"氷菓" by マクラガエシ

「おお！　シロウ、こっこれは！！」
テーブルの上のものを見て固まるセイバー。
「ああ、バイト先でいらないって言うからさ、貰ってきたんだ」
そう言ってのんきに茶をすする。
まあ内心、セイバーがどんな反応をするのかドキドキしているわけだがそんな事はおくびにも出さない。
居間のテーブルの上にはかき氷機が置いてある。
バイト先の倉庫をひっくり返して見つけてきたものだ。
まあ外箱はボロボロで埃が山のように積もった年代物だったのだが。
キレイにするのに少しばかり苦労した…。
出来ればもっと他の良い物をと粘ったのだが…こればっかりはどうしようもなかった。
「これは獅子なのですね、しかし…むぅ…これは、土蔵で見つけたものより…なんというか微妙に勇ましいというか…」
やはりセイバーにも判ってしまうか。
こういった商品は大まかに言って２種類に大別される。
曰く、「女の子向け」と「男の子向け」である。
むろんこちらは「男の子向け」と言う訳である。
「それに…、妙にカクカクとした形をしていますね？」
それもそのはず。
なにせデザインの元ネタが、獅子は獅子でもお子様向け戦隊ヒーロー物に出てくる「獅子型巨大ロボット」なのである。
「あー、その、…気に入らなかったか？セイバー」
おそるおそる聞いてみる。
ああ、こんなことならもう少し時間をかけて探してみるべきだったか…いやいやむしろ新都の店をしらみつぶしに回って見ても…などと思っていると、
「とんでもない！ありがとうございます、シロウ」
そういってニッコリと微笑むセイバー。
うっ、そう素直に喜んでもらえるのは嬉しいが…その笑顔は反則だ。落ち着かなくて冷えた茶をすすって誤魔化す。
「あのときの言葉を覚えていて、わざわざ探してきてくれたのですね。その心遣いが私は嬉しい」
「あー、いや、そんなことはないぞ。偶然見つけてたまたま覚えてたから貰ってきただけだ」
なんだかセイバーにはバレバレなようだが、ここは意地でもそういうことにしておく。
っむ、その「わかっています」という笑顔がなんか悔しい。
悔しいのでここは強引に話題を変えてみる。
「じゃあせっかくだから使ってみるか？　今日は色々とシロップも用意してあるぞ。あ、でもこの前みたいに急いで食べて頭痛くしないようにな」
「む、それは心外だ。シロウは私が同じ過ちを犯すと思っているのですか？」
いや、思わない。
剣の英霊最強のサーヴァント、質実剛健、何事にも隙がないのがセイバーだ…なのだが、こと食に関してはそうも言えないのがタマにキズである。
「シロウ、なにやら含みの有る表情をしていますが。思う事があるならハッキリ言うべきです！」
「ないない、何にも思ってないぞ。じゃあ準備してくるから…」
そういって腰を上げかけたところで、ガヤガヤと廊下を騒がしくやってくる一団。
「ただいまー。あら、懐かしいものを出してるわね」
「ただいまもどりました。ほんとうですね、懐かしいです」
「やっほー、ただいま。なになに士郎かき氷食べるの？まあ今日は暑いからいいけど」
「こんにちはシロウ。所で大河、かき氷は解るけどあれは何なの？」
どやどやとテーブルを囲む買出し組＋２。
「おかえりなさい、凛に桜。大河たちと一緒だったのですか？」
「ううん、ちょうど門の所でバッタリね」
「そうですか。これからかき氷を食べる所ですが、よろしかったらご一緒にどうですか？」
「もちろん頂くわ。買い物のご褒美にこんなものを用意しとくなんて士郎もなかなか気が利いてるじゃない」
「どうでしょう、先輩はそこまで考えてなかったと思いますけど？」
かき氷機を見つめて微笑む桜。
遠坂もそれに気づいたんだろう、口元に手を当ててニヤニヤしている。
くそ、後で絶対からかわれるんだろうな。
その後ろでは藤ねえがイリヤにかき氷機について説明している。
「…というわけで、これがあれば縁日さながらのオイシーかき氷がたべられるってわけよ！！」
ビシッと効果音付きで力説する藤ねえ。
いやいや。申し訳ないが、あれは縁日などで使われるような上等な代物ではない。
古い物だしあそこまでフワフワのサラサラとは作れるかどうか…。
しかし、最初は半信半疑だったイリヤの顔が見る見る輝いてくるといまさら訂正する気にもなれない。
しまいにはヤッターなんて諸手を挙げて喜んでいる。
しかたない、ここは量と味の種類で何とかするしかないか。
しかし参ったな氷の量は足りるかな？　なんて考えながら買出し組の荷物を受け取りつつ台所へと向かうのであった。