ミミック遠坂Another
暗く、しかも狭い空間、俺はライダーと肩を並べて座り込んでいた。 「――なんでさ?」 ――遡ること3時間前。 時計塔に行っている本人に代わってを掃除するために 俺、セイバー、桜、ライダーの四人で遠坂邸にやってきた。 桜が結界を解除して、みんなで中へと入る。 四人いるといっても相手はあの広い遠坂の屋敷。 手分けして徹底的にやることにした。 1時間ほどは順調に進んでいたと思う。 台所や物置などを整理し(このとき良く分からない干物などもでてきたが気にしないことにした)窓や絨毯の埃を拭き取っていく。 「さて、次のは遠坂の部屋か」 ちょっと抵抗はあるものの掃除するのが目的なのだから仕方がない。 「おじゃましまーす」 なんとなく声をかけつつ扉を開く。 ―――そこには、人外のモデル顔負けの美女が立っていた。 「シロウ。どうしたのですか?」 「あぁ、すまんライダー。もしかしてもう掃除し終わったか?」 「そうですね。大体半分程でしょうか。窓は拭き終えたので床を掃こうとしていたのですが」 「そうか、じゃあそれは俺がやるからライダーは家具のほうを頼む」 「分かりました」 そしてもくもくと掃除をする俺とライダー。 ライダーは元々寡黙なほうで必要なとき以外は話さない。 俺は俺で洋館の掃除が珍しく、夢中になっていく。 そしてライダーが声をかけてきた。 「シロウ、これは何でしょう?」 「ん?どうした」 振り返るとそこには困惑するライダーと宝箱がある。 「って、宝箱?」 宝箱である。どこからどう見ても宝箱である。こう、どこぞのゲームにでてきても何の問題もないような。 「なんでこんなとこに宝箱があるんだ?」 「わかりません。しかしリンが部屋に置くくらいですから貴重なものなのでは?」 「う〜ん…とりあえず開けてみるか」 「良いのですか?」 「まあ、ヤバいものだとしてもライダーがいれば大丈夫だろう」 「わかりました。シロウの身は私が守りましょう」 なんか、妙にやる気になってる気がするけど気にしないでおこう 「それじゃ、あけるぞ」 ギィィッ 中をあけてみると特に変わったものがあるわけでもない。 強いてあげるなら縁に立てかけられた杖くらいだろうか。 先端に可愛らしい飾りをあしらい、その左右には白い羽根がついている。 「ざっとみたところ特に変わったものはないみたいだな。他には…うわっ」 「シロウっ!」 ――ドンッ 身を乗り出して中身を覗こうとしたのだが勢いあまって中に倒れ込んでしまったようだ。 「っつぅ…大丈夫か?ライダー?」 「ええ、シロウこそ、怪我はありませんか?」 「あぁ、大丈夫みたいだ。って、あれ?」 あたりが妙に薄暗い。さっきまで明るかったはずなのだが。 「これは…なんだ?」 「どうやら先ほどの宝箱の中のようですね」 宝箱の…中? 「え!?いや、確かに俺たちは宝箱に倒れこんだけど、こんなに広かったか?」 「いえ、これはどうやら魔術で空間を捻じ曲げているようです。」 「む…なるほど、確かに」 空気に魔力が満ちている感じだ。納得はできる。 「なんとかしてここから出るしかないか。」 「さて、どうしたものか」 「シロウ、地面にこれが」 ライダーが持っているのは携帯電話のようだ。 「電池は…あるみたいだな。電波は…うわ、なんだ、電波通じてるのか」 何故か電池は満タン、電波状況も良好のようだ。 「よし、とりあえず自宅…は、さすがに留守だろうし藤ねえに電話してみよう」 俺は藤ねえの家の番号を押していく。ちなみにメモリには電話番号は一軒も入っていない。 トゥルルル…ガチャ 「もしもし」 あれ…声に聞き覚えがない?誰だ? 「もしもし?どちらさま?」 「あぁ、ごめん、衛宮ですけど…」 「エミヤ…あぁ、シェロじゃない!どうかしたのですか?」 …は?俺のことを知ってる?誰だ? 「え?っと、ゴメン。どちらさまでしょうか?」 失礼とは思いながらも名前を聞いてみることにする。 「まぁ!この私(ワタクシ)のことを忘れたというの!?このルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトを!」 ルヴィアゼリッタ――エーデルフェルト? 「たしか、遠坂の言ってた…」 「今、トオサカと言いましたか?」 あれ、なんか、声に殺気が篭っているような? 「あの女の話をするのは許しません。気分が悪いです。でわ」 そのままガチャリ、と電話は切られてしまった。 それにしても―― 「おかしいな。たしかに藤ねえのところにかけたはずなのに。」 「不思議ですね」 しかたがない、もう一度かけてみるか。 トゥルル…ガチャ 「あら、この神殿に訪れる者がいるなんて、何者かしら?」 スピーカーからとても澄んだ声が聞こえる。その声から溢れる気品、思慮深さを孕んだ声色。 立った一言声をかけられただけで中世を誓ってしまいそうになる。 「あら?お客様?なら、ちゃんとお迎えしなくては」 また似たような声が聞こえる。しかし、今度はどちらかというと子悪魔のような音色で、どこかイリヤを思い起こす気がした。 純粋無垢なその声色に、どこか庇護欲をそそられる。つい、守ってあげたいとおもわされる、そんな声だった。 これらの声を聞かされ、身体はまるで金縛りにあったように動けなくなり、心臓は早鐘を打つように高鳴っていた。 そして、俺の目の前には、顔を真っ青にしたライダーが体全体を恐怖で竦みあがらせていた。 「ど、どうしたんだ?大丈夫か、ライダー?」 その姿をみて、我に返り小声で声をかけてみる。 「い、いえ、大丈夫です、シロウ」 「お客様を迎えるわ!でてきなさい、メドゥーサ!」 「は、はい!姉さまがた!」 「「「え?」」」 電話の向こうと俺の声、三人分の声が重なった。 「ちょっと、メドゥーサ!そこにいるの!?」 「は、はい、上姉さま」 「あなた、さっきペガサスに乗って食事の材料を獲りにいったのではないの!?」 「え?あ、あのそれはどういうことでしょうか下姉さま?」 「っっ!ねえ、聞いた私?」 「聞いた私。なんて娘なのかしら!夕食の用意を命じたにもかかわらずとぼけるなんて!」 「メドゥーサ、貴方大丈夫?」 「普段から言われたことはすぐにこなすように躾けてきたわよね?」 「は、はい。しかし…」 「まぁ!聞いた私?この娘、妹のくせに私たちに逆らう気よ!?」 「そうね。可哀相だけど、お灸をすえてあげないといけませんね」 「えぇ、可愛い妹のためですもの。やりすぎかもしれないけど心鬼にして矯正してあげないと」 「ぁ、あぁ…」 ものすごいスピードで盛り上がっていく二人に対してガタガタと振るえだし、さらに顔は真っ青で目に涙まで浮かべ始めるライダー。 この二人のこと、ライダーは知ってる? それにあのライダーがこんなに怯えるなんて、そんなに苦手なのか? 「う、上姉さま、本当にすみません、反省してます、反省してますから!次からはちゃんとしますからどうか今日は許してください!」 「ふん、まあいいわ。もうすぐ夕食なのですから早く帰ってきて準備をなさい。ただし、少しでも遅かったら、分かっているでしょうね?」 「は、はい。ありがとうございます、ありがとうございます!」 そして、結局そのまま電話は切られてしまった。 ライダー、よっぽど電話越しの二人が怖いんだな。 「……」 「……」 まぁ、なんだ。聞いてはいけないこともあるんだろう。 ―――それから数十分後。宝箱をゆすったりしてみたが開く気配はどこにもない。 「しかし、困ったな。このままじゃ出られそうにない。」 「え、えぇ、そうですね。どうしましょうか」 「もしかしたらなにか棒ののようなものがあれば蓋を持ち上げて出られるかもしれない。手分けして探してみよう」 「分かりました」 手分けして箱の中身(?)を漁る俺たち。 「いてっ!」 「大丈夫ですか、シロウ?」 どうやらガラスかなにかで指を切ってしまったようだ。 指を舐めると鉄の味がした。 と、先ほどのあの変な杖のようなものを見つけた。 「あ、これなんかどうだ?って、なんだ!?」 杖が光っている。それもかなり怪しげに。光が収まると、なんだかあたりの空気が一変していた。 この感じは――― つ、杖からとんでもない魔力が!? 一体どういうことだ? 「おや、新顔ですね〜。はじめまして。私、愉快型魔術礼装・カレイドステッキの制御機能、人工天然精霊・マジカルルビーと申します〜」 「な…これは?」 「どうやら、魔術礼装に宿る精霊のようですね。」 「はい、私、かの大師夫キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグによって作られました魔術礼装なんですよ〜。 呼びやすいようにルビーとお呼びください」 なんだか、箒を持って割烹着を着た女性のような声でしゃべる杖もといルビー。 これって一体…しかも、なんかどこかで一度体験したことあるような気が… 「まあ、そんな事は置いといてですね。そこの貴女!そう、眼鏡をかけた貴女です!」 「な、なんでしょう?」 「あなた!私と契約しませんか?」 「「は?」」 なにを馬鹿げたことをいっているんだこの杖は。 大体契約ってなんだよ。 「大方この箱に閉じ込められて困っていらっしゃったんですよね?貴女からは強い魔力を感じます。 私と契約すればその力をさらに増加させてこの箱を開くことも可能ですよ?」 「しかし…契約ということはないかしらの代償を払わなければいけない。一体何をすればいいのですか?」 それは条件次第ではかまわないってことか? 「簡単です。私を握ってなりたい自分を想像するだけで構いません。」 「なりたい…自分?」 「そうです!私はカレイドステッキ、平行世界を旅するゼルレッチが作り上げた他に類を見ない愉快型魔術礼装! 私と契約すれば『小さいまま成長した可能性のある』自分になれるんですよ?」 どうしたんだろう。ライダーの肩が震えている。 「本当に、なりたい自分になれるんですか?」 「もちろんです!私の能力は多元転身(プリズムトランス)と申しましょうか。 使用者を能力を、その能力を持っている可能性のある『もしも』の本人のスキルにチェンジさせる、悪夢のリリカルアイテムなのです!」 「ふむ…つまり、第二魔法を応用させたシステムということですね?」 「そのとおりです!どうやら魔力だけではなく頭の回転もいい様子。ますます気に入りました!」 「え?第二魔法?どういうことだ?」 「つまり、この杖は文字通り使用者を『変身』させる杖なのです。たとえば、私の目は石化の魔眼ですが、この杖を使用すれば世界のどこかにいたかもしれない 『魔眼をもっていない私に変身できる。いえ、一時的にそのような体になる、というべきなのでしょうか」 「ふむ…それはたしかに便利そうだが…」 そう、たしかに便利だ。だが 「いや、っていうかそれ契約っていうか呪いレベルだろ?やめといたほうがいいんじゃないか?」 そう、この魔力、かつて聖杯戦争で経験した『間違った聖杯』と似たような感じなのである。 明らかに危険だ。 「ちなみに、多元転身には条件として、その能力に見合った服装をしていただきます。これがなかなか不評でして…」 なにかおかしな話になってきた。 「本当に、望んだ能力が手に入るのですね?」 「ラ、ライダー?」 いま、なんていった? 「もちろんです!どんな能力でも、このカレイドルビーに変身させられないものはありません!」 「そうですか。ふ、ふふふ……」 妖しい笑みを浮かべるライダー。明らかになにか企んでる。 「ライダー、どんな能力が欲しいんだ?」 恐る恐るたずねてみる。 「そんなものは決まっています。『背の低い』私です。」 「な…!?」 ちょっとまて、そんなことで呪い級の魔力を放出するような危険物と契約するってのか!? 「わかりました!それでは私を握ってください!いきますよー!」 「はい!」 そして、俺にはライダーの行動を防ぐことなどできるはずもなく。 箱の中には寒気がするくらいの濃密な魔力が満ちていく。 こうして、ライダーはカレイドステッキと契約を交わし、冬木の町に新しい魔法少女が生まれることになった。
by フント
勢いだけで書いてしまったライダー支援(?)ss。 ライダーいいですよね! Fateのssは初なのですが、少しでも面白いと感じていただければ 幸いです。
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