ああ、またか。 　 　霧のようにぼんやりと漂っていた意識が申し訳程度に実体を持ち始めたとき、真っ先に考えたのはそんなことだった。 　紅い世界。 自分と彼女だけの、閉じられた世界。 俺はここを知っている。 　そうだ。知っていたはずなのに。 　覚えていたはずだったのに。 　 ここに訪れた。 　ここで誘われた。 　ここで快楽に溺れた。 ここで交じり合った。 　 　そして 　 　ここで彼女の真実の気持ちを知った。 　そして 　今、ここに戻るまで忘れていた。 「士郎……シロウ…」 呼ぶ声に疑問もなく導かれ、誘われ、辿り着き、当然のことのように彼女の身体を抱きしめる 彼女の身体の冷たさと柔らかさを感じながら、その虹色の瞳を覗き込む。 また、俺は忘れるのかな？ ライダーは俺の心の問いには答えず、 「シロウ…」 そう幸せそうに俺の名を呼んだ。 俺は既に彼女の魅力に奪われつつある心の隅で 今度は忘れたくない 覚えていたいと熱望していた。 ＊ 「覚えていてくれなくてもいいのです」 　幾度もの睦み合いの後、そう囁く声を聞いた。 　その囁きは俺の心の葛藤を完璧に見透かしているものだった。 「今、このときに知っていてくれるだけで私は幸せですから」 そういってライダーは微笑む。 本当に満ち足りていると言うように。 「ですが…」 　ライダーのひんやりした手が俺の頬を慈しむように撫でる。 「今日は少し特別な日ですから」 「思い出の欠片くらいは、遺させてください」 　ちょっとバツが悪そうに苦笑いした彼女はおもむろに自分の指先を噛み、皮膚を破った小さな傷口から真っ赤な血が滲む。 　神代の女神の美しさというものは、指の先まで血の一滴までも完璧なものらしい。白磁のような指に珠のように浮かぶ紅い血の組み合わせは、それだけでひとつの芸術品に思えた。 「なに、を…？」 　問いに答える代わりに、ライダーは指をなぞらせて紅い液体を自分の唇に塗った。 　その原始的で猟奇的で、何よりもひどく艶やかで扇情的な口紅にろくに見惚れる時間も与えてくれないままライダーは俺の唇にしゃぶりついてくる。 　口の中には踊り絡み合う互いの舌の感覚と唾液の味の他に、ひどく異質な味がした。 　ただでさえ快楽を味わうのに夢中で惚けている思考は、その異質なものが彼女の血の味だという至極簡単な答えを導き出すのにさえ永い時間を要してしまった。 　回転が停止ししかかっている思考に弁護をするつもりはないけれど、彼女の血は、まるで血ではないような気がしたのだ。 　ヒトの血のように鉄の味などしなくて。 　ひどく甘かったような気もするけど、きっとそれは正しくない。 　そもそも「味」などという感覚では表現することは困難で。 　言葉にしなくてはいけないのなら、どうしようもなく「熱」かった。 二人の唾液とともに嚥下してしまってから知ったが、俺の存在限界すれすれの意識に止めを刺すには十分すぎるほどに、彼女の血は激しい酩酊効果を持っていた。 まるで強い酒みたいだ。 ヒトはおろか、悪魔や神さえも酔わせるような…。 　それで限界だった。 　身体ごとライダーの方へゆっくり崩れていく。 　ああ、やばい。 　そう思うのと同時に、まただな、と諦念と苦笑が頭を過ぎる。 　今度は覚えていたかったんだけど、またダメになりそうだ。 　ふらふらの俺を優しく抱きとめる彼女の横顔を眺める。 　視線が重なり合う。 　彼女の顔は涙を堪えているようにも微笑んでいるようにも見えた。 　また忘れさせてしまうのだろう。 　この逢瀬も、彼女の想いも。 　ライダーの顔が移動する。 　忘却の儀式の為に。 　首筋に柔らかい吐息がかかり、ぬらりとした舌が触れる。 　名残惜しそうに首筋を這っていた舌の動きが止まり 「おやすみなさい。シロウ」 　彼女の囁きと、首筋に刺さる鋭い感覚を最後に意識は黒い暗幕に閉ざされた。 ＊ 「おふ？」 　気がつくと、視線の先には見慣れた土蔵の天井があった。 「むぅ〜」 　身体を起こして、伸びをする。 　変な体勢で眠っていたせいか、筋肉が所々痛む。 「……あ〜…っと…」 　一体俺はなにをしていたんだったか。 　間抜けなことに眠る前にしていたことがなかなか思い出せない。 この歳で健忘症というのはいただけない。こんなんでは、また遠坂に何を言われるのかわかったものではない。 「あ。そうか、そうだった」 　答えは目の前にある物体を見てすぐに得られた。 　そこには、チューンアップされ、新たに生まれ変わった自転車4号の雄姿がある。 　2号の性能に不満の意を表明し続け、俺の1号を執拗に狙い続ける（というか間々奪われたりするのだが）ライダーとの折衷案として誕生したのが、この自転車4号だ。 　完成には結構手間がかかったが、これならライダーも一応は納得してくれる出来栄えだろう。 一度完全にバラして、磨耗したパーツを交換したり、魔術で強化したりと、苦心の末にようやく完成したものだから、満足とつい一休みのつもりでぐっすり寝入ってしまったらしい。 「…あれ？」 　そういえば、なにか夢をみていたような気がする。 するのだが、さっぱり思い出せない。 なにか、大切な、忘れたくないと思うような、夢。 「うむぅ……」 　4号の最終点検をしながら、道具を片付けながら、作業着から着替えながら、頭の回転率を上げて思い出そうとするが、それでもどうしても夢の内容を思い出すことは出来なかった。 「ま、夢のことなんだし、別に良いか…」 　そう自分を誤魔化しながら、屋敷に戻る。 　とりあえず居間に向かうと、そこには雑誌を床に開きリモコン片手に煎餅を齧りながら文字通りゴロゴロしている虎が一頭。 「あ。帰ってきたんだ士郎」 「いや、出かけてないよ。ずっと土蔵でライダーの自転車いじってた」 「ん〜、ライダーさん、いっつも思いっきりカッ飛ばしてるもんね〜。直してあげてたんだ」 「直してたというか、造ってたというか」 「まあ、ちゃんと直してあげないと士郎の自転車が本格的に徴収されちゃいそうだもんね〜。世の中ホントに弱肉強食だよね〜」 　アハハと能天気に笑いながら、新しい煎餅をバリバリ噛み砕く藤ねえ。 もはや寝転びながら物を食うなとは言わないが、せめてTVを見るか雑誌を見るかは決めて欲しい。 注意しようかと思いかけたが、野生に道理を説くのが徒労に等しい努力であることは身に染みてわかっているので開いた口を閉ざす。 ついでに「俺の自転車1号の先にあるライダーのターゲットは、藤ねえの愛車、タイガー1号なんだぞ」という忠告も飲み込んでおく。 そう、世の中は本当に弱肉強食なのである。自らこそ食物連鎖の頂点よと慢心していると、いつの日か虎は蛇にその身を呑み込まれる時が来るであろう。 「ああ、そうだそうだ。はい士郎、これあげる」 むくりと起き上がった藤ねえがビニール袋を差し出している。 「なに？」 　手渡されたその中身は、小さなチョコレートがいくつも。コンビニや駄菓子屋でおなじみの１個10円のアレだ。 「…なんだ、これ？」 　思わず訊ねてしまう。 　藤ねえが変なプレゼントを持ってくるのは今に始まったことではないが、今回はチョコレートといったまともなもので、しかも柿や蜜柑のように常識外れの量でもない。それがかえって謎だ。 「なにって、チョコレートよ。バレンタインでしょ、今日」 「え？」 　不思議そうにする藤ねえの顔に、カレンダーを振り返ると確かに今日は2月14日、いわゆるバレンタインデーだった。 「もしかして士郎。ぜんぜん気づいてなかった？」 「あ…いや…」 　図星だ。 言葉を詰まらせていると、藤ねえはこれみよがしにため息を吐いてみせる。 「お姉ちゃんは呆れましたよ。若い男の子なら、バレンタインにチョコレート貰えるのかそわそわしたりするもんなのに…。うちの士郎ときたら存在すら失念ですか」 　はあやれやれと首を振る。 「む。しかしバレンタインっていうなら、これはないだろ。いくら義理でも手抜きじゃないか？」 　本当は義理でもコンビニで1個10円のでも、くれたということで十分気持ちは嬉しいのだが、つい呆れられたバツの悪さから文句を言ってみる。 　去年までは手作りではない（藤ねえに限ってはむしろそれが有難い）にしろ、どこかの洋菓子店製作のチョコレートをくれていたのだが。 　気持ちはともかくとしてチョコレートはダウングレードである。 　しかし藤ねえは俺の文句にもむふふんと笑って、逆に胸を張ってみせる。 「甘いわね、士郎。正にチョコレートのように甘々だわ。可愛い弟のことを思うが故に、チ○ルチョコにしたお姉ちゃんの愛がわからないのね」 「は？」 　訳がわからず首を傾げる俺に、藤ねえはチチチと指を振ってにやりと笑う。 「どうせ士郎は今日からしばらくは甘いものを見たくもなくなるんだし。それに追い討ちをかけるようなお姉ちゃんではないということよ。だから、まあ、気持ちとしてのチ○ルチョコよ」 　うんうんと頷く藤ねえにこっちは益々訳がわからなくなる。 「いや、藤ねえ。悪いがまったく意味がわからん」 「もう。士郎は本当に鈍チンなんだから」 　がっくり肩を落として、藤ねえは教師モードの顔になる。 「あのね、士郎。ここ最近桜ちゃんや遠坂さん、それにセイバーちゃんも妙にそわそわしてたのはどうしてだと思うの？それにいつもはもう、みんな家にいてもおかしくない時間なのに士郎と私しかいないのは、なんで？」 「あ…」 　言われて思い出す。 なんだか最近みんなの動きが不自然だったこと。 何故か好きなお菓子の種類を聞かれたこと。 不思議に思って訊いてみると、慌てて「なんでもない」と言われ、小さくため息を吐かれたこと。 　みんなひとつに繋がった。ようやく、というやつだろう。 　ああ。確かに俺って奴は朴念仁なんだろうな。 「そういうこと。み〜んな、士郎にチョコレートを渡す今日の為よ。桜ちゃんと遠坂さんなんか、昨日のうちに自分の家で下ごしらえ済ませてたみたいだし。今頃は仕上げ中かしらね〜。たぶんセイバーちゃんも手作りね。遠坂さんと一緒に出かけてたから」 　みんなが…。そうか、もしそうなんだとしたら…。 それは…なんていうか、うん、すごく有難い。 　すごく、嬉しい。 「帰り道にはお菓子屋さんの前でうんうん悩んでるバゼットさんも見たわよ。なんか下敷きくらいあるおっきい板チョコ手に取ってたけど」 　きっと、バゼットはそれでくるだろう。チョコレートの違いとか種類とかわからなさそうだし。調理用の板チョコを手に取っていなかっただけ上出来かもしれない。 「あ、そういえばカレンちゃんが「士郎の嫌いな食べ物はなんでしょうか？」って聞いてきたけど、あれもバレンタインのためかな？」 　ふふふ。うん。間違いないね。きっとその食べ物をチョコレートで固めた、もしくはミックスしたやつを寄越して来るんだろうね。 　なんとなく嫌な予感がするものも若干あるとしても、途端に胸がドキドキしてくる。 　本当に俺にくれるのだろうか？ 　どんなチョコでも嬉しいけど、一体どんなのをくれるのか？ 　楽しみで、でもちょっと不安で、そわそわする。 「そんなわけで今日の士郎はチョコレート漬け決定なわけだから、お姉ちゃんは士郎の胃の負担を少なくするために敢えてチ○ルチョコにしたのでした」 　そういうことか。だったら藤ねえには二重の意味で感謝しなくはなるまい。いや、鈍い俺に気づかせてくれたことを入れると三重にだ。 「うん。ありがとう、藤ねえ」 「どういたしまして〜。みんなのチョコレート、ちゃんと全部食べてあげるのよ。みんな士郎のことを想った、士郎のためのものなんだから」 　もちろんだ。 今日一日は摂取する栄養が全部チョコレートでも良い。血糖値上昇、鼻から出血、肌がカカオ色に変色、まとめてドンと来いだ。 「最初は胃薬もつけようかなと思ったんだけどね。イリヤちゃんとかなら、「この大きさがシロウへの気持ちの大きさよ！」とか言って、ウェディングケーキサイズのチョコレートケーキ持ってきそうだし」 　あはは。まさかぁ。 　と、笑おうとして笑えなかった。 　あり得る。非常にあり得る。 　思考力、行動力、財力、全てにおいてスケールの違うあのお姫様なら、それは冗談でも誇張でもなく極めて現実的なお話になる。 　そして横には「おや？顔色が悪うございますが、大丈夫ですかエミヤ様？まさか高貴極まりない御嬢様が、わざわざ下賎の身分の者へと御贈りになられました恐れ多い品物を、御残しになられるということはありませんでしょうね？ええ、そうでしょうとも。私はエミヤ様は紳士であると信じております。紳士のエミヤ様ならば、御嬢様の御気持ちに泥をかける様な真似はいたしません。必ずや一切れも一かけらも御残しにならず、完食なされますでしょう」とにんまり笑って俺を追い詰めるセラ。 同じく「シロウ頑張る。人間の胃、けっこう膨張する。もし破けても、すぐ手術すれば死なない」とどちらにしろ逃げ場のない応援をしてくるリズの姿が、いとも簡単に予想出来る。 うわあ、これって心眼（真）ってやつかなあ？ 「……藤ねえ」 「んん？どしたの士郎、顔引きつらせて」 「もしものときは…胃薬の件も追加でお願いしていいか？」 「はいはい。うんと効くやつ買って来てあげるわよ」 　足りない。市販の薬ではきっと足りない。 今のうちに、胃袋に強化魔法かけておこうか…。 　やや本気で考えかけたとき 「あ、忘れてた！」 　藤ねえが小さく叫んで、バタバタと棚に向かって走っていった。 　煎餅じゃ飽き足らず追加の茶菓子でも取りに行ったのかと思って眺めていると、藤ねえは棚から小さな包みを取り出して、まっすぐ俺のところへ戻ってくる。 「はい。これも」 　包みを俺に手渡す。 　その包みは真っ黒な袋にこれまた真っ赤なリボンが結ばれていて、触った感じで中に数個の塊、多分チョコレートが入っているようだった。 「チョコレート？これも藤ねえが？」 しかし藤ねえは、ん〜んと首を振る。 「それ、ライダーさんから。これからアルバイトだから、士郎が戻ってきたら代わりに渡しておいて欲しいって頼まれてたの」 「へぇ…。ライダーが…」 　ちょっと意外な気がした。ライダーもバゼットみたく「でっかい板チョコ」、なイメージだった。 　それがどうして、なかなか可愛らしいチョコレートだ。 　正直、嬉しかった。　衛宮家・バレンタインデーとかのイベントに無頓着そうな人ランキングで言えばかなりの上位につけると思われるライダーのチョコレートだったからこそ喜びも一塩である。 ちなみに前述のランキングでぶっちぎりで一位なのが他ならぬ俺自身であることはちゃんとわかっている。 ええ。先ほど改めて痛感しましたし。 「士郎が居間に戻ってくる少し前に頼まれたのよね。惜しかったわね。そうしたら直接貰えたのに」 「む」 　からかうように、にししと笑う虎。 　確かに直接貰えた方が嬉しかったろうが、なんとなくそれはないような気がしていた。 　理由はわからないけど、ライダーは敢えて藤ねえに、いや自分以外の誰かの手にこのチョコレートを預けただろうと確信めいた予感があった。 「ねぇねぇ、ライダーさんのチョコレートってどんなのどんなの？」 　興味津々で包みを覗き込んでくる藤ねえ。 　それに圧される感じで、包みを開けてみる。 「見た目は普通ね…。…おおっ！？これは洋酒の香りですな？」 　藤ねえの言葉の通り、包みを開くと洋酒の香りが鼻腔へ広がった。 「う〜ん、けっこうキツそうなお酒の匂いね。さすがライダーさん。大人の女って感じだわ」 「はは…」 　取り敢えず、ひとつ手にとって口に入れてみる。 　奥歯でチョコレートを砕くと、中から香りの素となっている液体が流れてきて口の中に浸透する。 　その味は 　咽そうなほどに甘いようで、 それよりも焼けるように熱く感じられて、 意識がぼんやりするほど酔いを誘う 　俺はこれを、これと似た味をどこかで味わったことがなかったか？ 　どこかで 　誰かと一緒に 　 　それは何の味だったか 　それはどこだったか 　それはいつだったか 　それは誰だったか 　それは何故だったか 「ね、士郎どうしたの、黙っちゃって。その…そんなに美味しくなかったの？」 　呼びかけに我に返ると、藤ねえが怪訝そうな顔をして覗き込んでいた。 　慌ててチョコレートを呑み込んで笑いかける。 「いや、そんなことない。美味いよ。ただ、やっぱりかなり強い洋酒を使ってるみたいだ」 「ふ〜ん。やっぱりウィスキーボンボンってやつ？今はワインとかブランデーとかのもあるのよね」 　そう言う藤ねえに思わず 「…きっとこれは、神酒だよ」 　そう呟いてしまっていた。 「ねくたる？」 　聞き慣れない単語に藤ねえは当然首を傾げる。 「あ、いや、な、なんでもない。俺、一回部屋に戻るわ」 　それじゃあ、と背を向けて素早く離脱する俺。 　まさか「神酒」というのは、ギリシャ神話において神々のみが口にすることを許された酒の銘である、だなんて説明できるはずもない。 「あ！ちょっと士郎〜！」 　ひとつくらいおすそ分けしてくれてもいいじゃない〜！という虎の叫びを耳にしながら、自室へと退避する。 　ていうか、さっき自分で「チョコは全部食べてあげなさい」的なことを言ってなかったか藤ねえ。 「ふう…」 部屋の襖を閉めて、ひと息をつく。 　その吐息にも洋酒の香りの名残が残っている。 「…神酒か……」 　なんでそんなこと呟いてしまったのか？ 　いくらライダーの真名がメデューサだからって、そんな風に関連付けるのは少しロマンチスト趣味が過ぎる。 　我ながら照れ臭くなって瞑目する。 「！」 　瞑目した一瞬 　 　白い肌 　紫の長髪 　虹色の瞳 　紅い、真っ紅な唇 　 　瞼の裏にそんな艶かしい映像が浮かんでは消え、余計に気恥ずかしくなってしまった。 　誰だ？ 　あれは知っている。 　よく知っている誰かだろう？ 　そうだ。 　あれはライダーだ。 　簡単じゃないか。 　他に誰がいるんだ？ 　でもアレはいつの記憶？ 　いつライダーとそんなことになった？ 　そんなこと、覚えているのか？ 　知らない。 　わからない。 　思い出せない。 　頭が情報と答えを結び付けてくれない。 　思い出せないなら、それは本当にあったことじゃない 　それは妄想。 　それは空想。 　それは夢想。 　でも… 　ああ！なんだ俺は！？ 　いくらライダーにチョコを貰えて嬉しいからって、変に意識し過ぎだろ！ 「そうだよな。なんだよ神酒って」 　思わずぶつぶつ言う。 　そうだ、神酒なわけない。 　あれは神酒というよりは… 「神酒っていうか、女神の血だな」 　沈黙 「…って、だから、何言ってるんだ俺は〜っ！？」 　頭を抱えてごろんごろんと悶える。遠坂やカレンには死んでも見られたくない姿だ。 「ええい！これはあれだ。酒のせいだ。強い酒のせいで酔っているんだ。だからこんなことを口にしてしまうのだ。だからあんなことを思い浮かべてしまうんだ。ああ、そうに違いない」 　そう自分を納得させる。 　強引なのはわかってる。 　わかってるけど、仕方ない。だって他にどうしようもないから。 　どうしようもないから…。 　酔いのせいにして。 『覚えていてくれなくても…』 『今日は特別な日ですから…』 『思い出の欠片くらいは…』 　耳に聞こえるそんな幻じみた囁きも、記憶の隅っこにしまっておこう。 　幸せそうな微笑も、泣きそうな微笑も一緒に。 　そう。今日は特別な日で、強い強い洋酒の入ったチョコレートを食べて少し酔ってしまったのだから。 　だから頭に浮かんだ妄想も空想も夢想も、自分だけの記憶の隅に思い出の欠片としてとっておいてしまっても良いだろう。 　 　神酒、いや女神の血の味がするチョコレートをもうひとつ口に放り込み、俺は苦笑いした。 　

by kiyohiko

超滑り込み投稿です。むしろ滑り込めていない可能性大です。
ライダーさんのためのSSですが、肝心のライダーさんの出番が少ないです（ダメじゃん）。
どうしようもなく拙い文章ですが、ライダーさんへの愛が伝われば幸いです。

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