夕日の罪 〜並行世界・ある1つの可能性〜
太陽がだんだん西へと落ちて行き、その名前を夕日と変える。そんな時間。 校門の前には、夕日など霞んで見えるくらいに鮮やかな「赤」が ――不機嫌そうに、空を見上げていた。 「…おい。そこで何を企んでいる女狐」 いつものように腕組みをして、いつものように半眼気味に、いつものような口調で問いかける。 恐らく衛宮でも待ち伏せているのであろう遠坂凛は、あろうことか我が高の名前の部分を隠すように背を壁に預けていた。 赤いコートを身に纏って静かに佇む彼女の姿はどこか現実味がなく、こうして話し掛けたにも関わらず遠くに感じる。 「あら…1人で寂しくお帰りなのかしら?生徒会長さんは」 たった今まであんなに機嫌が悪そうだったというのに、声に気付いて顔だけをこちらに向けたその表情は。 「何だ、そのありえんほどの笑顔は」 わざとらしい笑顔とは違う、何故だか心底嬉しそうな。 腐れ縁も6年目に突入したというのに…そんな顔、今更見せないでほしい。 …まぁ、見たからといってどうという事もないのだが…。 「え……私、今笑ってた?」 「む?自分の顔がどういう表情を作っているか分からんのか、お前は」 遠坂はしまったと言わんばかりに片手で顔を軽く覆ったかと思えば、俺の言葉を聞くと眉を寄せて不機嫌になった。 いや、戻ったと言うべきか。 「ちょっと、私をバカにしてるわけ?」 生徒はほとんど下校し終わって人気がないのをいいことに、遠坂は優等生の仮面を外しているようだ。 背を預けていた壁から離れ、俺の顔を睨み上げるようにむー、と覗き込んでくる。 外国へ行こうが何をしようが、帰ってきた彼女はやはり彼女のままであったらしい。 安堵したと共に何故か可笑しくて、小さく吹き出すと。 無意識に、彼女の頭に柔らかく手を置いた。 「……ぁ。」 自分で何をしたのか一瞬解らなかったが、遠坂が目を丸くして硬直しているのを見て慌てて手を引っ込める。 …何だ、何をした。何故…俺は、あんな。 「う…あ、いやっ、これはだな…!」 不味い、自分の顔が赤くなっている。恐らくはかなりだろう。この熱さは。 バツが悪くて思わず視線を落とす直前、視界に入ってきた遠坂の顔は―― 「…な、何するのよっ!どこだと思ってるの、誰かに見られたら困るじゃない…っ!」 俺と同じくらい赤かった、ような。 「だ…誰かに、というよりは衛宮に、だろう?認めたくはないが交際しているんだしな」 ようやく動揺が治まって顔を上げると、どうやらたった今遠坂の表情が変わったらしい。また不機嫌にさせてしまったようだが、理由は定かではない。 「ふーん……信じたのね」 「どういう意味だ?今も待っていたんだろう?しかし残念だが衛宮は…」 「知ってるわよ。バイトがあるからとっくに帰ったんでしょう?」 「……む」 これは奇妙なことを言う。遠坂は平然と片手を腰に当てているが、衛宮のアルバイトの予定を知っているということは2人はやはり深い仲ではないのか。しかし先程の言い方からすれば、その事実を否定していたとも取れる。 いや…それよりも何よりも不可解なのは。 「ならば、誰を待っている?」 遠坂が今ここにいる理由。それが見当たらない。 美綴と待ち合わせかとも思ったがそういえば奴は今日、親戚の結婚式とやらで欠席だと昼に衛宮から聞いた気がする。 「あっ…そ、そうだったわね!私としたことが忘れてたわ、そうそう休みだった…っ」 …それでごまかしているつもりなのだろうか。 わたわたと慌てて視線を泳がせているし、不可解ではあるがその顔は。 「…赤くなっているぞ」 「…っ!!」 今度は動きをピタリと止め、硬直してしまったようだ。 しかし校門で待っていたところを見ると、もしや衛宮以外に気になっている男でもいるのだろうか…? 詳しくは知らないが、何やら年上で褐色の肌の男ともいい仲だという噂があるのを思い出した。単なる噂に過ぎないと思っていたのだが、よもや真だったとは。 ――胸が詰まりそうなのは、何故。 「…すまん。出過ぎたことをした。もう日も暮れる…気を付けることだ」 理由は自分でも分からないこの息苦しさを気取られないよう、足早に遠坂の前を通り過ぎようとする。 「一応…女性なのだからな」 ぽつりと付け足し、彼女の前から立ち去った。 ――つもり、だったのに。 「もうっ!!何で分からないのよ…っ!!」 ぐんっ、と右腕を後ろから引っ張られて振り返ると。 必死に俺の腕を両手で掴み、俯いている彼女が。 彼女が。いた。 ――あぁ、今度はどんな企みだろうか。 俺を、虜にしておいて。 その上こんな風に……期待させるなんて。 「…言っておくけど、私の顔が赤いのは……その……夕日のせい、だからね?」 「…言われなくても分かっている。俺の顔が赤いのも……夕日のせいだ」 交差点までの帰り道。 伸びる2つの影。 気恥ずかしさは全て、夕日のせいにしてしまおう。 左腕に感じる彼女の温もりも、あたたかな夕日のせいにしようか。 ――お前がまた、遠く夕日の彼方へと飛び立つ日に。 引き止めてしまったりしないように。 〜Fin〜
by 蒼姫 彩
人気投票もとうとうラストスパート。 私が愛する生徒会長を応援すべく、思いきって投稿しました。 …密かにこのカップリングを応援しています。(笑) 大好きなこの2人が、たくさんの票を獲得できますように。
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