ランサーズヘブンファイナル
そこは戦場だった。 3人のサーヴァント達は互いに背を向けたままその気迫だけで相手を牽制しあっていた。 張り詰めた空気は居合い抜きでの一騎打ちを思わせる。 だが三人には明らかな差があった。余裕というものを次第になくしていく二人に対して、一人ランサーだけは底なしに膨れ上がる気迫とともにそれに対峙していた。 いつものスタイルを捨て、仁王立ちでそれを構える姿は戦場を睨む獣のようだ。 「これで、30!」 静から動に、静寂を突き破るようにランサーが釣竿を一気に引き上げる。 宣言どうり、そこには30センチ以上ある鯖が吊り上げられていた。 「・・・く!」 アーチャーが満足に受け流せる限界に達した。釣った数は17、ここからの逆転は不可能に近い。 「これが、貴様の本気というわけか。」 いっぽう英雄王は23、数ではまだ追いつくチャンスはあるが獲物は小物ばかり。 吊り上げたものすべてが20センチ超のランサーとでは質が違う。 さらにカウントされていない蛸も含めると英雄王でさえ追いつけないほどランサーは吊り上げていた。 あくまで趣味、娯楽と割り切りダブルアーチャーの挑発にも乗らなかったランサーだったが、ついに漁港最強を証明しようと本気を出してきた。 「ランサー・・・。いったい何がお前をそこまで駆り立てるんだ?」 ホントは分かっているがとりあえず言ってみた。 おそらく、最初はキャスター夫妻が、たまには人並みに趣味のひとつでもとここに釣りしに来たのが始まりだったのだろう。 キャスターは意外にも釣りがうまかった。 船上生活が長かった経験か、釣れるたびに葛木教諭が手を添えて手伝ってくれるからか(おそらく後者)、キャスターは大物ばかりを実に面白いほど釣り上げていた。 ・・・周りで時折「海の中に骸骨が!」と悲鳴が上がるが海に怪談は付き物ということで。 アサシンこと佐々木小次郎も見事だった。天下無敵、筋金入りの退屈男、こういったことは得意中の得意のようだ。獲物は小物中心だがワカサギ釣りのごとくひょいひょい釣っていた。時折釣竿が3本に見えるのはご愛嬌。 ・・・どうして山門から離れてキャスター夫妻と一緒にいるのか聞いてみると、「葛木殿の眼鏡から離れるわけにはいかないのでな」と、意味不明なことを言っていたが。 セイバーも来た。 最初は釣竿を借りて遊びがてらに始めたが、何事にも真剣勝負な彼女はやがて本気になり、持ち前の勘の良さで確実に魚群を突き止め、海の上を歩いて磯釣りで相当釣り上げた。 即刻やめさせたがそれでも相当な釣果だった。 圧巻なのはライダーだった。なぜかやってきた彼女は「家計を助けようと思いまして」と言うと、釣り糸をたらしたとたんありえないほどの大物ばかりを次々釣り上げた。 何でも昔海の偉い人と付き合いがあって、今でも機会があれば贈り物をしてくれるとか。 しかしサケ、マグロ、イルカと外洋のものばかりとはどういうことか。 あ、イルカはリリースしましたですよ? 一人を除き全サーヴァントが釣りをしたわけだが、気づけばランサーは、召喚されたサーヴァントの中で最低の釣果しか上げていなかった。 ここに来てついにランサーは立ち上がった。座った姿勢から。 「31!!」 釣竿がしなり、一気に魚を釣り上げる。カレイだ。やはり大物。 「すげー!ぎる、あの兄ちゃんすげー!!」 「・・・ぬう!カンタ、撒き餌を買ってくるのだ!いや、電話してトラックいっぱい持ってこさせろ!」 英雄王はあせって妙なことを言っている。 「くっ・・・!やつの背中に天才釣りキチ小学生のオーラが見える・・・!」 アーチャーはテンパって変な幻覚を見ている。 だが確かに、言われてみればランサーが釣りキチならアーチャーと英雄王は釣りバカサラリーマンとその社長に見えてきた。 「・・・小僧。バケツが足りねえ、調達して来い。」 全神経を海に集中させたまま、こちらも向かずにランサーが言う。 ランサーはまだやる気だ。ここで容赦なく叩きのめす気らしい。 「勝負はついてる。もう十分だろ、これ以上釣ったら生態系を壊しかねない。」 いや本気で。 だがランサーは聞く耳持たない。 「いいから、もってこい。これには英雄の誇りがかかっているんだ。」 殺気すらこもった声で、パシリを命じられる。 妙なものに誇りをかけないでほしい。 とはいえ鬼気迫るランサーに逆らえるはずもなく、仕方なくバケツを取りに向かおうとすると、知った声に止められた。 「シロウは、そんなことしなくてもいいんだよ。」 「イリヤ?何でこんなとこに?」 ここは善良な、もしくは正常なものが来ていい場所じゃない。 何で彼女がこんな、とこ、ろ、に・・・?!!! 「最強を決める、なんて馬鹿げたことに決着をつけてあげようと思って。誰が最強かなんて、最初からわかっていることでしょう?」 初めて彼女に出会った夜を思い出す。 彼女はあのときのように魔性を秘めた笑みを、その後ろには・・・ 「・・・バーサーカー・・・」 後ろには、帽子にサングラス、ジャケット、釣竿にクーラーボックスと完璧な釣りルックの狂戦士が佇んでいた。 「・・・ついに真打登場ってわけか。」 もとよりランサーが唯一認めた男、いずれ来ると予想していたのか。てか普通来ない。 「あの釣竿、我の蔵にないものだ。」 他人のものを何でもほしがる癖はやめましょう。 「あの釣竿は、レニウム?釣り糸はファインメタルとカーボンナノファイバーのコンポジットワイヤー、リールは小型ながら6トンの吊り上げ能力を持つト○ヨー製のウインチを手動に改造したものか。これほどのものをすべて特注で作るとは!」 冷静に鑑定するアーチャー。突っ込みどころが多すぎるけど、とりあえずひとつだけ。もはや釣竿ではなくクレーンだ。 漁港の雰囲気は完全にバーサーカーが支配した。 英雄王の取り巻き(?)の子供らもあっけに取られ動けずにいる。 トラウマにならなければいいが・・・。 バーサーカーが釣りのポジションに着くと、イリヤは一言命じた。 「バーサーカー、狂いなさい。」 マジですか!? 「■■■■■■■■!!!!」 神話の英雄が、漁港に降臨する。 「失礼する、イリヤスフィール。」 「え?きゃ!」 アーチャーがイリヤを抱えて離脱する。 見れば英雄王もすでに引き連れていた子供らを抱えて逃げていた。意外と面倒見いいのね。 ここには、バーサーカーのほかは、ランサーと俺だけが残されたいた。 すでに俺の身体能力では退避は間に合わない。 「・・・あの、らんさー?」 一縷の望みをかけて聞いてみる。 「運がいいな、小僧。こんなの一生に一度見れるかどうかだぞ?」 それで一生が終わるならその通りでしょう。 振りかぶるバーサーカー、 しならないはずの超硬のレニウム製の竿がしなり、加速度で伸びないはずのコンポジットワイヤーが引き伸びる。 竿の柄ですでに音速。先端は極超音速となり大気との摩擦で真っ赤に加熱する。 衝撃波を伴った投擲は、大気を激動させ海を爆発させた。 振動は港全体を揺るがし、海水が世界を逆さにしたように天に向かって打ち上げられる。 「っ・・・!!〜〜〜!!!」 叫び声もままならない。嵐の中、まるで木の葉のように翻弄される。 ・・・一転して静けさが漁港に戻る。バーサーカーは竿を振り下ろした姿勢のまま動かない。その必要がないからだろう。 あ、生きてる・・・。助かったのか? ランサーの足にしがみつき、どうにか吹き飛ばされずにすんだようだった。 「さすがだ、俺が見込んだだけのことはある。見事な釣りっぷりだぜ。」 この大惨事の中、仁王立ちで事の成り行きを見守ったランサーも見事だった。ずぶ濡れだが。 上からは打ち上げられた海水が瀑布のように降ってくる。それとともに大量の魚も空から降ってくる。 もはや誰が一番釣り上げたのか考えるまでもなかった。 ダイナマイト漁法。 確か禁止されていたはずだけど爆薬を使ってないからいいのかな?いや、よくはないだろう。 とはいえ、これで漁港最強はだれか証明された。 これにてこの不毛な、本当に不毛な戦いは幕を閉じた。 このあと、さすがに漁協からクレームが来て漁港での釣りは禁止された。 ランサーの楽園は、名実ともに地上から消滅した。
by ゆうすけ
ランサー、およびバーサーカー応援のつもりでしたが、 どうなんでしょうこれ? どのキャラクターも魅力的で あちこち浮気してしまったような・・・。 人気投票、ほんと迷います。
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