「なるほど、それは盲点でした。やはり貴女に聞いてよかった！」 「別にたいした事じゃないのに、オーバーですよ」 　喉に渇きを覚えたライダーは、お茶を飲もうと思って部屋から出た。何を飲もうか。この家に居ついて以来、多種多様なお茶を飲む機会が増えた。当然ながら日本茶にも慣れ親しんだ。ならば今日はそれにしようか。そんなことをぼんやりと思って廊下を歩く。日が落ちて夜の帳が落ちていた。瞬きしたら、何時の間にか陽が地平に帰っていた。そんな感覚に陥るほど、ライダーは本を読むことに熱中していた。昼食を食べて、みんなとたわいもない話をしてからになるから、相当な時間だ。喉が渇いて本を閉じ、台所に向かう途中、その話し声が聞こえた。なんとなく気になったので、そちらの方に足を向けた。 　庭に面した廊下にライダーは出た。そこで二人が座っていた。一方は藤村大河、もう一方は意外な人物、バゼット・フラガ・マクレミッツだった。 　声を聞いて予測はついていた。けれど、この取り合わせは一体なんだ。ライダーは首を傾げて考えた。もしかして、弟子二号の勧誘に？一号も揃った場面を想像してみた。あれ、すんなりと大丈夫のように思えるのは、気のせいだろうか。 　そんなわけない。ばっさりと想像を払った。 「アドバイスありがとうございます。これで受かったも当然！それでは、早速行ってみます。本当にありがとうございます、大河さん」 「受かったも当然って、気が早いなぁ。それに早速って･･･えぇ、もしかして今から！？それは気が早すぎ、バゼットさん！もうお夕飯が出来るしって。あっちゃ〜行っちゃったよ」 　言うや否や大河の制止の声を聞くことなく、バゼットは一陣の疾風となって廊下を走り抜けていった。バサッと長いライダーの髪が突然の突風で踊り狂う。玄関の方から「聖杯戦争はもう終わったって知ってるのに、また殺る気！？」と遠坂凛の怒声が響き渡った。 　暴走列車の消え去った方向を両者はしばらく見ていた。それを逸らしたのはライダーが先立った。そして、視線を藤村大河に向けた。 「タイガ、バゼットと何を話していたのですか」 「あ、ライダーさん。こんばんは」 　声をかけられて、ようやくライダーの存在を気づいた風だった。大河はちょっと驚いた表情を向けた。けれどすぐに破顔して挨拶する。庭に出した足を揺らしていた。 「そうね、夜間の生徒の進路相談ってところかな」 「どういうことですか？」 「早い話が、就職のアドバイス」 「あぁ、なるほど」 　そういえば、まだあの魔術師は職を見つけていないらしい。たびたび肩をしょぼくれされて歩いているバゼットの目撃談は数知れず。ある人曰く、疲れ果てて肩を下ろしながらトボトボと歩いていく姿が、あまりに見ていられなくって頭抱えて店を出て職が見つかるよう拝んであげたとかなんとか。はて、それは誰から聞いたのだろうか。 「それで、タイガ。貴女はなんとアドバイスをしたんですか」 「彼女の希望する業種を聞いて、これならイケるんじゃないってところを言ったぐらいですよ」 「希望する･･･あの人は確か、蹴る殴るを専門にしているような人でしたから。そんな業種って、まさか」 「それこそまさか」手を振って否定する、大河。「藤村組はそんな要因を必要としていません。抗争する気、まったくないもの。今じゃ珍しい昔かたぎのヤクザ家業」 「じゃあ、一体」腕を組み、考えるライダー。推理小説の探偵よろしく、推理は思い浮かばなかった。 　大河は自分の横を叩く。まぁここに座って、と。失礼と一礼して、大河の隣に座った。 「蹴る殴るイコールそうって訳じゃないですよ、ライダーさん。あるでしょ、たとえばスポーツとか」 「スポーツ･････プロボクサーとかですか」 　それなら、彼女の実力を考えれば世界を制することが出来る。けれどそんな派手なことは、事情を考えると出来ないし、彼女がやろうとは思わないだろう。やろうと思えば、真っ先にしていたはずだ。 「それはバゼットさんから、それは出来ないって言われた」 「では、何を薦めたのですかタイガは」 「スポーツジムのインストラクター。最近ボクササイズが流行っているって聞いたことがあったから、薦めてみたんです。それなら蹴る殴るという条件も満たせるでしょ」 「確かに」すとんと、胸につっかえていたものが落ちた。「思ってもみなかった。すごいですね、タイガ」 「たまたまですよ、ライダーさん。たまたま、そういう仕事をしている後輩がいるからってだけですから。その子に頼んでみましょうかって言おうと思ったんだけど、行っちゃったし」 　恥ずかしげに頭を掻く、大河。それに、いやいやと、ライダーは首を振った。 「実際、すごいですよ。あのバゼットにそんな適切にアドバイスできるとは」 「私、学校の先生ですからね。進路や就職の相談は必ずやらないといけないものですし」 「藤村先生、ライダー。お夕飯出来ましたよ」エプロンを着て桜が、言いにやってきた。片手にはおたまを握っていた。 「あ、桜ちゃん」「桜」二人同時に、声の主の方に向いた。真っ先に動いたのは、穂群原の生ける伝説だった。そのスピードを、ライダーはバゼット以上だと感じた。 「もうそんな時間なんだ！あ〜そういえばお腹減っちゃっているよ。さてさて、今日は一体何なのかな〜桜ちゃん？ばしばし食っちゃうわよ〜」 　先ほどとは打って変わって、大河は頬が緩みまくって桜に絡んでいた。まるで子供を大きくしたようなはしゃぎ様。呆然とその光景を見て、先ほどの人物と同一だったのか、ちょっとだけ本気になって考えるライダーであった。 「ハハハ、バゼットさんって面白い人よね〜」 　夕飯を食べ終え、皆食後のまったりした時間を過ごす。家主と桜は肩を並べて食器洗い、凛とイリヤは話をしていた。ライダーは、大河を捕まえ先ほどの庭に面した廊下で腰を下ろした。何故、彼女を捕まえたのか、ライダー自身よく分からなかった。 　そういえば、ライダーさんとこうして話をしたことってないですねー。そうのんきに笑いながら、話をしていた。会話は港の釣り師と仲良くなったなどの世間話から、先ほどのバゼットの話を行ったり来たりしていた。 「焦る気持ちも分かりますが、落ち着いていれば分かったでしょうし」 　猪突猛進に向かったバゼット。しかし見事に場所が分からず、見つからず、結局戻ってきて現在自分の部屋に引きこもっている。縦線を従わせた後姿を見たイリヤは「あれじゃバゼットじゃなく、ダメットね」と指を向けて言った。 「でも、バゼットさんには悪いけど、可笑しかった」 「確かに」 　そして二人同時に笑った。くすくすと笑い声が庭に浸透していった。 「そういえば」視線を夜空に向けて、大河は言った。「ライダーさんって自分のことで笑ったところって見たことがないなぁ」 　はじめは何を言っているのだろうかと、ライダーは戸惑った。 「私が知っているライダーさんが笑っているところって、桜ちゃんが関わっているときしか記憶にないの」 　視線をライダーへ向ける大河。その視線は真摯な印象を受けた。 「二人が似たもの同士だから、かしら」 「どうして、そう思うのですか」 　自分の声がどうして焦りの色をにじませているのだろうか、ライダーは不思議でならなかった。一体、何が言いたいんですか。その言葉が口から出掛かったが、飲み込んだ。 「あくまで、個人的なことなんだけどね。二人の関係が士郎と切嗣さんと似ているなぁって思ったの」 「キリツグというのは、シロウの義父でしたね」 「そう。その二人とあなたたち二人って似ているなぁって」 「どういうところが、ですか」声に刺々しさを滲ませて、ライダー。 「桜ちゃんは士郎に似ているね。料理が美味い、じゃなくて二人とも他人に縛られていたってところがそうね。きつい言い方をすれば自分が無かった。ライダーさんは切嗣さん。ぶしつけでごめんなさい、もしかして一人だけになっているとネガティブに考えたり暗黒面に陥りやすい？」 　それには、思い当たるところがあった。自身を化け物とした、あの忌まわしき思い出が鮮明に広がってきた。映像が見える。それを払いのける。そして思わずコクリと頷いていた。 「なんで」貴女には、桜にさえ話していないことが、「わかるんですか？」 「なんと言うか、直感？」 　あっさりと言い切って、大河。頬をぽりぽりと掻いていた。そのあっさり加減に拍子抜けすると同時に、なんだか土足で踏み込まれた感じがしてたまらなかった。 「そう思うと、何だか貴女たち二人がなんだか危なっかしい」 「それが」ライダーの中の何かが、切れた。「それが、どうしたというんですか。貴女には関係の無いことだ！」 　大声を出した途端、世界が眠りに落ちた瞬間のように、静まりかえった。たった数秒だったろう、音が戻るまでの時間が膨大に長かったような気がした。「ごめんなさい」と大河の声を聞いて、ライダーはようやく我に返った。 「そう、ね。私には関係なかったですね」 「こちらこそ、大声を上げてすいません」 　その時、「どうしたんだ」という声と、廊下を慌しく叩く音を耳にした。 「別のところ、そうだ、私の部屋に行きましょう。さっきの声で皆が集まってくる。急ぎましょう」 　そう言うや否や、ライダーは大河の腕を無理矢理引っ張っていった。何故こんなことをしているのだろうか、自分は。自問自答する。まるで皆から逃げているかのようだ。いや、どう見ても逃げていた。けれど、どうして。考えても思いつかない。だから、まずは彼らに鉢合わせせず、そして気づかれずに自分の部屋へ行くことにした。 「これ全部読んでいるんですか、ライダーさん？」 　開店前の本屋のように、部屋のいたるところに本が積まれている。その一つを大河は指差した。 「いえ、全てではないです。大河が指差しているところのはもう読んだのですが、押入れの引き戸の前に積んでいるのは未読ですよ。もし読みたいものがあれば、持っていってもいいですよ」 　奇跡的に、何とか振り切ってライダーは大河と共に自分の部屋に戻ってきた。部屋を出たときと様子は変わらない。誰かが入ってきた様子は無い。ライダーは彼女を中に入れて、戸を閉めた。 　大河は部屋のほぼ中央、ライダーは窓の近くに座った。けれど、先ほどの怒声の所為か、重い空気が居座っていた。しばらく経って、 「さっきはごめんなさい」 　大河が頭を下げた。「不躾過ぎたわ。言われる方の気持ちを考えてなかった」 「謝るのはタイガではありません、私です。私のほうこそ、あんな大声をあげてすいませんでした」そう言って、頭を下げた。 「貴女に図星を突かれたから、あんな大声を上げたんだと思います」 　謝ってからまた沈黙がしばらく場を支配した。それを今度はライダーの方から破った。今度は自分がしないといけない、そう思って口を開いた。 「私は時々思うんです。今のここの暮らしは今までの中で、心安らかだ。けれど、それが何時まで続くのだろうか。壊れてしまうのではないか。いや、壊してしまうのではないか」 　これから言おうとしていることは、自分の罪の根幹の部分だ。それを、違う世界の人間に話そうとしている。けれどなんでだろう、彼女に話すことへの抵抗感が何だかなくなっていくのだ。肩から力が抜けていく感じ。 　視線を夜空に向けた。雲が一切無い所為か、月の光はまじりっけの無い白色に輝いていた。少し経ってからライダーは喋り始めた。その間、大河は黙って彼女を見ていた。 「私には姉が二人いる。いや、いたんです。けれど、私の思い上がりの所為で大切な姉二人に、取り返しのつかないことをしてしまった。私はね、最低な女ですなんです、タイガ。私のためについて来てくれた姉二人の行為に、仇で返してしまったんです。そんな、そんな化け物が安穏と暮らしていていいはずが無い。罪は、罰せられないとならない。そして、私自身、私を許せない。 　貴女がおっしゃった通り、私は桜に自分と似ていると思っています。だから彼女には私と同じ思いをさせたくない。同じ道を、辿って欲しくない。それが、私が今ここにいる理由になっている。だからでしょう、タイガが危なっかしいと言った瞬間、怒ってしまった。 　いえ、違いますね。怖かったんです。桜も、お前と同じ化け物だって言われたようで、怖かったんです」 　言ってしまった。でも、後悔は無かった。これで彼女に色眼鏡を通して見られようが、仕方が無いと言う覚悟を持った。これは、自分の罰なのだ。 手に温かみを感じた。何時の間にか瞑っていた目を開けた。自分の手に、大河の手が添えられていた。顔を上げると、そこに大河が寄り添うように横に居た。そして、手を広げ、ライダーを抱きしめていた。 「大丈夫です、ライダーさん」 　頭を優しく、撫でた。壊れかけのガラス細工を扱うように、繊細に。 「桜ちゃんは、大丈夫です。とても強くなったんですから。ライダーさんも知っているでしょ？あんなに明るくなって、最近じゃ私にもビシッと意見するようになって、遠坂さんにも正面切って、言い合ったりしてるんですから、大丈夫ですよ。そして、貴女も。大丈夫、変われます。士郎に遠坂さんに、桜ちゃん。イリヤちゃんとメイドさん。そうそう最近知り合った釣り師のお兄さんを紹介します。とても愉快な人で、気前がいいんです。そんな人たちがこの町にはごろごろといます。だから、ライダーさんも変われる。桜ちゃんと一緒に強くなりましょう」 　その言葉の一つひとつも、優しく撫でているようだった。ライダーは、自然と大河に腕を回していた。そして、嗚咽が漏れ出した。 「先に生まれたものとして、同じ辛い思いをさせたくないって思うのは当然です。それが自分と重なる人なら、尚更。でもね、私はこう思うのよ。それはライダーさん自身の問題も同時に解決しないといけないんじゃないかしら」 　大河から離れ、涙を拭いてから少し経った。夜は一層深くなり、虫の声がどこからとも無く聞こえてきた。今日は、久しぶりにここで泊まっていこう。どうせ明日は日曜なんだし。そう大河が言い出した。それならもう少し話を付き合って欲しいと、ライダーのほうから提案し、さっきの続きとなったのであった。 「私自身の問題･･･？」 「士郎と切嗣さんの関係を言ったでしょ、桜ちゃんとライダーさんに似ているって。もしかして、貴女も切嗣さんと一緒に消えてしまうんじゃいかって、思っちゃったの」 　本当にごめんなさいね、また失礼なことを言って。大河は謝った。そして、視線を夜空に向けた。 「切嗣さんは士郎を確かに救った。けれど、切嗣さん自身はどうだったんだろうって今でも思うの。愛するもののために何かを尽くすのは素晴らしい事。でも、それで自分を傷つけたりしたら、救われた方がどうしようもなく罪悪感を感じる。そうしたら、救われた人間って本当に救われたんだろうかって思うの。 士郎の場合、切嗣さんの考え方を丸々引き継いで、正義の味方になるんだって未だに言ってる。その姿を見ると、思うのよ。士郎は、その罪悪感で、切嗣さんの道を進んだんじゃないかって」 　それでは、救われていないのと一緒ではないのか。いや、それよりももっと性質の悪いものではないか。もしかして、彼女が教師の道を進んだのは、彼を救うためだったのだろうか。義父と同じ道を進ませないようにするために。 「今は、みんなと出会う前ほどの危うさを感じなくなったから、ほっとしている。でもね、時々思うの。切嗣さんが、しっかり問題を解決していれば、士郎は別の道を歩んでいたんじゃないんですかって。そう思ったとき切嗣さんに会って、言ってやりたいときがあるの。本当に今までどこをほっつき歩いていたんですか、親として自覚しているんですか。もうこれ以上心配させないでって、もう父親なんだから」 　そう語っている大河は、いつもより儚げに見えた。昔、そうそれは彼女がまだ教師になってなく、エミヤキリツグとシロウの二人だけがこの家で生活していた時代。その二人の世話を焼いていた彼女に、戻ったのかもしれない。 　そうか、そういうことか。ようやく、分かった。そのような気がした。 「ありがとう、タイガ」 　言葉が自然と、出ていた。 「そうですね、人は変われる。そう人間らしい人間にも、そして化け物にも」 　誰かに言われた気がする。心まで化け物になっていいのか、と。それは一体何時のころだったか、よく覚えていない。けれど、その言葉に突き動かされて、今に至る。 　その言葉は、本当に正しい。だからこそ、目の前の彼女の言いたい事がわかる。 「私も、強くなりますよ。この世界を、少なくとも私を大切に思ってくれる人たちを守れるほど、裏切らないほどに、強く」 本当に救われると言うのは、他人だけでも、自分だけでもない。お互いなんだ。もしどちらか一方だけにだったら、それはまた同じ事を繰り返す。それは、救われない輪廻というべきものだ。 　その場合、私はまた化け物になってしまうのかもしれない。姉たちではなく、今度は桜たちを犠牲にしてしまう。エミヤキリツグに感謝と同時に怒りを覚えた。もしいなかったら、彼が聖杯を壊さなかったら、私はこうして桜たちに出会えなかったかもしれない。そして、決意を仕切れず悪霊のまま、化け物のままだった。 　怒り、これは同属嫌悪だ。逆恨みもいいところで、けど言わずにはいられない。救うなら、自分も救えばよかったものを。自分を見限って、それで、あんな世間知らずなお人よしに育てたり、慕っているこの彼女を泣かしているじゃないか。本当に悪いと思うのなら、魔法でも何でも使って戻ってやって謝ってくるべきなのだ。心の中で拳に力が篭る。本当に、なんて無様。確かに、私とアナタは同じ。だけど、これからは違いますよ。私は変わるんです。 「タイガ」 　ライダーは声をかけた。その声が、自分で驚くほど優しい声だった。きっと、自分のために言葉を尽くしてくれた人のためにかける声は、自然とこうなるものなんだ。決して作ったものではなく、本心から出てきて、紡がれるものなんだ。 「本当に、ありがとう」 「そう言えばね、ライダーさんに言うのもおかしな話だけど、英語で『心』を表す言葉っていろいろあるんですよ。『mind』『heart』って。その内『heart』って同時に『心臓』も意味するんです。それでちょっと面白い話があるんですよ。それは同じ英語の教師をしている大学の友人の話でね、確か教育実習の時だったかな」 　桜は襖越しに二人の会話を聞いていた。中に入ろうという気は一切無かった。間違いなくライダーにはバレているだろう。けれど、入るのはあまりに無粋だ。 士郎たちがこの部屋に来なかったのも、彼女が誘導したおかげだった。ライダーが自分の部屋に戻ることは、自然と分かった。だから真っ先に自分がライダーの部屋に行くと主張して、他のものを別のところへ行くように仕向けた。単純だったが、効果は抜群。もしかしたら、姉は気づいていたのかもしれない。これは本当に彼女のカンなのだが、姉は私の行動を分かった上で行動し、そしてアシストしてくれたような気がした。全てを理解した上ではないだろう。けれど、あの人なら、黙ってそういう粋なことをやってのける人なのだ。むしろ、口に出すのを恥ずかしがる。 「さあ、なんのことかしら」視線を逸らして、うそぶく。 　目を瞑り、ある光景を思い浮かべる。その光景は、親友同士が語らっているものだった。桜はその光景に、心の底から嬉しくて仕方が無かった。同時に、自分も救われた気持ちにもなった。 　さて、お邪魔蟲はさっさと退散しますか。 　桜は頷き、戸から背をそっと離して、部屋から離れていった。 「『怖い思いをしたりすると、心臓が自分の意思に反してバクバクいうじゃないですか。そんな時思うんです。きっと心は本当は心臓にある。だからあんなに暴れまわるんだ』って、その男子生徒が言っていたそうなんです。その話を聞いて、なるほどな〜て感心しちゃった。それはきっと、間違ってない。嫌なら胸が締め付けられて辛いし、楽しいことや面白そうなことが起こればドキドキする。だからきっと、心臓の正直さは心があるからなんだって思うようになったの」 「えぇ、そうに違いないですよ。タイガー」 「タイガーて言うな〜ッ」

by ショウ　フジヤマ

初投稿です。
藤ねぇ応援で書いていたはずなんですが、
読み返すとライダー応援なSSになってしまいました。
なんででしょう。
藤ねぇも応援していますが、ライダー応援したい人はそっちだと受け取ってください。
適当でスイマセン。

あと、なんだか公式設定に外れている、
藤ねぇのキャラが違うと思われるでしょう。
このSSは、藤ねぇにシリアスシーンをもっと！
藤ねぇが真面目になると、こんな感じでは？
という脳内妄想から生まれたものなのです。許してください。

読んでいただくだけでこれ幸い、
共感していただけたら、心の友、
受け付けなかった方には、
「ごめんなさい、あなたとは付き合えないの」

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