おかえり……
がやがや……わいわい。 溢れる言葉。 交わされる別れと再会と離別と再達。 人の賑わいがまた迫ってくる。 入り口に目当ての姿を探しながら、その定期的に押し寄せる人の群れを、少し離れた場所で、俺は見つ めていた。 まだ……来ない。 当然だ。 まだ時間までには数十分の余裕がある。 少し早く来過ぎてしまっただろうか? いや、そんな事はない。 少しでも待たせれば大変な事になるのは目に見えているのだから、早めに到着しておくのは、それこそ 当然と言えるだろう。 どんな理由があったにせよ、怒られるのは全部、 「俺なんだろうしな……ははは」 乾いた笑い。 でも、その笑い声に嫌な感情は何一つとして含まれてはいない。 むしろ、それが、どこか、とても、嬉しく、思えて。 もう一度。 いや何度でも。 再確認するのだ。 ああ……俺はこんなにも、と。 また同じ言葉を繰り返しながら。 そすいて、同じ顔を思い浮かべる。 今回の事だって、本当はこんな所に来るつもりはなかった。 それも昨日までは来ずに待っているつもりだったのだ。 というより、知らなかったのだから、仕方あるまい。 予定に無かったのだ。 それなのに、昨日になって知った。 急に予定が出来た。 帰ってくる、と。 しかし、俺に直接その情報は伝えられなかった。 驚かそうとしているのか、それともただ単にあくまの血が騒いだ……のかどうかは知らないが、とにか く俺が手に入れたその情報は、いわゆる一つの電話の立ち聞きだったのである。 全く……どうして直接伝えてくれないのか。 などとはもちろん聞けるわけも無く、こうして誰にも言わずに空港まで迎えに来ているというわけだ。 驚くだろうか? いや、そんな事はどうでもいい。 きっと「何でこんな所にいるのよ」とか睨まれた後に、また可愛い表情を見せてくれるのだろうが。 そんな事はどうでもよかった。 ただ、会いたい、と。 そう思ってしまう。 それだけ。 いや、少し違うのかもしれない。 会いたい、それは確かにそうなのだけど。 会えない期間が、最近まで無さ過ぎた。 いつでも側に。 いつでも隣に。 当たり前のように、居てくれた存在と離れる。 それが、何となく………寂しい、のか? 「う〜〜む」 自分でもよく分からない。 だが、確かに今までとは違うのだ。 違和感? 不安感? いや、それほど大袈裟なものでもない。 ただ、あいつが居ない、と。 短い期間といわれれば確かにそうなのかもしれない。 しかし、それは相手によるというものだ。 必要な別れ。 そう言えばやはり大袈裟すぎるのだろうが、確かに必要だった。 向こうでやっとかないといけないことがあるの、と。 何かを期待しているような顔で。 そしてほんの少しだけ、俺でもわからない程の小さな不安を胸に、あいつは海を越えていった。 少し前にも、行ったばかりだというのに、また渡英。 少しだけだが、あちらで起こった話は聞いていたので、それほど疑問に思うことも無かったのだが。 「あいつが……まさか負けるとはな。それも、バックドロップとは、これはまた……」 藤ねえとバトルでもしたかのような滅茶苦茶振り。 しかもそれを大真面目な顔で話すのだから、笑うに笑えない。 ああ見えても中国拳法に関しては中々の腕前であるはずのあいつが、後ろを取られて……などとは、初 めに聞いたときは信じられなかった。 上には上……ということなのだろうか。 それとも、類は友を呼ぶ、といったほうがいいのかもしれない。 目の前では言えないので心の中で思っておくことにする。 「しかし……今度は呼び出されたらしいし……」 何かあったのだろうか? まぁ、それもあってから聞けばいい。 しかし寄りにも寄ってこんな時期に呼び出さなくても。 日付は既に年の暮れ。 かろうじて年は明けてはいないものの、ものの数日で新しい年がやってくる。 忙しいと同時に、離れていた者たちの集まるきっかけともなる節目。 だというのに……俺たちは全く逆の状態になりかけた。 この時期だから、と。 年が明けぬうちに厄介な事は終わらせておきたかったのだろう、と。 そう納得させる。 もしも手伝える事があるなら、俺だって出来る限り力になってやりたいし、もし何も出来る事が無かっ たとしても、それでも傍に居てやる事くらいは出来るはずだ。 でも……今こうやって、俺はあいつとは違う場所に立っている。 それがただの物理的意味であったとしても、生きていく中で当然とある出来事であったとしても。 もしも……と。 いつでも嫌な予感は消えない。 消えるはずが無い。 今までに切り抜けてきた出来事からすれば、平穏で居られる事こそ奇跡であり、俺達の軌跡。 まぁ、どちらにしても。 「そんな事を言っても仕方ないか……協会が相手だと、明らかに俺は戦力外だろうしな」 無論、戦闘面ではなく、交渉面、その他厄介な事実の隠蔽面に関してだ。 強くなったと自惚れるわけではないが、面倒な交渉に突き合わされるよりは実力で押し通る方が、この 場合の俺には向いているように思えた。 出来るだけそんなことにはならないに、越した事は無いのだけど。 「でもなぁ、一番肝心な所でポカをやるのが血筋だって……自分で言ってたしなぁ」 自覚している所がまた問題なのだそうだ。 そこの所を追求しても、 ――だって血筋なんだもんしょうがないじゃないっ! の一点張り。 というかあいつ自身にも分かっていないのかもしれない。 完璧で非の打ち所が無い……しかし、絶対に肝心な所で失敗する。 でも、それはあいつが一人だったら、の場合だろう。 今は、違う。 違っていて欲しい。 俺が。 俺が傍に居るから。 俺が隣に居るから。 俺がお前の背中を守るから。 辛ければ頼って欲しいし、辛い時は頼りたい。 まぁ、それは俺が頼る場面の方が圧倒的に多いのだろうけど。 ふと、腕時計を見る。 ……そろそろか。 到着の時刻までもうそれほど無い。 もしかすれば、機体は既にこちらに到着しているのかもしれない。 あとは、あいつが出てくるのを待つだけ。 立ち聞いた話では、かなりの荷物だそうなのだけど、ライダーがバイトがあるということで行けないか ら、かなり大変な事になりそう、と言っていた。 それならなおさら俺を呼べばいいものを……と、そんな事を考えても仕方が無い。 見れば、出口からは大きな荷物を持った乗客たちが、ぞろぞろわいわいと賑やかに溢れ出てきた。 あの中のどこかにいるのだろうか、それとも違う便の乗客たちか。 人の流れに目をやって、少し焦点が定まらない瞳になっているのを自覚する。 ふぅ―――――と、空港の天井を見上げて、溜息。 ああ、そういえば俺、今空港にいるのか、と。 この期に及んで何を言っているのか。 アナウンスが聞こえる。 これから離陸する便のようだ。 そうか……もうすぐ、俺も。 海を越えて、何を探しにいくのか、何に追いつこうとしているのか。 霞む視界にぼやける紅い背中。 ふむ。 と、そんな幻視を見た所為か、少し気分は落ち着いてくる。 おかしな程に冷静に、冷たい思考へと置き換わっていくのが分かる。 答え。 それを探しに。 そこにその答えがあるのかどうかさえ分からないというのに。 でも、俺は間違ってない。 曲がりなりにとはいえ、あいつも、あいつも認めてくれた………はず。 いまいち自信が持てないが、まぁそうだと思っておこう。 目を閉じ、すぐに開く。 予定時刻だ。 先ほどと同じように、出口が騒がしくなってくる。 見つけられるだろうか。 いや、見つけられないわけが無い。 視線を送る。 ――――――と。 「ん?」 人ごみが、まるでモーゼの十戒のように、ずさささささささ…………と、割れていくではないか。 「な、何だ………?」 俺は、同じように待ち人を探していた群衆に紛れつつ、その奇妙な光景を見つめていた。 その奇妙な光景の中心。 何か、嫌な予感がする。 その中心にいるのはもしかして、俺の探しているあいつではないだろうか? ………うあぁ〜。 最悪の場面を想定する。 問題はそれを否定できない自分なのかもしれないが、とりあえず確認をしない事には始まらない。 心を決めて、そ〜っと人の隙間からその中心を覗き込んでみる。 「…………ふぅ」 良かった。 違った。 恐る恐る視線を送ったその先、十戒の先導者は見た事の無いお方で、しかも外人だった。 目当ての人物との共通点としては、女性であることだけ。 それでも他に強いてあげるなら、そのオーラと言うべきか周りに放っている空気と言えばいいのか、そ んなものぐらいだろうか。 そのオーラだけで言えば、本当にそっくりというか正反対というか、かなり似ている気はするのだけど ……あ、あくまでも気がするだけだけど。 それに、あいつと同じくらい美人でもあるのだし。 う〜ん、英国版ってところかな。 なんてことも言ってしまえばガンドを利子付きで貰えるのでやめておく。 少し離れて、周りの人々とその外人の女性を観察してみる。 やはり見たところ、それほどおかしな格好はしていない。 だが、だがしかし。 その格好こそ普通ではあったが、問題はその髪型だ。 「た、縦ロール……?」 貴方はどこの○蝶夫人ですか。 服装は至って普通ではある、あるのだが……問題は、やはり髪型。 もう、キラキラの背景にいつテニスラケット振り被ってもおかしく無い程の縦ロール。 強化材とか補強材とかバリバリに入ってそうだ。 とか言えば、絶対に怒られるのだろうけど。 そう考えると、俺はあいつに怒られる事間違い無しの事ばかり考えているという事になる。 うぁ〜陰口ってつもりじゃないんだけど、どうも正直な意見を言うとなると、こうなってしまうという か何というか………って、え? ふと気付くと、何故か俺の周りには人が誰もいなくなっている。 ぽつん、と人ごみの中、しかし俺の周りだけドーナツ化現象でも起きているかのように、誰もいない。 「………へ?」 首をかしげる。 その理由も、すぐに分かった。 「――――少し、よろしいかしら?」 響く声。 あ、英語だ。 掻き揚げられる髪の毛。 お〜ロールは崩れない。 純粋な金髪ではなく、少し赤毛も混じっているようだが、それはそれで美しく思える。 ん、もしかしなくても俺に話し掛けてる? 幸い遠坂にみっちり英語も仕込まれている(途中)なので、何とかその意味も理解できた。 しかし、問題はそんなことではない。 今、何で、俺は、この綺麗な外人さんに、話し掛けられているのかということなのだけど…… 「………ぇ、ぁ?」 もちろんまともな会話など成立するはずも無い。 しかし、そんな事は気にしないのか、今度は少し英語の速度を落として、彼女は話し掛けてきた。 「少し、場所を変えませんこと?」 「へ?」 見れば、周りにはそれほどではないとはいえ人だかり。 別に断る理由もなかったので、俺は、彼女に言われるまま、場所を変えることにした。 先ほどの場所から少し離れて、近くのベンチに腰を下ろす。 もちろん、隣には先ほどの外人の女性……お姉さん、と呼んだほうがいいのか? いや、あまり歳は離れていない様にも見えるのだけど……。 「ふぅ……」 「あ、あのさ……?」 俺の声に、彼女の顔がこちらを向く。 それは俺の問いに答えるためではなく。 何も言わず、ただ俺を見つめているだけ。 その目は何かこちらを値踏みする様で、あまりいい感触はしない。 「――――聞いていた通り、というところかしら」 「??」 俺の問いなど完全に無視して、一人納得している。 満足そうで、何で初対面の俺を見て満足げな表情なのかは全く分からないのだけど。 と、とにかく。 「あ、あのさ、キミは……一体誰?」 拙いが、間違ってはいないはずの英語で問い掛けてみる。 あ〜言語圏の違う人と初めて話すのってものすごい緊張感だ。 そう緊張を募らせる俺に向かって、 「ああ、お気遣いありがたく受け取っておきますわ、シェロ。わたくし、日本語は話せましてよ」 「ぇ………あ、そう、なんだ」 俺の心配など不要とでも言うように、流暢な日本語で返してきた。 てか、シェロってなんだ? 「じゃ、じゃあ日本語で。キミは誰だ? どうやら俺のことを誰かから聞いているみたいだけ……どっ !?」 ずずいっ、とこちらに顔を寄せてくる彼女。 うぁ……美人に近寄られるのは、セイバーや桜で慣れているとはいえ、これは何とも勝手が違うという か、この人一体何を―――――ん? と、そこで、ついに、とでも言うべきなのだろうか、それとも、しかるべき時がやってきたと、そう呟 いた方がよかったのか……それとも、それともそれともそれとも……………まぁ、つまり、その。 「何をしてるのかな〜。衛・宮・く〜ん?」 「よう――――遠、坂」 ああ……やってしまった。 そう感じるのと、彼女の神速の右フックが俺の顎に炸裂するのはほぼ同時だった。 「〜〜〜〜〜!!!」 ズキズキと走る痛みを我慢しつつ、その痛みをプレゼントしてくれた張本人に視線を送る。 「な、何よ……その目はっ」 「いや、何でもないぞ。……ただ、何で俺の顎は今こんなに痛いのか考えてただけだ」 「ぐ」 「全く……これだから遠坂の人間は程度が低いというのです」 と、俺と遠坂の横で呆れた表情の、今紹介されたばかりの女性、ルヴィア。 本名ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。 こうしてみれば分かる、彼女も古くから伝わる魔術師の家系だそうで。 とも、感じたのだけど。 「何ですって、見境も無しにガンドぶっ放すような何処かのハイエナと一緒にしないで下さる?」 「おほほほ、ドブネズミの鳴き声は私には理解できませんことよ」 「(ピキッ)………はぁ、ノンスリーブドレス標準装備がよく言う……」 「(ピキッ)……何か仰いまして、ミス・トオサカ?」 「いいえルヴィアゼリッタ、誰も貴女のドレスがこの上なくセンスの悪くって、アレを着る位だったら 水着で街中歩いた方がましよなんて恥ずかしいものをお持ちなのかしら〜? なんて考えてるわけない じゃない」 「(ピキッ)」 「(ピキキッ)」 「……………………………」 うぁ〜。 これか、あの時遠坂がいってた相手か。 いつガンドの応酬に発展してもおかしくないな、これは。 しかし、なんだ。 ここで一つ疑問点。 「なあ遠坂、なんで俺をこんなに早く見つけられたんだ?」 それだ。 元から遠坂を迎えに来ていた俺の場合であるならともかく、俺が電話の内容を立ち聞きしていたことを 知らないはずの遠坂が、このタイミングで現れるには……… 「立ち聞きはあんまり誉められたものじゃないわねぇ?」 「……ぅ」 もろにバレていたようだ。 「まぁ実際ライダーが来れなかったわけだし、助かったけどね」 と、僅かではあるが笑顔を見せてくれる。 その柔らかい笑顔。 この約十日間の間、俺の傍に無かった笑顔。 思わず、目が、離せなくなる。 「はぁ、全く……せっかくシェロが迎えに来てくれているというのに、少しは喜びなり感謝なりを態度 で示した方がよろしいのではなくて?」 「ル、ルヴィアさん?」 「御気を使わずに、ルヴィアで結構ですわシェロ」 「ちょっと待ちなさいルヴィア、シェロってのは何なのよ」 そう、さすが遠坂、俺に聞きたかったことを簡単に聞いてくれる。 「何なのと言われましても……シェロはシェロ以外の何者でもありませんわ?」 「はぁ、いくら士郎が執事みたいな性格&生活してるっていっても、アンタの執事になったわけでもな し……」 「何を言うかと思えば……どちらにしろシェロも時計塔に来るのでしょう? ならば、そのときに私が 絶対に雇ってみせますわ」 そう、何かおかしな決意を胸にしておるルヴィア。 んで、 「な、そんな事させる訳無いでしょ!!」 「貴女が口を挟む事ではありません」 「挟む事なのよっ、わ、私は士郎の師匠なんだからそれくらい当たり前なのっ!」 「まっ、それは職権乱用というものではなくて? 大体師匠として大した事をしているわけでもないで しょうに……せいぜいお説教を繰り返すくらいが関の山と思いますけ・ど?」 あ〜こうして聞いてるとルヴィアってどこでそんな言葉覚えたんだ、っていうくらい日本語が上手い。 まぁ、遠坂に対抗したんだろうな〜……と考えたり、もしかしたら魔術の一種で言葉の翻訳くらいは簡 単に出来ているのかもしれないが。 しかし、そんなことよりも。 俺は気になる事がもう一つ。 こうしてみると。 「いつもの遠坂だよな〜」 「―――どういう意味よ?」 睨まれた。 「ぅ……い、いやだってさ、今の遠坂って、素……だよな?」 「え―――?」 うん、そうそう。 こうやって本気で怒るのも、本気で嫌味を言うのも、感情が出ているときの、”素”の遠坂だ。 それは間違い無い。 普段であれば、桜やセイバー、ライダーのように、家族やほとんどそれに近い人達の前では、素の表情 を見せるのだけど。 学校や付き合いの浅い相手になると、途端に猫を被るクセ(?)……まぁクセってことにしておくか、 とにかく猫を被る。 いくら魔術師同士とはいえ、出会ってたかだか数ヶ月。 そんな相手に、遠坂がココまで素の表情でやりとりをするのは、とても珍しいと思った。 「何言ってるのよ、そんな……」 「いいえ、シェロの言うとおりですわ」 「ちょっ、ルヴィア――――うっ」 何か言おうとした遠坂の眼前にびっ、と指差して、ルヴィア。 「これが素でない、とでも仰るおつもりかしらミストオサカ? 倫教での評判はか・な・りよろしいよ うですけど……私は知っていますわよ。あの時受付で私に、本気で殴りかかってきたあの姿こそが貴女 の本当の姿であるということにっ!」 んで、もう一度びっ! 「いいことっ!? そもそも……」 「そうね」 「「っ?」」 予想外の言葉に、仲良く同時に聞き返す俺とルヴィア。 「……そうかもね。確かに、今の私は―――――」 ここで、嫌な予感を感じ取れなかった時点で、俺の負けだった。 いやそもそも、何かの勝負をしていたわけでもないのだが、とにかく、俺の負けだった。 「素かもね――――!!!!!!」 第2ラウンド。か〜ん。 「……………………それで、一騒ぎ起こして、適当に記憶操作をして、見える範囲の証拠を隠滅して、 逃げてきたと、そういうことですか」 「まぁ、簡単に言えば」 そうお茶を啜りながら、目の前の少女の質問に答える。 手にはお茶。 あ〜、こんな事になるなら迎えになんて行かなけりゃよかった、とは思わないけど。 やっぱりもう少し優しい未来を望みたいな〜とらしくもなく茶を啜っているわけである。 「シロウ?」 「ん〜」 「それで、凛と……その学友の方はどうしたのです?」 「あ〜ルヴィアか、ルヴィアは自分の洋館を見に行くとかで一旦そっちに行ったよ。まぁバゼットには 伝えてあるし、そうそう面倒は起こさないだろう」 そうですか、とセイバーも俺が煎れたお茶を啜りながら、ほぅ、と息を吐いた。 「それで、肝心の凛は……」 「あぁ、相当疲れてたみたいでさ、今客間の方で眠ってるよ。時差ぼけがどうたらこうたらうんぬんか んぬんって何か唸ってたけど……」 苦笑しながらセイバーもそれは凛らしい、と笑顔を見せる。 結局のところ、遠坂はあのルヴィアという女の子……後から聞いたのだが同い年らしい……と共に、別 の便とはいえ何故か同じ日に帰ってきた――――帰ってきた、というよりもルヴィアにとっては刊行に 来たようなものなのだろうけど。 遠坂は何でこんなのと一緒に帰ってこなくちゃいけないのよ、と怒り心頭で。 対するルヴィアはルヴィアで、あらミス・トオサカ、エコノミーとは育ちが知れますわね、などとまた 火に油をどぼどぼ大量にそのまま消化してしまいかねないほど注いで。 実は。 あの後、即座に周りに影響を及ぼさないための結界を構築し、本気のバトルに発展しかけたところで、 俺が止めた。 本当に止められたのか? そう問われれば、俺も疑問に思ってしまうところなのだが、そこは遠坂とも一年以上の付き合いである 、少しはこういった場合の対処法というものも、分かってきているようなそうでもないような良く分か らないところではあるが、とにかく幾つかはあったということだ。 「確かに今の私は――――素かもね―――!!」 「っ!?」 「ちょっ、こら待て遠坂っ!」 「―――――――Anfung」 「ぬぁ……本気かよ。遠坂っ」 「ふ〜ん、ルヴィアを庇うんだぁ、衛宮くんってば……」 「はぁ? 何を訳のわからん事を………ああもうっ、ちと耳貸せ」 「……………何よ」 「もしここ一勝負始めるんなら、」 「……………だから何よ」 「今から本気でキスしてやる」 「―――――――――――は?」 「それでもやるか?」 「ちょっ、え、はぃ? 何言ってるのよしろ―――――んっ!?」 ・ ・ ・ まぁ、いろいろあった訳だ。 実の所ルヴィアがこちらの屋敷に直接来るのを拒んだのは、空港での俺の行動が原因であったりもする のだけど、まぁそれはセイバーには黙っておく事にした。 「シロウ? 顔が赤いですが?」 「っ! い、いや……何でもないよ、セイバー」 「そうですか? 風邪でも引いたのでは――――」 「お、俺遠坂の様子見てくるな!」 「あ、シ、シロウ?」 セイバーの顔がずいずずいっ、近づいてきたのから逃げるように、いや正しく逃げたのだが、俺は遠坂 が休んでいるはずの客間へと向かった。 う〜ん、結構セイバーとも長く暮らしてるのに、ああいうのにはまだ慣れない。 というより慣れる事が考えられない。 慣れている俺、という光景が想像できない。 んな事を考えている間に、いつの間にか客間の前に。 一応ノック。 「ぉ〜ぃ、起きてるか?」 できるだけ声を落とし、部屋の内部にだけ僅かに響くように問い掛けてみる。 遠坂はまだ休んでいるはず、無論、返事はない―――――はずだったのだが。 「士郎?」 そういって、ドアが開けられた。 そうして出てくる、見慣れた恋人の顔。 その声が軽やかな理由を考えているうちに、空港での出来事を思い出したのか、ん〜? ってな感じか ら、むっ、な感じに表情が変わってしまった。 ふむ、では俺も。 「………何よ」 「あのさ、空港での事なんだけどな」 「………だから何よ」 「俺は、反省してないからな」 「…………ふ〜ん」 あ、機嫌悪そう。 でも、ここで引いてしまうとさらに機嫌が悪くなるので。 「で、衛宮くんは私に何かよ――――――――ん」 言い終わる前に。 唇を塞ぐ。 うぁ、やっぱり柔らかい。 そう久し振り……でもないか? 時間的にはそれほど間が空いているわけではない、でも、何故かとても久しぶりのような気がした。 とにかくその感触に浸りつつ、そろそろ離れようと……離れようと――――ん? 「遠、坂……?」 「…………ばか」 「悪い」 「反省しないんじゃなかったの?」 「ん〜まぁ、そうなんだけどな」 遠坂のそんな顔見てたら謝らずにはいられないというか……な。 「ったく、しょうがないんだから」 「おいおい。空港でドンパチやらかそうとしたお方に言われたくないぞ」 「だっ、だってあれは――――ん〜〜」 やっぱり最後まで言わせない。 今度は先ほどよりも少しだけ深く、遠坂と重なり合う。 そのうち、力が抜けたのか、こちらに掛かる重みが少しずつ増してくる。 「こ、こら……遠さ……」 「ん〜〜」 「ん、ん――――ぁ〜、もう」 んで、結局本当に言いたかった言葉が最後になってしまっていることを思い出した。 「遠坂」 「……何?」 「おかえり」 「―――――ん、」 結局その後、ただいまを聞けたのは、大分日が暮れた後の事だった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 あとがき ぬあ〜〜何かSS書くの久し振り〜〜〜。 というより、書き切るのが久し振り。orz まぁやっぱり凛様な訳ですが。 リハビリのような形になってしまった。 反省点多々。 うぬぅ。 では、また修行の放浪へと。
by 末丸
あ〜長くなってしまいました。 本当はもっと短いやつで行く予定が……。 う〜ん、リハビリっぽいかな。 まぁ新キャラを書く練習もかねてってことで。 まぁ、つまるところ、凛様らヴ。(ぉ
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