「―――投影、装填。」―Nine Bullet Revolver―
俺が自分の終わりを悟った時。 これが終わったら一緒に暮らそうとイリヤを誘った。 我ながら無責任だと思う。 守れぬ約束と分かっていながら言い出すなんて、詐欺と同じだ。 でも切嗣の息子として、彼女に返しきれない負債を抱えているこの身が、 彼女を置き去りに終わっている道を踏み出すことを、 どう詫びればいいか分からなくて。 けれどそれをやんわりと窘めて、 『シロウのいないエミヤの家には、わたしの居場所はないんだから』 と寂しげに笑う彼女に、さらに今、俺の我侭に付き合わせているのだと痛感した。 それでもイリヤを臓硯の手から救い出せた事に安心して。 あとは俺が決着を付けさえすれば、彼女はもう運命に弄ばれることはないのだ、 と僅かな慰めを見出して。 『どっちかがどっちかを犠牲にすれば、少しは生きられるかもしれない。 けど二人いっしょは無理だと思う。』 つい口から出た幸せなユメを、それを望んでくれただろう彼女に否定させた。 我侭だ。 彼女を置いていくなんて、切嗣のした事と同じだ。 だけど、それでも彼女が見送ってくれるのが嬉しかった。 切嗣の最期の時。 きっと本当は俺のガキ丸出しの約束なんかどうでもよくて。 ただ最後に自分を見送った息子に向けて。 『ああ、安心した。』 と言ったのだろう。 今感じているこの気持ちは、あの時の切嗣と同じ気持ちなんだろうか。 二度目の仮初めの生を穢された姿で終えようとする、 少女の守護者だった英雄が、少女と彼を討った少年に見送られる。 彼を討ち、貫いた巨岩の剣が少年に教える。 英雄の未練、心の瑕を。 自分が愛した家族を、守るべき者たちを。 己の血に端を発した呪いにより、自らの手で壊した狂気と絶望を。 贖いに己を鞭打ち、死を免れぬだろう試練を望んだ。 死を求めたかった心もある。 だが何より家族を犠牲にした我が生に、意味を探さずにはいられなかった。 愛する者達の生を、死を。 己と共に無意味に堕すことだけは耐えられなかった。 それが神の血などよりも、彼を英雄と成さしめた想い。 己を贋作した剣を持つ少年に、視えぬ目を向ける。 その少年は主の家族。彼女を守るために我が身を殺しきった異能。 少年の身を案じて上げた主の声に、悪夢を祓われた英雄は。 あの絶望を再び味あわずに済んだ安堵と共に、 だから、お前は守れ。と、 少年に主を託してその世界を去った。 <END>
by 蒼兵衛
応援掲示板のNo.3216の祐次さまのコメントを見て、 以前に書いたのを引っ張り出してみました。 バーサーカー、ごめん。 2位票は桜にあげちゃったんだ……
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