夢の始まり
―――昏い。ここはドコダ。 何も無い。ココは英霊の座という名の墓。 地面には、剣の残骸。投影し損なったただのガラクタ。 天には晴れること無き暗闇と静寂。 ああ―――戻ってきたのか、ワタシは。 『世界』に囚われている限り、この身は空洞の剣なのだから―― 「幾度戻っても、この景色だけは変わらない…か」 一人呟く。時間と言う概念を越えて、幾度も「マスター」に召喚される。 生前は誰かを助けるため、奔走していた。 赤銅色だった髪は極度の魔術回路の酷使により、銀髪に。 その瞳は有色だったものから灰色へ。 何度も裏切られて、それでも「正義の味方」でありたかった。 けれどその理想は磨耗して、何のために戦うのか、意味を失くしたまま。 肉体は滅んで既に久しい。 『この身を剣とする者が居る限り、私は反英雄であり続ける』 それは死を迎えた時に「世界」と契約したコト。今更拒否権などなかった。 ――望みがあるとすれば。愚かな理想を抱いた過去の自分を殺したいだけ。 「けどさぁ、昔のアンタが突き進んだ道、誤ったらオレみたいな存在にも なるんだぜ?」 「―――!?」 『座』に誰か座っていた。紅いバンダナに身体中に見えるシャーマンの刻印。 その身の色は浅黒く、うっすらと見える深い瞳。 目の前の人物は今一番見たくないヤツの貌をしていた。 「そんな睨むなよ。オレはアイツの外殻を借りて出現した『悪』に過ぎない。 絶対悪の名は持ってるが、な」 ケラケラと嘲笑(わら)って私を見つめる。ああ、本当に邪魔なヤツだ。 「……聖杯を斬ってもまだ懲りないか」 「だから睨むなってんだろ。アンタをこれから始まるゲームに誘いに来たのにさ。 参加してみねぇ?」 「私はお前のつまらん児戯に加わる理由などない」 「ふーん…(まーどっちみち、第五聖杯戦争に関わった全ての者が強制で 参加なんだけど)」 ――じゃあ、アンタは闇に戻る方がいいのか。なあエミヤ―――? 「…消えろ。ここは私の座だ。貴様の座は他にあるだろう」 地面にあった剣の残骸が浮いて「敵」に向かって奔る。残骸は限り無く 出現(あらわ)れる。私自身は立ち尽くしたまま。この座では私が望めば「実」となる。 無限の剣製、限り無き武器の投影…それがワタシの唯一の武器であり、固有世界―― 「……ああ、用件も済んだし消えてやるよ。 けど、アンタという英霊が存在するのは一つのミライであり結果だ。その事は しっかり覚えておくんだな――」 でなければ、お前と言う存在はハジメから存在しなかったことになるのだから…… そんな言葉を残して。ヤツは消えて行った。 「………そんな事、判っている…」 約束した。あの時、生涯仕えてもいいと望んだマスターと。 「ずっと見張っていてあげるから、貴方を絶望させたりしないから―――!」 かつての自分が憧れた少女。それが最後のマスター。 自分の赤い外套とよく似合っていた遠坂の当主は英霊になってからの私が、 唯一心から認めた依り代(パートナー)。彼女ほどいい女も居ない。 「……凛……」 彼女に会えるのなら。この穢れた身でも彼女が逢いたいと望むのならば。 『なら――参加してみろよ。アンタの役も用意してあるぜ――アーチャー』 声が聞こえる―――世界が願いを欲している――― 「よかろう。これから退屈しなくて済む…貴様の下らぬ夢に付き合ってやる。 アンリマユよ」 世界よ、願いは定まった。 今一度夢の続きを見させてくれ―――
by 蒼咲夜
ギリギリですが弓+アンリ支援SS。 ホロウの直前での会話になります。 StayNightから好きなキャラの一人でしたが、 Ataraxiaやって更に惚れ直しました(笑)。 目指せ上位入賞!
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