"彼の見たかった風景" by kei

「はぁ･････、これだけ探しても仕事が無いとは」
黒いスーツを着た男装の麗人バゼット･フラガ･マクレミッツはもう幾度と無く繰り返されたやり取りにいささか疲れきっていた。
封印指定の執行者である彼女に満足のできる給与を与えることが可能な職場が無いといったようなことで彼女が仕事を見つけられないのではない。
では、なぜか
それは彼女の類まれなる能力とそれを補って余りある不器用さと不可解な周囲の干渉、
この３つの絶妙なバランスによって仕事が長続きしない。

同様にランサーも仕事の長続きしないほうだが、２，３つの仕事を掛け持ちしたり、また、どの仕事をもそつなくこなすことができるので働き口は多々ある。
彼の問題点はそのナンパ癖や金髪の少年、銀髪の修道女、といった奇妙な来訪者達により引き起こされる騒動である。

話を元に戻そう、彼女は初め、薦められたとおり図書館の司書として働いたのだがそこはそれ魔術師の街、冬木市である。
いくつかの蔵書に問題があった。一般人には分からないのだから放って置けばいいのに
「士郎君、ちょっと手伝ってほしいのですが･･･」
この場に遠坂凛がいたら防げたはずの惨事『カレイドの蔵書』はこうして起こったのだがそれは別の話････。

また、破格のボディガード依頼もあったのだが、彼女の力の矛先が最大限に向かったのは何を隠そう依頼主の金髪の英雄王（小）である。
あのバゼットがサーバントの下に就く、さらにマスターはカレンときては争いは避けられなった。その戦いはあのランサーをして
「止めるべき戦いだった」と言わしめたほどである。

「･･････ふぅ」
こんな調子で定職にありつけない自分に嫌気が差した。
「･････鹿だな、アンタ」
「えっ････」
その声は確かに彼女と共に戦ったあるサーヴァントのものだった。
「アンタは結局それだ自分の力に誇りがもてない、いいか誇りってのは持ちすぎても、持たなさ過ぎてもいけないものだろう。」
もう２度と聞けないと思っていた高説
彼女が再び歩めることが出来たのはこのふざけた悪魔のおかげだろう
「前を見ることに疲れてる暇はアンタにはない、なんせ今まで寝てばかりだったからな」
「余計なお世話です。今生の別れでは無かったのですか」
思わず口元が緩む。
「なぁに、アフターサービスとおまけは物語には付き物ってことだ」
「物臭がりのアフターサービスなんて聞いたこともないですけど」
「事のついでだ。約束ってのは破るためにあるんだが、自分の得になるもんをわざわざ捨てる馬鹿はいないってこと」
「約束？　自分は無だから執着しないだの何だと散々言ってたあなたが･･･」
「ああ、どっかのキザな剣士に綺麗なねぇちゃんと楽しくお酒を飲む夜会を所望されてな」
「なっ、」
「そのために朝から正義の味方にはいろいろ動いてもらったってワケ。ま、酒ぐらい大目に見ろよマスター」
相変わらずの軽口である。思わずひっぱたいてしまいそうなほどの
「そら、場所は柳洞寺だぜ、遅れんな！！」
しかし、その子供のような背中に安堵感を感じた。

「ゲッ、呼んでもねえのにまぁ、おそろいで」
階段には見た顔が勢ぞろいしていた。
ランサー、アサシン、ギルガメッシュ（小）は小柄な女の子を口説いただの、自分の伴侶にするだの、無粋だのと不毛な争いをしている。
衛宮家の人間は･････
ライダーは１升瓶を片手にネコさん、藤ねぇ、そして豪胆なお坊さんと飲んでおり
凛は桜に友人から日頃の悪行が知れ渡るのを必死に止めている様に見える。
セイバーは一人黙々と重箱を空にしているようだ。
「なっ、何でアナタが」
ふと振り返るとそこにはカレンが
「よっ、アンタか。相変わらずそうだな。しかし、よくこんな宴会に来たね」
「私は使い魔２体が戻らないから････」
「ま、何でもいいや、ここまで人が多いと飲む気しねぇや、んじゃこれもらって帰るわ」
いつのまにか、豪華なカットグラスのボトルと重箱がひとつ
「待っ、待って」
どちらが言ったかは分からないが間に合わなかったようだ。
「おせっかい焼きの悪魔ねぇ･･･」
しかし、歩む気力がまた湧いたのも事実
今はまた悪魔の甘言とこの宴を心に留めるとしよう。それは彼の見たかった日常のひとつなのだから･････

「あれぇ、私の持ってきたお酒が無いよ」
とイリヤが言った。皆いっせいに固まった。