛とした騎士王の声が居間に響き渡る。

某月某日　ＰＭ１７：５３
――――冬木市　衛宮邸

あれからずいぶんと時間が経った。
ルヴィアに聖杯戦争とセイバーのことを話したが、最初は全く信じてもらえなかったが、霊体になったり、並はずれた魔力の量や強力な対魔力など様々な事実を証明していくと、次第にこちらの話すことを信じてもらうことができた。

―――が、それによって今度は思わぬ事態が襲ってきた

「本当にあなたは英霊という存在なのですわね」
「ええ、そうです」
　先ほどからこの調子だ。
ルヴィアがセイバーを英霊だと理解すると今度は態度が一変してセイバーのことを非常に気に入ってしまったのだ。もはやさっきまでの怨恨話はどこへやらだ。
「すごいですわ。英霊が現代で受肉しているなんて、蘇生…魔法の域の話ではなくて？」
「ええ、たしかにそういうことになります。私はすでに過去の存在です。聖杯の力によって現生している時点で奇跡の域です」
「すばらしいですわ。こんなことに巡り会えるなんて。私、なんだか夢を見ているようですわ」
　ルヴィアは完全にセイバーに魅入られている御様子。というか聖杯の奇跡の方なんだが
それにさっきから遠坂は面白くないといった面持ちで二人を見ているなぁ。
　おい、そこでガンドの構えなんてするな。これ以上、喧嘩なんかしてどうするだ。
「それでは、他の英霊は……」
「ええぇーーーい、もうそれくらいにしなさいっての。あんた、いつまで質問責めするつもりよ」
「あら、そういえば随分と時間が経っていたのですわね。まだまだ話したいことがあったというのに…
セイバー、いろいろと話してくれて感謝いたしますわ」
「いえ、これくらいなら構いません。私は争いを止めるためにしたことですから」
　セイバーは凛とした態度でルヴィアと応対するが、この二人の対話が何故か絵になるな。
二人とも外国人ということもあるのか、全く違和感を感じさせない。いっそのことこのまま母国語でしゃべってしまうのではないだろうかという感じだ。
　もちろん、そんなことになったらチンプンカンプンだろう。
「もうこれでいいでしょう。聖杯戦争は本当にあった、英霊は存在した、あたしは一切嘘なんてついてないっての！！」
　がぁーっと、居間中に響き渡る声を遠坂は吠える。
なんだか、さっきから異常に機嫌が悪いな、さっき思い出したが、ロンドンでルヴィアに負けた事を根に持ってるのかな。
「えぇ、あなたの言っていたことはたしかに本当でしたわ。トオサカ。今までの非礼をお詫びいたしますわ」
　軽く頭を下げるルヴィア。
　驚いた。なにがって、こんなプライドの高そうなお嬢様がさっきまで大喧嘩していた相手に頭を下げているんだから。俺でなくても驚く。
　遠坂も目を丸くして、目の前で起こっている出来事に困惑している。
「ふ、ふん。わかればいいのよ。でも、意外だわあなたが人前で頭を下げるだなんて」
「これくらいの寛容を持って当然です。それに今後のことを考えるとこれくらいどうということはありません」
　え？今後のことって、いったいなの話だ。
「シェロ。今から私をこの家に住居人させなさい」

―――時間が止まりました
　正直びっくりです。俺は口をパクパクさせて何も言えないし、遠坂さんは本格的にオーバーヒート寸前です。いったいなにを考えてらっしゃるのですか、あなた様は。
　だ――
「誰が許すか。この馬鹿女ぁぁぁ！！！！」
　あぁ、ものの見事に爆発しだしたよ。
「あら、私はシェロの屋敷に居候したいのですよ。あなたの屋敷ではないのですからご心配なく」
「だ・か・ら・なんで士郎の家に居候しようなんて考えるのよ！！！」
　がぁーーー。本日三度目の爆発です。遠坂ほどほどにしておかないと倒れるぞ、おまえ。
「シェロの屋敷に住まうことができれば、それはセイバーと同居するできる。それは蘇生魔法をより深く知ることに繋がると考えられませんの？」
「んな、とんちきなこと考えられるわけがないでしょうが！！
　それに、ここはただでさえ人が居るってのに、これ以上は無理に決まってんでしょうが」
　たしかに正論だ。うちはもうすでに準住居人を含めても、7人もいるからなぁ。正直これ以上増えられると無理があるな。
「その点でしたら問題ありませんわ。
　シェロ、これを受け取りなさい」
　そして、懐からおもむろに出してきたのは、学生風情では手の届かないまでの札束を目の前に置いたのだ。
これはもしかしますと―――
「居候させていただく間の家賃ですわ。セイバーからここの家計が火の車だと聞いたので、必要でしょう？」
「セイバー！おまえなんてこと話すんだよ」
「す、すいませんシロウ。彼女としゃべっていたら、いつの間にか口から出てしまって」
　セイバーさん、自分の家の家計をペラペラとしゃべるもんじゃありませんよ。
それにしてもよわった。こんな大金受け取れるわけないじゃないか。
「足りないとでもいうのかしら？ならもう一つおつけいたしますわ」
　さらに札束がボンと置かれる。いや、ですから人様からそんな大金を受け取れないんですって。
　あぁでも―――
　遠坂の方は崩落寸前まで追い詰めている。遠坂、ここは俺の家だからな勝手に売り払らったりするなよ。
「ルヴィア、悪いんだけど受け取れないよ」
　ルヴィアと遠坂は驚いたような顔でこちらを見る。
「どうしてよ、受け取ったあとでどっかに捨てちゃえばいいじゃないの」
　遠坂さん。私は罪を犯してまでお金を手に入れようとは思いません。
というか本人の目の前でそんなこと言うなよ。
「シェロ、なぜですの。ここまでの好条件になんの不満ありますの？
　それとも、そんなに私をここに住まわせたくはないのですか？」
　いや、だからそういうのじゃなくってさ。
「条件とかそういうのじゃなくて、俺はこんな大金を初めから受け取るつもりはないんだ。
　それにセイバーに会いたいって言うならいつもで来てくれたっていいんだ。それにこういうのはなんだか悪いし、そんな大金を払ったりしてルヴィアに負担をかけさせたくないんだ」
　そういうと、ルヴィアは心底驚いたという顔をした。
これだけ本心を伝えたんだ彼女だってわかってくれるだろう。
「そうですわね。えぇ、そうですわ。本当にお恥ずかしいところをお見せしましたわ。私の無礼を許してくれますか？シェロ」
「いいよ、わかってくれたのなら。俺も色々と無茶を言った」
「そんなことはありませんわ、シェロの言うことは正しいですわ。
　私はそろそろ退散しましょう。これ以上、醜態を晒すわけにはなりませんわ」
　ルヴィアは札束を戻した懐に戻してゆっくりと腰をあげると玄関の方へと歩いていく。
「それでは、色々と迷惑をおかけしましたわね。私はこれで帰らせていただきますわ」
「あぁ、また暇なときに来るといいよ」
　そういうと、遠坂は、余計なことは言わなくていい、というような顔で睨みつけてくる。
「えぇ、もちろんですわ。お暇なときはいつでも会いに行かせてもらいますわ」
　では、と金色の貴族は最後まで気品ある態度でその場を立ち去った。

某月某日　ＰＭ１１：４８
――――冬木市　衛宮邸

ルヴィアが去ってから数日後、衛宮邸ではいつもと変わらない日常を過ごしていた。
「先輩、お魚が焼けましたから持っていってください」
「おう。おっ良い具合に焼けているな」
「はい、今日のは自信作ですよ」
　桜と昼食の準備を進めていく。居間には新たに加わったバゼットやカレンを含めたメンバーとセイバー、遠坂、ライダーといったいつもの面々が昼食を待っていた。
　その間にテーブルの上には次々と料理が運ばれてゆき隙間を埋めていく。
「シロウ、それで最後ですか。」
「おう、あとは桜がくるのを待つだけだ。もうしばらく辛抱してくれ」
　セイバーは、わかりました、と頷くと自分の指定席に移ってくれた。
　すると、台所からエプロンを片付けながら桜がやってきた。
「おまたせしました」
「よし、それじゃあ。桜もきたことだし飯を食おう」
　皆が料理に箸をつけようとしたとき
　―――ピンポーン
　それを中止させるかのようにチャイムが鳴った。
「シロウ」
「わかっている。皆は先に食ってくれ。俺が出るから」
　箸を置いて、玄関の方へと向かう。いったい誰だろう。こんな昼時に―――
　―――ガラガラガラーー
　玄関の戸を開けてみるとそこには
「こんにちはシェロ。遊びにきましたわよ」
「で、ええぇぇぇ！！！！！？？
　なんでルヴィアがいるんだよ」
　俺の声に反応して居間の方も騒がしくなる。そして、後ろから勢いのある足音が聞こえてくた。
「ちょっと、ルヴィアが来たってどういうことよ！
　あーーー！！あんた、なんでまたここに来てるのよ」
「あら、騒々しいですわね、トオサカ。私はシェロに言われたとおりにここに招待させてもらったのですよ」
　へ？俺に言われたとおりに
「ちょっと待て、俺はルヴィアを家に招待した覚えはないぞ」
「えぇ、今日はシェロの御呼ばれがあったわけではありませんわ。私の意思でここに来たのですもの」
「？？？」
　ますますわけがわからない。ならなんで俺に言われたとおりなんだ？
　するとルヴィアはとても楽しそうにこう言った。
「シェロは言いましたは『また暇なときに来るといい』と」

――――あぁ
　たしかに言いましたね。そんなこと言っちゃいましたね。でもさ、だからってロンドンからここにほいほい来るのは考えておりませんでしたよ。
　俺の意識が遠のいている間、遠坂が話しだす。
「ちょっと、あんた。いくらセイバーに会いたいからってロンドンから行ったり来たりしてたら出費がとんでもないことになるわよ」
「その点でしたら、なんら問題はありませんわ。だってもう屋敷は構えてしまいましたもの」
　またまたとんでもないことを言いだす。
　屋敷だってそんなのどこにあるんだ？もしかして、あの隠れ別荘地か？
「シェロの隣の家を買い取りましたわ。とても穏やかな方で、ご希望の金額を提示してあげたらすぐに立ち退いてくれましたわ」
　いや、それは穏やかじゃなくて、幸せの絶頂というのだろうか。
よほど高額な金額で譲ったんだろうなぁ。
「というわけでシェロ。これからしばらくシェロの屋敷に出入りすることになりますわ。まぁ欲を言えば、たまにそちらの寝床を貸していただければ、なお嬉しいのですけれど」
　あぁ、そういうことか。
俺の家は住居人が次々に増えていく特性があるようだ。
本日、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトを迎え。衛宮邸にまた一つ。
華やかさが増していくのであった。