それは、10月も終わりに近づいたある日。 「なあ、遠坂、ちょっといいか？　聞きたいことがあるんだが」 「何よ士郎、急にあらたまって」 　先日まで衛宮邸に滞在していた、陰険シスターも改装が完了した教会へ帰っていった午後。凛が使用している部屋で二人は向き合っていた。 「例の実験の後始末なんだけど、どうなったのかなって」 　それは、一連の騒動を巻き起こした魔術実験の失敗についてだった。その後始末のために彼女は魔術教会の本部があるロンドンへ行っていたはずなのだが。 「一応、終わったわよ。これ以上はおかしなことにはならないと思うから、安心して」 「そうなのか、すごいな。じゃあ、もうすっかり元通りなんだな」 「それが、そうとも言い切れないのよね」 　と、遠坂の歯切れが悪い。 「なんでさ。後始末は終わったんだろ？」 「確かに、あの実験の失敗でおかしくなった原因は除去したわ。だけど、あれに影響されて起きた出来事はどうにもならなかったの」 「？　どういうことだ？」 　机の上に置いてあった眼鏡をかける遠坂。なるほど説明モードだな。 「以前、ロンドンに発つ前に説明したでしょ。『冬木の町で起こり得る可能性なら全て引き寄せられた世界』って。もしこれが『起きるはずのない出来事が起きる』のなら、そう例えば固有結界みたいな現象なら、私なんかが走り回らなくても世界が勝手に修復してくれる」 　それはこの世界のルール。ありえないものの存在を許さない世界の自己修復機能。 「でも、起きたのは『冬木の町で起きてもおかしくない出来事』だから、何が正常で何が正常でないのかなんて、誰にもわからないのよ。もしそれを修正するなら、冬木の町で起きた全ての事象を検証してどれが正常なものか判別しなくちゃならないの。そんなことできっこないから、私がやったのは原因だけを除去して、後は現状放置ということ」 　つまり今後は異常は起きないが、既に起きてしまったものはそのまま残るってことか。 「そうか、だからサーヴァントたちがみんないるのか」 「ちょっと、士郎いまなんて言ったの？」 　遠坂がぽかんとした顔で見つめている。 「だから、セイバーたちサーヴァントがいるのはそのためなんだな、て。聖杯戦争が終わったら、いなくなるんじゃなかったのか？」 　確かに、一度はいなくなったような気もする。 　そう言うと、遠坂は、え？、あれ？、えーと、むむ、はっ、あっちゃー、と表情を変えていった。 「そういえば、そうよね。あまりにも当たり前な日常になってたんで気が付かなかったわ。士郎はよくわかったわね」 「俺にもよくわからないんだが。ケモノみたいなヤツと戦ったり、さんざん走り回ったような記憶があるような気がしてたんだ。あんだけやったのに、何も変わってないなーってふと思ったんだよ」 　経験しなかった記憶を思い出そうとする。もちろんそれはぼんやりとした印象でしかないのだが。 「それにしたってすごいことよ。で、正義の味方の衛宮君はどうするの？　セイバーたちを消しちゃう？　言っときますけど、実験前の状態に戻すなんてもう無理ですからね。さっきも言ったけど、あの実験以後に起きた全ての事象を把握して、しかもその全ての正誤を客観的に、ただの一つも間違えずに判断しなきゃいけないの。そんなこと人の身には到底不可能なんですからね」 　それでも完全に元通りにするなら、時間遡行なんてさらなる魔法を使うしかないしねーと付け加える。 「じゃあ、俺に出来ることは何もないのか？」 「そういうこと。あきらめて新しい日常を楽しみなさい」 　と、遠坂が席を立ったところに、ノックの音が重なる。 「姉さん、いますか」 「いるわよー。士郎も一緒だけど」 　どうやら桜のようだ。 「あの、姉さんにお客様が来てます。ルヴィアさんとおっしゃってますが、どうしましょう」 「え。なんであの縦ロールがここに来るのよ！」 　さて、またあわただしい事態になりそうだが、それは別のお話。

by 高村いなご

凛の応援SSのはずが、どうしてこんなことに？
ま、もう最後でしょうから、いいとしよう。(するな)

結局、4日間の後にもセイバーたちが残っていることに対する、
士郎たちの認識ってこんなもんじゃないのかっていう私なりの解釈です。
いろいろと設定ぶっとばしてたり、ツッコミどころがあるのはご勘弁。

楽しいお祭りもあと1日。誰が泣くのか笑うのか？

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