いま、会いにいきます
常冬の城、アインツベルン城。その中庭には一人の従者が精魂込めて育てた花畑が存在する。そこに中庭の管理者である従者と一人の少女が居た。 「お嬢様、そろそろ出発なさいませんと間に合いませんよ」 白いメイド服を着た従者が主人の出発を促した。彼女の隣にはいつもいるはずの相棒はいない。 主人の出発なのに従者はうかない顔をしていた。それもそのはず、主人はここを出てし まえばもうここへは戻ってはこない。だが、その身は主人のために生まれた。抗えるはずがない―――。 お嬢様と呼ばれた少女は儀式用の白い礼服を身にまとい、高級そうな白いベンチに腰を掛けて中庭に咲く花たちを愛でるように見つめている。 「ええ、わかってる。いま行くわ」 少女はとてもなごり惜しそうに花たちを見ると、別れを告げるようにベンチから腰を上げた。 中庭を出る前に少女はもう一度花畑を見た。 「セラ、今までありがとう。結局花が庭を埋め尽くすまでいられなかったね」 そして主人は天へと還って行った。 あの日からどれだけの年月が経ったのだろう。わたしは今でも中庭で花の世話を続けている。 本家からの連絡もだいぶ前に途絶えた。当時は完璧だったはずの結界も少しずつだが効果を弱めていき、アインツベルンの森もそれに比例して時代の流れに侵食されていった。今では城の屋上から車の流れる道が見えるくらいだ。(かろうじて残っている結界のおかげで城の存在は隠されてはいるが) 空はとても澄み切っている。花たちにとって、良い日光浴日和だ。 「ふぅ、今日の仕事はこれでおしまいです。元気に育ってくださいね」 花たちはとても気持ちよさそうに一斉に揺らいでいる。 わたしの体もすこしずつガタがきているのか最近は日々の仕事をこなすだけですぐに疲れてしまう。私は頭巾を脱ぎ、ゆっくりとベンチに腰をかけた。 ここちよい風が舞い、髪が泳ぐ。ほどよい光が照らし、眠気を誘われる。ポカポカ陽気とはこのような事を指すのか。 そんなことを考えているうちに本当に眠気がやってきた。 「今日の仕事は全部終わったことだし、少しくらいは…いいでしょうか………」 目を閉じるとすんなりと意識は薄れていった。 『ねぇ、セラ』 「はい、お嬢様」 『この庭一面ぜ〜んぶがお花になったら、とっても素敵だと思わない?』 「はい、とても…素敵だと思います。お嬢様」 『じゃあ、いっぱいにしましょう!セラ、お願いね』 「はい…おまかせ下さい。わたしの得意…分野です」 『ねぇ、セラ………』 「はい………、お譲…様……」 『ねぇ、セ―――』 「―――――――」 中庭一面に広がった花たちだけが楽しそうにゆれていた。
by 貴野月都
初めて書き上げたFateSSです。 セラのコメントを見てどうしても書きたくなって書いてみました。 今自分の中でアインツベルンの株が急上昇中!! いけいけ僕らのアインツベルン!!
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