――そこには――王がいる―― 　「――よい開幕だ。死に物狂いで謳え雑念――！」 　その王は金色に彩られている。 　世界創生の剣を右手に掲げ、神をも捕縛する鎖を左手に誘い、慢心により滅びた王は今その外殻を脱ぎ捨てて、英雄と呼ばれた頃の彼に舞い戻った。 　「――出番だエア。 　　おまえとて不本意だろうが、なに、これも先達としての務めよ。真実を識（し）るものとして、一つ教授してやるがいい･･････！」 　運命の四日間。 　悪くない日常だったと、彼は思う。 　それまでは有り得なかった日常に見舞われ、しかしそれが彼にとって忘れ去ってしまったヒトと言う存在の尊さを思い出させた。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　＃ 　「なあなあ、ギルって何でも出来るのか〜？」 　唐突な質問。 　少年はただ率直な質問を彼へと投げかける。 　「――ふん、我をそこらの雑種と同じように見るなよ。我はこの世全ての財を集めし最古の英雄王なるぞ。当然、この我に出来ぬ事など何もない」 　当たり前の返答。 　今更だと、彼は言う。 　彼に出来ぬ事は何もないのだ、と。 　「うわ〜やっぱギルってすっげーんだなー」 　「ふん。当然の事を今更言うでない。だがその心意気は良いぞ。褒めて使わす」 　「･･････じゃあさ、ギルだったらやっぱ守りたい人とかも簡単に守れちゃうのか？」 　だがその問いに、彼は一瞬だが確かに言葉を詰まらせた。 　「俺さ〜今好きな子がいるんだけど･･････そのやっぱ好きな女の子を守るためには強くなりたいな〜って思って･･････だからギルに俺を強くしてもらうかな〜ってさ･･････」 　恥じらいながらも少年は言う。 　守りたいのだと。 　好きだから守りたいのだと。 　それは、彼が幼い頃に忘れ去った感情でもあった。 　「･･････よいか、守ると言う事は簡単な事ではない。いや、我に不可能は無いが、いかに我と言えどもそれを行うにはそれ相応の財を失う覚悟を必要とするであろう。 　　覚えておけ。何かを成す――と言う事は、守ると言う事はそれ相応に何かを犠牲にすると言う事だ。今来ている殻を脱ぎ捨て――それでも守りたいと思わねばそれは実現しまい」 　それは同時に自分へと投げかける言葉。 　慢心と言う殻を被り、ただ我侭を繰り返す彼は果たして英雄と呼ばれて良いものか。 　彼にも英雄と呼ばれる時があったのではないのか 　それは捻じ曲げられたが、しかし彼の本質は確かに英雄だ。 　ああ、その通り。彼は忘れていた。 　彼にもいた、守りたいと願い、共に在りたいと思った唯一無二の親友（とも）の事を。 　「･･････ギルの言ってる事難しくて判んないや」 　「今は判らなくてもよい。だがいずれ我の言葉を思い出し、そして実行するがよい。その時お前は歴史には残らぬ英雄となれるであろう」 　己には出来ぬ事をこの少年達に託そう。 　久しく忘れていた。己は王なのだと。王とは民草に崇められるものだ。しかし見返りとして王は道を指し示す。進むべき先の道標となるのだ。 ――ならば、それを王自身が行わずに何が道標か――！ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　＃ 　（･･････ふん、見ているがいい。我は最古の英雄王なるぞ。この程度の事、してやらぬで何が王か――！） 　彼は思う。 　この先にいるであろう一人の騎士王の事を。 　ああ。 　そう望むのであれば今回に限りお前の望みを叶えてやろう。 　そこまで頑なにこの四日間の終わりを望むのであれば―― 　（――形は違えど守ってやろう。我には手に入らぬ美しさよ。今回に限る特例だ。お前の役目を存分に果たすがよい･･････） 　乖離剣がうねりを上げる。 　世界創生の剣がその力を解放しようと暴れ来るし、彼の周囲を蠢く獣達はその威容に畏怖する。 　（――ならば、我の役目はここでお前を守る事だ――！） 　乖離剣、開放。 　この世の地獄――すなわち原始の地球。 　苛烈なるこの星の原初の姿。 　ガスと溶岩。灼熱と極寒が入り混じった正しく煉獄。苛烈なるそれは記憶に残らぬとも遺伝子にしかと刻まれた生命の記憶。 　全ての命を摘み取るそれは英雄王の放つ剣より出でるもの。 　この世界に生き残れるものなど――存在はしない！ 　「黄泉路を開く。存分に謳え亡者ども。 　　なに、退屈はさせん。我とてこのような気紛れは一生に一度あるかないかでな。財の出し惜しみはせぬ、夜明けまで命を賭して持ちこたえよ･･････！」 ――故に、この先へは何人たりとも通しはさせぬ･･････！ 　どうしてそうしようとしたのかは、彼にも判りはしない。 　ただ何故かあの少年の言葉を思い出し、蚊帳の外にいた彼がしてやれると言う事を思い出しただけ。 　形は不器用で、やり方も粗暴。 　その言葉は相手を下に見て、その姿は畏怖しか齎さない。 　だがしかし――彼が感じていたものは間違いなくこの世界で愛と呼ばれるものなのだから。 　彼は間違いなく騎士王（セイバー）愛していたのだ。 　不器用な愛ではあるだろう。 　ただ手に入れたいと願う思いでもあったかもしれない。 　しかし一人の女性として惚れ込んだのも事実の一つである。 　形は違えど、あの道を行く一人の少年と、その想いは同じなのだから。 　伝わらない形。 　彼女自身、彼がこうしてここで敵を防いでいる事に気が付いていないかもしれない。気が付いたとしても、いつもの戯れだと思うだろう。 　だがそれでいい。 　この気持ちだけは誰にも知られたくは無い。 　知られぬままそっと消え去ろう。 　久々に英雄に戻ったと言う誇りと共に･･････ ――その夜、金色の英雄王はかつて英雄と呼ばれた姿にて四日間に終わりを告げた。

by 緋一

え〜、ギル様応援ＳＳです。
最後の最後の見せてくれやがりましたあのヤロウ。
もうネイキッドギル最高！！
セイバーとギルの１、２フィニッシュが見たいよ〜！！

色々勝手な解釈がありますがＳＳなのでご了承を。
さて、ギル様の愛も士郎の愛も結局は”愛”です。
形は違えど最後は英雄としての姿へと戻ったギル。
その姿に惚れ込んで清き一票、投じさせて頂きました！！

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