"ECLIPSE：デュオ" by 魔眼使い

虚ろな4日間が過ぎて数日が経った休日の朝。ふと部屋を整理していたときに不意に足元に落ちたモノは･･･

「ん？チケットか？」
　そのままゴミとして処分しようとした書類からハラリと落ちたのは3枚のチケットだった。
　「お、わくわくざぶーんの無料チケットか。まだ残ってたなんて藤ねぇ何枚おいていったんだ？」
　というより一体誰から何枚もらったんだ？
　「3枚もあるのか････最初から全部見つけてれば皆でいけたんだけどな。」
　ん？何だこの嫌な感想は？なにやらイッテハイケナイことを言った気がする。背筋がゾクゾクする悪寒さえ感じ始めている･･･早々に忘れることにしよう。うん、マジで。
　「でもどうしようかな･･･」
　時間は午前9時前。朝食を食べ終わり片付けもさらっと済ませた後だ。休みだし別段予定もない。
　「よし、誰か誘ってみてもいいな」
　秋にしては暖かい日差しでありちょうどいいといえばいいかもしれない。
　「後は誰を誘うかだなぁ・・・・・」
　チケットは3枚。自分の分を引いても2枚。つまりは2人誘うことができる。いつものメンバーを考え始めて2人という組み合わせだと誰がいいかなぁ、などと考えながら取りあえず居間にいってみた。
　否、行ってしまった。
　そこには朝の清々しい空気や雰囲気など微塵も存在を許されない阿鼻叫喚と化していた。
　「カレン、そろそろ私のサーヴァントであるらんさーを返却願いたいのですが。」
　「あら。まだそんなことを言っているの？アレの所有権はすでに私にあります。令呪も私にあるのですから正当な権利かと。」
　「それはあの神父が私から奪ったものです！もとより正当な所有権は私にあるはずです、なれば私に返却するのは当然の結果です！」
　ぁ～・・・平穏な空気がギスギスを通り越してチクチクした空気になってるぅ～。それもそのはず。もともと敵対関係とまではいかなくともそれに近い関係にあったバゼットとカレンが衛宮邸に居候しているのである。日に日仲の悪い2人の仲がより一層悪くなっていくのは正直心臓に悪い。
　「それはどうかしら？半年もぐーぐー寝ていた間にも事態は進行するわ。ランサーはあなたから言峰へ、そして私へとマスターを変えていきならもちゃんとサーヴァントとして存在しているし現に何の問題もない。」
　カレンの言い分は正しい。その事に反論できないバゼットの目付きが剣呑なものに変わる。心なしか歯軋りの音も聞こえ出す。
　しかし、カレンの表情は底意地悪い魔女の微笑そのものであった。
　「私でも半年も放置なんてできないわ。そんなにじらしたりしたら可哀相だもの。バゼット、あたなは随分なスキモノなのね。」
　「！！？」
　バゼットの視線に殺意が篭る。片膝立ちになり迎撃体制を取り始める。ってちょっと待てーーー！！！？
　いざ夜の街中ならいざ知らずこんな朝から人ん家でなにをするきだあの人間凶器は！
　「待て2人とも！そこまでだ。バゼット落ち着け。」
　空かさず止めに入る。じゃないと大事な家がメチャクチャになる。
　「士郎君・・・邪魔しないでください。これは私と彼女の問題です！」
　「駄犬の分際にしてはいいタイミングね。褒めてあげるわ。」
　何なのだろうこのシスターは？性格が悪いというより腐ってないか？
　「今何を考えたのかしら？駄犬の分際で主人にたてつく気？」
　訂正、腐りきっている。間違いなく、確実に！
　「バゼット、カレンに憤りを感じるのはお互いの共通観念なのは置いておこう。兎に角家で争うようなことは止めてくれ。」
　なおも反論しようと息を呑むバゼットだか俺のジト目の前に膝を折って座りなおしてくれた。ホントは本気の懇願の目であったのだが。だって怖いし。
　そしてネクタイを直しながらコホンと咳払いをして、
　「すませんでした。場所をわきまえず感情にとらわれてしまったようだ。私としたことがとんだ失態です。」
　改めて謝罪するバゼット。うん、誠心誠意言えばちゃんと理解してくれるのだ彼女は。
　「カレンも少し言いすぎじゃないか？バゼットはバゼットでいろいろあったのだし少しは言葉を選んでくれ。」
　カレンにも反省してもらいたいがこのシスターが人の言うことを素直に受け入れてくれるかどうか・・・
　「そうね、私も少々大人気なかったわね。」
　どういう心境の入れ替えようなのかは不明だが素直に受け入れてくれた。まぁいいことではあるのだけれど不安の拭い去れないのは何故？
　「でもそれとこれとは別の話です。アレの現所有権は私にあります。返せといわれてもそう簡単に返せません。」
　ちょっと拗ねているのか伏目がちなカレン。だがバゼットの反感を買うには十分らしい。
　イカン、止めないとこのままではさっきの二の舞だ。
　バゼットが反論するまえにこちらから切り出す。
　「まぁ落ち着いてくれバゼット。なんかこのままじゃ進展なさそうだし。どうだ？息抜きしてみないか？」
　2人で目が点になっている。この隙に一気に勝負に出る。誰かさんではないが先手必勝！
　「プールの無料券があるんだ。いってみないか？」
　さらに目が点になる2人。先に反応したのはバゼットだった。
　「どいうい風の吹き回しですか、士郎君？」
　「どうもこうもない。たまたまチケットが3枚あるんだ。誰か誘おうとしたら居間に2人がいただけの話だよ」
　もっともタイミングは最悪であっあが。・・・・いや、この場合はいいのか？
　そしてカレンもようやく頭が回り始めたようだ。
　「なるほど、些か違和感も感じなくもないですが筋は通ってますね。」
　ぐっ、なかなか鋭いところをついてくるが正直なところ居間の雰囲気をどうにかしたかったのは確かなのだ。本気になられて家を壊されても困るし。被害があるのは俺だし。
　「2人とも用事とかあるなら止めておくけど。どうだ？」
　「私は特に急ぐ用事はありません。家主である四郎君からのお誘いを断るに足る事態もありませんから構いません。」
　あっさり承諾したところはバゼットらしいといえよう。
　「カレンはどうだ？」
　「私もこれといった用事はないです。同行しましょう。」
　よし、作戦成功。見事我が家の無事を確保しました軍曹殿。後は2人の仲がよくなるようなことになれば御の字であります。
　まぁ。2人の水着姿が見てみたいというのもあるのですが。俺だった男だし！
　「よし、そうとなればさっそく行こう。じゃ30分後に居間に集合でいいか？」
　「あ、あの・・・」
　「あ・・・・」
　と居間を出ようとしたら2人に同時に呼び止められる。
　「ん？どうした？なんか用事あるのか？」
　「いえ、そうではなくてですね・・・」
　何か申し訳なさそうに目を泳がせるバゼット。見ればカレンも同様の反応だ？
　先に口火をきったのはバゼットだった。
　「実は・・・私はこの街には元々聖杯戦争のために訪れたので、その・・・・」
　なんだろう？その位はすでに既知なのはお互い了承済みである。
　「私は・・・水着を持っていないのです！」
　・・・なるほど。そりゃ確かにそうだ。わざわざ水水着を持って戦争をする魔術師はそうはいないだろう。旅行でもそうそう持ってこないだろうし。
　「じゃカレンもか？」
　「はい、私もこの地に赴任してきたばかりでして、その・・・あまりそういったものを持っていません。」
　まぁ当然か。ストイックな修道院生活をしていたカレンが水着なんて買うとは思えない。
　「そっか、困ったな。・・・・行くついでに買うにしてもちょっと時間かかりそうだし。」
　男である俺ならそう時間は掛からないだそうが女性はそうはいかない。ましてや水着ならなおさらであろう。
　「まぁ時間もあるしそれでも問題ないかな・・・あ」
　そこで思い至った。余りに気づきにくいことではあったがここで思い出せたのは僥倖だった。
　「確かわくわくざぶーんの中に水着の売店があったはずだ、そこで買えばいいかな？」
　そう。前に言ったときに見かけたのだがレジャースポットだけあって売店もあったのだ。それも、レストランやお土産だけじゃなく水着も置いていたはず。
　「デパートとか専門店よりは種類はないけど、それでもいいか？」
　「ほう、それは便利だ。私はそれで構いません。」
　笑顔で快諾してくれるバゼット。思い切りの良さはやはり封印指定を受けるほどの魔術師ならではなのだろうか？
　「私もそれで。そこまで選り好みはしません。」
　カレンも問題なしということなのか了承してくれた。
　これで問題はなくなった。後は行くだけだ。
　「じゃOKだな。30分後に居間に集合で。」
　
　そうしてバスに揺られて新都に到着。実際準備は10分程度で終わったことが意外だった。確かにあまり時間の掛からなそうな服装だけどね。
　「それじゃ、2人ともここからは時間掛かるだろうから更衣室前のプールサイドで待ち合わせしよう。」
　「「解りました。」」
　そういって受付を終えた後に売店へと消えてゆく2人。着替えてビーチデッキのテーブルでも確保しておこう。

「お待たせしました士郎君。」
　そして数十分。久しぶりに来たわくわくざぶーんの真夏さながらの日差しに肌が汗ばんできたころに声を掛けられる。
　「お、来たかバゼッ・・・・・」
　思考回路が一瞬停止した。
　バゼットはワンピースタイプを選びそうと漠然とイメージしていたがビキニタイプを着ていた。しかもアロハカラーの鮮やかな水着である。
　「どうでしょうか？私は地味なほうなので余り似合わないと思うのですが・・・」
　確かに日ごろの印象とは違うがバゼットの透き通った白い肌にはかえって彩りがそえられて似合っている。よほどの決断なのか少し恥ずかしそうにしているが十分に綺麗だ。
　「い、いや。似合ってる・・・と思うよ、うん。」
　直視すると顔が赤くなるのが解る。普段は男装しているが元は美人なのだ。水着を着れば女性としてのバゼットはこの上なく綺麗である。
　「そうですか、士郎君にそういってもらえるならそうなのでしょう。」
　自身がついたのか今までの緊張感が和らいでいく。笑顔で言うバゼットも綺麗だなぁ、と思う。今度何かブディックに連れて行って着飾らせてみたい。
　「その水着はバゼットが選んだのか？」
　ふと思い浮かんだ疑問が口から出た。
　「カレンと2人で選んだ、という形が適切でしょうか。私は競泳用の水着の方が泳ぎ易いと思ったのですがカレンが『それじゃせっかくの息抜きが台無しじゃない』と言って進められた水着から選びました。」
　確かにバゼットなら見た目よりも機能重視だろう。こういうところは遊び心が欠けているというか不器用というか。しかしあのカレンがバゼットにそんなアドバイスをするなんて・・・ちょっと見直してしまった。これもわくわくざぶーんの影響なのだろうか？何はともあれ仲良きことはいいことだ。
　「でも、私のような不器用な女にはこのよな水着は不釣合いでしょう。見ての通りの筋肉質ですし・・・」
　「そんなことはないよ。ボディラインのバランスはいいと思う。何て言うか・・・引き締まっててスラリとした感じで綺麗だ。」
　うわ、なんからしくないこと言ってるぞ俺！・・・でもバゼットって結構胸あるんだなぁ。普段のスーツからは想像できないけど水着になると結構なバリュームが。脱ぐとすごいのですってやつ？
　「そう言って頂けると嬉しいですね。せっかくお誘いしてもらえた甲斐があります。」
　バゼットの笑顔にまた赤面してしまう。ギャップがあるせいか今日のバゼットはとても綺麗な気がする、世辞抜きで。
　「そういやカレンはまだかな？そろそろ来ると思うんだけど？」
　これ以上話すと墓穴を掘りそうなので話題を逸らす。いや待てよ。バゼットでこれならカレンもそれ相応な水着のはず。・・・しまった逸らし所を誤ったか！！？
　「あら、随分とお待たせしたしら？」
　こちらの心の準備ができない内に背後からカレンの声がした。ええぃ、こうなればなるようになれ！！
　そっと振り返り・・・・バゼット共々硬直した。
　カレンの水着は紺色のスクール水着。おまけに胸元の白地には油性ペンで書いたの
「かれん」と書かれている。
　まぁ・・・水着イベントの定番ですがね？なにもここで来なくてもいいんじゃない？
　「なんですか2人とも。わ、私は主に仕える身です、そうそう肌を露出するわけにはいきません。」
　俺たちの反応が予想通りなのか、余りに予想外なのか複雑な表情なカレン。どちらにしろ初めての水着らしいので恥かしいのであろうが。
　「カレン、何故あなたは私にビキニを進めて自分はそのような競泳ように・・・」
　「っ！い、いいではありませんか。あなたには関係ないでうことです！こと水着とは水泳用のもの。別に色彩や見た目などにこだわる必要などないです。ましてや体形が現れやすいビキニなど・・」
　そこではっと我に返るカレン。でも十分遅いですよ？
　「別段気にする必要はないでしょう？私たち3人以外は見ず知らずの人ばかり、それに私たちは息抜きのためにきたのですから。」
　純粋に事実を言い放つバゼット。カレンはそれでもなんとか反論しようとして・・・
　「でもさぁ、」
　出鼻をくじかれたのか恨みがましい目でにらんでくるカレン。
　「そういう全体にフィットする水着のほうがボディラインがはっきりする気がするんだけど？」
　後色もね、とは言わなかった。というか言わないほうがいいだろう。
　しかし、それでも十分な威力があったらしい。
　「駄犬の分際でぇ・・・・・」
　イカン・・・肩がわなわなと震えている。心なしか声も擦れ声で俯いた顔は真っ赤だ。
我ながら少しデリカシーに欠けた発言だった。
　バゼットでさえこの状況に対応しきれないのか一歩引いている始末。原因の一端は君にもあると言いたいが今はそれどころではない。
　「それより早く泳ごう。せっかく来たんだし楽しまなきゃ損だ。」
　それでも俯いた顔がは上がらなかった。・・・くそっ、ここは強行手段でっ！
　カレンの手を取ってそのままプールに向かい、
　「ほら、いくぞ。バゼットもぼーっと立ってないで早く来い」
　半ば自棄になりながら言う。他にいい方法があるだとうが今はこれが精一杯だ。
　しかし、意外な事に2人ともなぜか目を輝かせた。
　（やはり、彼ににています。もともとが彼なのからでしょうがここまでだとどちらがどちらに似ているのか・・・）
　（確かにそうです。容姿もさることながら内面も似始めてきているのでは？）
　なにやら良からぬ事態になりそうだが今はあのアカイヌノもフラガラックも更衣室だろう。が、安心はできない。兎に角ここはプール楽しむための場所という土地条件を最大限に発揮せねばっ！
　「ほらっ早くいくぞ、もたもたしたら時間なくなるしな」
　そのままの勢いでプールに入る。後はもう遊ぶだけだ。まだ午前だが時間は無限ではない。今は精一杯楽しむこととしよう。

早めに気分を変えてもらおうと目に付くアトラクションから攻めてみたがさすがに3,4つ回ると正午近い時間になる。そろそろ昼食にしよう。
　「バゼット、カレン。そろそろ昼にしよう。せっかくだし出店のものでいいか？」
　朝の事態でいきなり誘ったので弁当を作る余裕がなかった。2人の準備時間が短かったのも意外だったので何も準備できなかったこともあるが。
　「私はそれで構いません。」
　相変わらず即答のバゼット。まぁバゼットはいつも食事に関しては注文しない。作る側としては美味しく食べて欲しいがこればかりは難しい問題かもしれない。
　「そうね、たまには外食もいいですね。」
　とまぁカレンも即答。
　まぁ問題なく決まったので後は買いにいくだけだが･･･
　「じゃバゼット、3人分買ってきてくれないか？カレンは飲み物頼んでいいか？俺は場所見繕うからさ。」
　以前セイバーを一人にして絡まれたことがあったから女性陣に場所取りはさせないほうがいいだろう。・・・傍目から見ても2人とも美人のだし、男としては・・・イカンイカンッ、また赤面してしまいそうな思考はカットして場所を、
　「駄犬の分際で主人に頼みごとなんて、随分な身分ね。」
　「そうですね、私たちに「買わせる」という姿勢はいただけない。」
　あれぇ～、なんだこのいつぞやの凶悪タッグコンビネーションは？何かいけないことをしたのでしょうか？
　「そうですね、ここは魔術師らしく一勝負しましょう。簡単にかつ迅速に決められるじゃんけんで。」
　「では、審判は僭越ながら私が。」
　おかしい。何がというと全部が。
　カレンはあの悪魔の微笑を浮かべながらドス黒いオーラっぽいものを放つし・・・・
　バゼットはどこに隠していたのかフラガラックを浮遊させて起動準備してるし。
　「OK、食べ物と飲み物は俺が、お2人には場所を確保して頂いてもよろしいでしょうか？」
　殺られるまえに殺られないようにしないと身が持たない、3人分の食事代ですむなら安いものですヨ。
　「解りました。場所は私たちが確保しましょう。四郎君は迅速に食事の確保を。」
　「最初からそう言えばいいのよ、駄犬の分際で気の回らない。でも、多少は学習能力があるようね。」
　学習もなにも断ったらバッドエンドどころはデットエンド直行フラグが立ちかねないのである。これはもう本能的回避であります。
　まったくもってひでぇ条件である。
　鉄拳が飛んでくる前に早く買ってこよう。・・・・うぅぅぅ、親切心のつもりだったのに。

3人分の昼食と飲み物を抱えてバゼット達を探しているとすぐに見つかった。
　が、何故かバゼットが一人きりでいる。その隣には筋肉質な長身にセットされた蒼紙、まごうことなきランサーだった。
　「おぅ、坊主。やっぱお前もいたのか。」
　「四郎君、ご苦労様です。」
　さも当然とビーチチェアに座るこのアロハシャツは一体なんなのだろう？
　「なんだ。まぁそうウンザリしなさんな。今回はたまたまだよ。女を引っ掛けにきたんだがな。そこに見かけた顔があったんでな。いつぞやのことみたいになる前にこうしているわけよ。」
　ランサーはランサーで気を利かせているようだ。『いつぞや』の通りの結果にならなければいいね。
　「ランサー、あなたはサーヴァントという身分にありながら何をしているのです。聖杯戦争のために召還された英霊がこのような場所であまつさえ女性をナンパなどと・・・それもこれもあの性悪女が、」
　「あー、そうガミガミ言いなさんな。今は別に聖杯戦争やってるわけでもあるまいて。本番になれば俺も本気になるさ。それまでは骨休めしようや。お前さんもそのためにここにいるんだろうに。」
　ニヒルな笑みを浮かべながらバゼットの叱責を受け流す。見ていると長い間組んでいる相棒みたいな感じだ。まだ小言を言い続けるバゼットを受け流しながらふと表情を消してバゼットを観察している。ただならぬ気配でも感じたのかバゼットはたじろぐ。
　「何ですか、いきなり黙り込んだと思ったらこちらを見つめて。私に何か問題でもあるのですか？」
　「んや、別に問題なんざ無ぇよ。ただお前さんにしてはなかなかいい筋のもん着てるなと思っただけだ。」
　バゼットが硬直する。次の瞬間には顔が真っ赤になっている。
　「な、何を言い出すかと思えばそのような戯言をっ！これは水着を持っていなかったのでこの施設の売店で購入したものです。別にあなたに合わせたわけではありません！」
　あぁ、不器用なことここに極まれり。明らかに怒っているのであろうがミエミエである。
　貫（わ）かれても～♪好きな人～♪
　「それにですね！この水着は別段私の独断で選んだ訳でもなくたまたまお似合いと進められただけであり、」
　「へぇ、普段お前さんの趣味にしては割と派手めだとは思っていたが、そいつもなかんかいい目してるねぇ。似合ってると思うぜ。なぁ坊主。」
　いきなり話を振られて反応が遅れる。
　「あ、あぁ。俺もそう思うよ。バゼットはいつもスーツ着てるから気づかないけど美人だし。いつもの感じより明るく見えて綺麗だと思うぞ。」
　今回は素直な感想が口をついて出てしまった。いきなりだから何の考え無しに言ってしまったが、
　「な！士郎君まで何を言い出すのですが。これはこの施設の売店で購入したものです。大衆向けに製造されたものでもので必ずしも私に合うとは言えないでしょうし、それに私は不器用ですからこのような派手さには無縁であって、」
　と言う割にはまんざらでもない様子である。
　「はははっ。そう照れなさんな。女は着飾ってこそ花よ。お前さんも女盛りなんだ。遠慮することもないさ。」
　爽快に笑いながら言うランサー。今度はバゼットも反論が出ないのか口をパクパクしていた。
　「そういや、坊主。飯を3人分もってるってこたぁ後1人いるのか？誰だぃ？」
　笑いながら言うランサーである。その『後1人』に矛先を向けようとしているのだろうが、
　「あぁ。バゼット、カレンはどこに言ったんだ？」
　「彼女ならトイレに行くと行ったきりです。」
　「ほぉ、残りはあいつかぁ。・・・って何！！？」
　ランサーが一気に警戒態勢に入る。あたりを見回しながらそそくさと席を立つ。
　「おい、坊主。俺はここにいないことにしろ。」
　「は？」
　「いいから聞け。俺はもう帰るから後は好きにしろ。それと金ピカの方はよく公園でサッカーしてると言っておけ。じぁな。」
　そう言って足早に更衣室に歩き出す・・・というより半ば駆け足で向かランサー。
　そっかぁー、確かにあのマスターじゃ会いたくないよなぁ。なんか面白いネタだが言わぬが花だろうか。
　ランサーの消えた方を見つめているバゼットは。「早く彼女から令呪を奪還しなければ」などと呟いている。
　「その・・・何だ。あいつはあいつで気を使ってくれたみたいだし、昼しよう！な！」
　強引に場の雰囲気を変える。じゃないと第3のストレンジャーが来る前に！
　「ただいま戻りました・・・皆さんどうかされましたか？」
　まさに間一髪。もう1分戻るのが早かったらどうなっていたことか・・・・。
　「いえ、別に何もありません。」
　即答のバゼット。さっきまでとは打って変わって凛々しいクールレディへと変貌している。
　「おかえりカレン。飯買ってきたから食ってるよ。」
　いくらか疑いの視線を向けられたがそのまま座って買ってきた焼きそばを食べ始める。
どうやらランサーは逃げ延びたらしい。つかの間の幸せに浸れてるといいね。
　
　午後からは閉館までのんびり過ごした。途中ビーチバレーでバゼットが本気になり始めたときはカレンと2人で逃げようか真剣に考えてしまったが。
　そのまま閉館前に帰途に着いた。
　「2人ともいきなりで悪かったな。楽しめた？」
　「えぇ、確かに息抜きとしては十分に楽しませていただきました。感謝します、四郎君。」
　「そうね、確かに楽しかったわ。またの機会・・・は無いでしょうけど。期待しないで待ちましょう。」
　「そっか。ならよかった。また来れたら行きたいな。」
　2人とも楽しめたようでよかった。それとなく険悪な仲も少しはよくなっているようなので一石二鳥である。
　そして家に直前に。
　「お、藤ねぇか。今帰り？」
　「あら士郎。と・・・スーツの人とシスターさん。こんばんわ」
　「「こんばんわ」」
　どうもぎこちない挨拶をする藤ねぇ。と言えどもバゼットとカレンとはほとんど会ってないから当然といえば当然か。
　「ねぇねぇ士郎～。3人で出かけてたみたいだけどどこに行ってたの？」
　「ん、3人でプールに行ったんだ。」
　「さ・ん・に・ん・で・？」
　何故かそこで硬直する藤ねぇ。そのまま直立不動となりわなわなと震えている。いや、痙攣している？
　「そうだけど・・・ただ3人でプールに遊びにいっただけだよ。」
　「士郎の・・・・、」
　地の底から響くような声音の藤ねぇ。なんだこの悪寒はっ！
　「士郎の女ったらしーーー！！！！！！」
　ドガーンッ！！！と噴火するように暴れだす藤ねぇ！そのまま勢いののった拳が俺の顎にクリンヒット！
　「お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないわよーーー！！士郎のばかーーーーー！！！！！！」
　ぐっ・・・まさかこんなところにバッドエンドがあろうとはっ！薄れいく意識の中、早く藤ねぇには説明すべきだったと後悔していた。