１／ 　影が桜を縛っている。 　あの、全身を覆った黒い令呪が桜を縛っている。 　……泣いている。 　桜は泣いている。 　自身を蝕む影の痛みからじゃない。 　自分を抑えきれない、あの影に操られるしかない自分が悔しくて泣いている。 　さらに一歩。 　影の槍が頬をかすめる。 　さらに一歩。 　右手を、左腕の肩にかける。 　一歩。 　思い浮かべるモノは一つだけ。 　残った魔力を、全てそれに注ぎ込む。 　桜の顔が、よく見えない。 　 　　「帰りますよアヴェンジャー。―――そんなヤツとは縁を切りなさい」 　　　　　一息で、彼女の心臓を斬り抉った。 　 　 ２／ 「―――固有結界。それが貴様の能力か……！」 　一歩踏み出す。 　左右には、ヤツの背後に浮かぶ剣が眠っている。 「驚く事はない。これは全て偽物だ。 　おまえの言う、取るに足らない存在だ」 　両手を伸ばす。 　地に刺さった剣は、担い手と認めるように容易く抜けた。 「だがな、偽物が本物に敵わない、なんて道理はない。 　おまえが本物だというなら、悉くを凌駕して、その存在を叩き堕とそう」 　前に出る。 　目前には、千の財を持つサーヴァント。 　　「いくぞ英雄王――――武器の貯蔵は十分か」 「は――――思い上がったな、雑種――――！」 　敵は“門”を開け、無数の宝具を展開する。 　 「……まあ、実際問題、武器以外を出されたらアウトなワケですが」 　 「だめー！　くじけそうになる発言は禁止ーーー！」 　ああ、なんか早速倉庫から妙な花札とかがひょっこり顔を出してやがるしっ！？ ３／ 　居間はメチャクチャになっていた。 　何が天井から落ちてきたのか、部屋は瓦礫にまみれており、偉そうにふんぞり返っている男が一人。 　アレ、間違いなく下手人だ。 　自分の馬鹿さ加減が腹立たしい。 　カリカリとした心のまま、偉そうに横たわっている瓦礫の男を睨み付けた。 「それで。アンタ、なに」 　赤いソイツは、やれやれ、なんて大げさに首をすくめながら、 「オレ外道マーボー今後トモヨロシク」 　なんて呟きやがる。 　……断言しよう。 　コイツ、絶対に性格ゆがんでる── 　 　 ４／ 「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない」 「――――“レイソン・霧柄”」 　 　……誰？　 　 　 ５／ 　―――――― 体は剣で出来ている。 　 　血潮は鉄で　心は硝子。 　 （略） 　 　故に、その生涯に意味はなく、又また相応しいものでもなかったが、私は驚くのだ。 　 「わかり辛っ！？」 　 　その体は、光る粘土で出来ている。 　 「ってか、むやみに凶悪だなもうっ！？」 　 　 ６／ 　――――顔をあげる。 　眼は機能していない。 　眼球は敵を写さず、ただ、ヤツの記録だけを流してくる。 　……その中で。 　亀のように縮こまって、必死に生き延びようとするものがいた。 「そうだ、死にたくないと言う願いがあまりにダメットだったから憧れた！」 「自分が嫌いで、一生好きになれなくて、それが分かっていながら、少しでも上等な自分になりたくて足掻（あが）いてきた。 　オレはそういう無様なヤツがいい！」 　 　……あ、なんか混ざった。 　 　 ７． 「ええと、葛木メディア？」 「…………」 「……葛……木……メディア…………」 「そ……それ……イイ。 　それだわ。それ。葛木メディア！」 「帰ったらアサシンに表札彫らせなくちゃ！」 「いやあんた居候だし」 　両手を広げたキャスターは、竹とんぼみたいにくるくるまわる。 「皆さまぁ！　わたくしはぁ！ 　葛木メディアでございますぅー！ 　葛――木――メ――ディ――――――」 　 「……でもさぁ」 「？」 「葛木って、明確に偽名だろ？ 　本名も教えて貰えて無いって事は、 　案外、実は全然信頼とかされてないって事なんじゃぁねぇのか？」 　 　凍る、場。 　 　吹きすさぶ風、荒れ狂う稲光、激震する青き海。 　そしてみゃーみゃー鳴くウミネコ。 　いろんな意味でこの世の終わりとも言える光景がいま惜しげもなく大展開。 　地上にも煌めく星がある事を、宙を行く者が知り得たか定かではない。 　 　 ８． 　疾駆する骸が足を止める。 　塔は静かな、音一つあげぬ視えない旋風に包まれ、正面からの進入しか許さず。 　駆け集ったカレ等は、その威風の前に立ち尽くすのみ。 　刮目し覚悟せよ数多の残骸。 　汝等が目にするは目映い剣。 　紺と白の戦装束に身を包んだ、汚れなき理想の具現。 　辿り着いた士たちはざわざわと色めき立つ。 「よくぞやってきた我が精鋭たちよ！ 　これより君たちは数々の難関を乗り越え、悪の逆月に辿り着かねばならない！」 　ビガガ、と雷鳴が走る。 　……まずい。 　何か、よくない次元にワープアウトしてしまった模様。 「よーし、それじゃあ始めるわよー！ 　メインキャラに巣くわれた逆月を攻略する聖戦、あなたとわたしのラブラブゲーム！ 　題して―――！」 　 　 ９． 「―――初撃は譲る。そちらの先制で群れの先頭をなぎ払った直後、橋に降りる。 　あとは持久戦だ。君はここから列の腹に穴を空け続け、私は魔術掃射から逃れた連中を斬り伏せる。 　何か問題はあるか、リン？」 「異論はないわ。わたしとアーチャーの二段構えでも抜け出るヤツが出てくるだろうけど、それは無視して。 　わたしたちの役割は大軍の殲滅。細かい取りこぼしなんて、目の前の敵がいなくなってから考えるコトよ」 　刻印が光を宿す。 　彼女はしなやかに、最短の手順で宝石に秘められた魔力と魔術を解放する。 「――――――Anfang」 　黒く染め上げられた地上に、大輪の花が咲く。 　開幕を告げる魔術の炎。それは地上の星となって、ソラにかかる道筋を照らしあげ――― 　劫火。 　──炎はそのまま、水が流れるように橋を焼き崩した。 　 　 １０． 　騎士は動かず。 　剣の輝きにはわずかたりとも濁りはない。 　彼女は天を見上げず、ただ目前の残骸を見据えるのみ。 「立ち去れとは言わん。 　ここは我が主の望みにして、我が信念を叶える場所。 　その怨嗟が、この希望を望まぬというのであれば、互いの立場は明確だ」 　紡ぎ出す声は厳しく、穏やかだった。 「……ここは未来を重んじる者のみが至る梯子だ。私にも、貴様等にも踏みいる余地はない。 　それを傲慢と呪うのならば―――」 　……迷いはない。 　幕を下ろすのは彼だけではない。 　この夜戦（つど）うもの全ては。 　自ら望んだ未来の為に、この幻想を打ち棄てて――― 「いざ、死力を尽くして来るがいい。 　この剣にかけて、貴様等の挑戦に応えよう―――！」 　黄金の光が黒い汚濁を打ち消── 　 　──ぷすん。 　 　……あ、エンストした。 　魔力供給もロクにないのにアヴァロンに聖剣なんて後先考えず派手に大技連発なんて噛ましちまうからもー。 　 　 １１． 　この無に生まれた日常の結晶の前に、最後の観客が立っている。 　聖杯の契約者。 　この場所で眠り続ける唯一の人間。 　同じ願いを持ちながら、違う結果を望む敵として、この聖杯を守っている。 「……よう。こっちの姿だと初めましてかな。元気そうで何よりだ」 　近づかぬまま手を上げる。 　オレたちの距離はこれ以上は縮まらない。 　それは既に別（わか）たれた精神的な距離であり、 「止まりなさいアヴェンジャー。それ以上進めば貴方を殺します」 　近寄れば殺されるという、物理的な問題でもある。 「ＯＫマスター、ざっつオーライ。それじゃぁサヨナラ又明日」 　 　間。 　 　……さて、反射的にやってしまったが、このやるせない空白を、一体どうやって埋めてくれよう。 　心底天の邪鬼だと思いはするが、抵抗を期待されるなら、何はなくとも崩してみせるが己が業── 　 　 １２． 「……結局は、生きてこその喜びだった。 　あんな虚無に戻りたい筈がない。……ここは私の望みでもなんでもない。 　アンリマユ。この世界は貴方のユメだった。 　聖杯戦争を続けようとしたのが私の願いなら、あの平穏な日常こそが、」 　―――過ぎたユメだ。 　これ以上は続かない。どんなに楽しくても、全て埋まったのなら。 「本当の自分を始めるために、今までの自分を、終わらせよう」 　 　……いや、誰だよ？ 　 　 １３． 　３、大きく呼吸をする。 「あ、抜け駆けして三秒前に走り出す、というのはなしですよ。決闘ではないんですから」 　２、彼女らしい心配に楽しくなる。 「あっはっは。―――甘いな、オレだったら一秒目で逃げ出してる。相手が三秒待ってる頃にはトンズラだ」 　１、今まで通りの切り返し。 「そうですね。私も、三秒待った後でその背中を狙い撃ちます」 　高らかな笑い声。 　０。 　視界は無に。 　背中越しに感じた喜びは名残さえない。 　■（わたし）は崩れゆく音を聞く。 　その音も、じきに無に戻るだろう。 　 ごがっ　ずりゅ　びだんっ！ 　 　……なんか、背後から妙な音が聞こえた。 　察するに瓦礫が直撃したなー、ありゃ、多分。 　なんというか、流石ダメット。有る意味期待通りだすげぇぜマスター。 　 　 １４．　 　……聞かなかったことにして走り出す。 　振り返らないと約束したし。約束破るとおっかないからな、あの人。 　 　走る。出口は、たしかあちらの方だったか。 　まだ視界があった時、キチンと確かめておけば良かった。 　舞い散る欠片の音に、かつて過ごしたざわめきを聞く。 　止まりそうになる足を動かす。 　咲き乱れる命の音に、かつて居たひだまりを観る。 　止まりそうになる足を動かす。 　出口に向かう。 　自己の消滅より恋焦がれた日常の破片の中、何も見えなくなった目で走り抜── 　 　──転倒した。 　 　いかん、なんかこっちにまでダメットが感染してる。 　心せよ、ならば、汝、此処より先はまさに死地──！ 　 　……っていうか、有ったんだなー、足。 　 　 １５． 　―――さて、始めの挨拶はどんなものが相応しいかな」 　口元を綻ばせながら、窓際で来客を待つ。 　続けよう、と彼は言った。 　今はそれだけで十分だ。 　答えは当分見えそうにないけれど、みっともなく悩みながら走っていくのも悪くない。 　苦しいのは相変わらずだろうけど、少しぐらい楽しみだってあるのだから。 「―――まずは海を渡ったこの街で。貴方が繰り返した日常を見てきます」 　これからの時間に思いをはせる。 　にぎやかな足音はもう近くに。 　私は、私だけが知っている起こらなかった四日間に別れを告げて、新しい五日目に声をかけ――― 　 「……まあ、実は私も知っているワケなんですが」　 　 　一部始終を盗み見ていた修道女がぽつりと呟く。 　なんか色々台無しだった。

by ＥＲＴＺ

　まあ、そんなこんなで、今回もこそこそと。
　油断してたらなんか最終日になってたりしてますが、骨休みなどにでも使用していただければ幸いです。
　
　相変わらず脊髄反射だとか、時間の問題がどうとか。
　元々絵で出すネタだったので文だとアレなのとかあれこれグダグダ有ったりもしますが、
　正直な話。
　できるなら黒鍵隠し持つ人とかに投票したかった私の、八つ当たりと知りなさい―――！

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