"As you saw, so you will reap." by レク

「何してるんだ？」
　屋根の上にいるライダーに声をかけてみる。
　そんな所に居られるとどっかの赤いアイツを思い出してしまう。
「そんな所にいると危ないぞ。」
　もっとも危ないということは無い。屋根の上、それもたった二階程度の高さから落ちて息絶えるようなサーヴァントなんて居るわけはないのである。ｈｏｌｌｏｗで初顔出しの全身黒の某英霊ならあり得なくもないが。
　ストッと華麗に降りてくるライダー。すげぇ、二階の高さからダイレクトに地面へと着地したよ。あり得ない事には慣れてきたつもりだったが、やっぱり間近で見る分にはあり得ない事はあり得ない事である。
　着地の反動で艶やかな後ろ髪がなびく。やはり色っぽい。
「屋根が壊れていましたので治していたのです。」
「屋根が？でも、台風みたいなモノは無かったけどなぁ。」
　まさか地震などで亀裂が入り出しているのだろうか。築何年かは知らないが、弱りだしているのなら建て替えの心配をしなくてはならない。
　もっともホントに心配なのは金の心配だが。
「・・・そう、壊れて、いたので。」
　引っ掛かる、引っ掛かるぞライダー。むしろ気に掛けてくれと言わんばかりの言動だ。あぁもう、その雨の日の捨てられ子犬のような目は止めなさい。気になって仕方がない。
「何があったんだライダー。」
「・・・・・・・・・・・。」
　気まずそうにうつむくライダー。どうでも良いけど、着地の時に服がめくり上がっておへそが少し見えているぞライダー。そういうのは、うん、とっても目に毒なので今すぐしまいなさい。そんなことを気に掛けずライダーは、
「・・・ッ、スミマセン、士郎。私が屋根を壊してしまいました。」
　あぁ、屋根を壊したのかぁ。何だ、そんなこｔ
「屋根を？！」
　驚き（！）よりも先に疑問（？）の方が先に来てしまったぞライダー。
「え・・・、何で？」
　どうやって？等とは聞かない。そんなもの聞くだけ野暮なモノである。ライダーに限らず全てのサーヴァントは屋根ぐらいは軽く吹き飛ばせるだろう。ｈｏｌｌｏｗで初顔出しの全身黒の某英霊がどうかは知らないが。
　　　　　　　　　　　　　　　～間～
「なるほど、夢を見てねぇ・・・。」
　理由はありきたり（？）な事だった。
　怖い夢をみてしまい、眠りながらに無意識に部屋の中を暴れ回り、屋根を破壊したところで目が覚めたと。
　え、ありきたりなんじゃないのコレ？言ったろ、あり得ないことには慣れたって。ライダーが怖い夢を見て暴れるというのはコレが初めてでは無い。過去三度に渡り、悪夢と格闘を続けている。もっともココまでの被害が出たのは今回が初めてだが。
　ちなみに悪夢の内容は知らない。何回か聞いてみたところ
「同じ顔コワイ、同じ顔コワイ」
という呟きだけが返ってきた。できれば語りたくないどころか思い出したくも無いという事なのか。
「まぁ良いか。それじゃ、俺も手伝うよ。」
　よいしょと屈伸をする。一応屋根の上に登るのだから軽く準備運動を。落ちたりでもしたらシャレにならん。
「・・・ありがとうございます士郎。この恩は必ず。」
「はは、良いってライダー。」
　そんな事は良いから早くおへそを隠してもらいたいモノである。思春期小僧の俺にとってはそちらにばかり目がいってしまうのですよ？
　そんなライダーに続いて俺は屋根へと登った。
　　　　　　　　　　　　　～屋根の上へ～
　ひょおひょおと少し風が吹いている。我が家の屋根は平らな感じになっているので動きやすい。少しの風では落ちることは無いだろう。
「士郎、落ちては危険です。」
　と、白く細い指が付いた手のひらをさしのべられた。
「な、だっ大丈夫だよこれくらい。」
　思わず赤面してしまう。思春期小僧の俺には（以下略）なのだ。
「万が一あなたが落ちて怪我でもしようものなら、桜やセイバーに責められるのは私です。そうなっては私がこの家に居づらくなる。」
　う、もっともな事を言われてしまった。確かにさっきに比べて風が強くなってきている。落ちたらシャレにならないのも確かだ。
　むしろ、今のライダーの言葉は「私の為にこの手を握って。」って解釈できるよね。しないけど。
「わ、解った。それじゃぁ」
　と、言ってその白い手に触れる。暖かな体温が伝わってくる。それにさらに赤面してしまう。思春（以下略）にはそうとうなキツサだぞ、これ。
「士郎、もっと、こちらへ。」
　妖艶に、呟くように言うライダー。頭がくらくらして屋根から落ちそうだ。いかん、このままではバッドエンドへ直行してしまう。
　雑念を振り払い進む。そして今また思ってしまったが、この姿をセイバー達に見られていてバッドエンド、なんて事は無いだろうな。
　キョロキョロと辺りを見回す。よかった。そんな事は無かった様だ。しかし、油断は禁物である。本編の言葉よろしく、バッドエンドの罠はいつ、どこに潜んでいるのか解らないのだから。
　なんだかんだと思考を張り巡らせていると目的地に着いた。屋根の上がゴビ砂漠の様に広かった。実際のゴビ砂漠がどんなもんかは知らんけど。
「・・ははぁ、これか。」
　そこには人一人分ほどの穴が開いていた。ココを突き破ってきたんだな。ふふ、さすがに俺も信じられなくなってきたぞライダー。これもどうでも良いけど俺、ライダーが語尾になるくらいにライダーライダー連呼してるよな。
「よし、それじゃぁ治すとす、るか、わぁぁぁ！！」
　足を滑らせた。その反動で屋根の穴から落ちる俺。穴は人一人分、重力がまともに働くのならば文句なしで人は落ちていく。
「うわああぁああ！！」
　しまった、これでバッドエンドなのか！！？
「士郎！？」
　忘れていたんだ、俺。

ライダーと手を握ったままだって事を。

俺のとっさの落下に対応出来なかったのか、ライダーも一緒に落下するハメになる。
「くっ！」
　ライダーが俺を抱きかかえ自身の背中を下にする。
　そのとき顔に何か柔らかいモノが当たったことは俺と君たちだけのヒミツである。
　どん！と、衝撃がする。
「くっそ、いててて。・・・・ラ、ライダー、大丈夫か？」
　顔を上げる。そうするとそこにはライダーの顔があった。
　目が合ってしまった。幸いにもメガネは取れていない。
「・・・シ、士郎。」
　たぶん、自分でもあり得ないくらいに真っ赤になっているだろう。そのくらい解る。
　時間にして三秒あったかなかったかというくらい。瞬間、

ガラッと、襖の開く音がした。

「ライダーお茶・・・、」

そこには桜。お茶を持っている。
　俺はというと、つまり、あれだ、ライダーを押し倒している状態なわけだ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！！！！！」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！！！！！」
　言葉にならない桜と俺の叫び。そして固まるライダー。
　黒桜に殺されるのなんてもう慣れっこだい！
　こうして俺はバッドエンドを迎えた訳だ。
　結局屋根は治らず終いだったなぁと、のんきにも考えていた。

ＥＮＤ。

夜、そろそろ眠るかと思っていた矢先、
　スーッと襖が開く音がした。そこにはライダーが。
「士郎、屋根が壊れていて眠れませんのでこちらで・・・、」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！！！！！」

俺の夜はまだまだ荒れそうである。
　解っているのかライダー、バッドエンド（桜、遠坂、セイバー、イリヤ）はどんな時でも地獄耳なのですよ？
　そんな時でもライダーのおへそは見えていた。