終(始)、
――――そして、本を閉じた。 * 目を閉じる。記憶を辿る。思い出を見付け直す。瞼の裏で、再現する。 暖かさが全身に。痛みが断続的に。 悔恨は心底に居座り。怒りは不甲斐なき自分に。悲しみは癒えるはずもなく。 だけど、喜びこそが、そのすべてを包み込み。郷愁は、視界をいつだって曇らせる。 幾多の感情が、巡り、交差し、絡み合う。 泡と弾け、されど余韻は消えず。少しずつ、心に降り積もる。 …………自分に問うてみた。 あの日々は、どうだったのか、と。 幾ばくかの沈黙。すぐには答えが出せない。もう、決まりきっているはずなのに。 ……あぁ、そうか。該当する、的確な言葉が浮かばない。 どれだけ長く、どれだけの単語を弄しても。不足であり、時に過分でもあり。 だからこそ、開き直って。万感の思いを、ただ一言に託す。 ―――楽しかったよ、と。 * さて。祭りは終わり、非日常は、日常へと追いやられる。 伽藍は弾けた。明日が、未来に接続された。 終わりは、新しい始まりへと続く。当たり前のことなのに。 本当は、それこそが、魔法のような偉大な奇跡。 * さぁ、出かけよう。 後に残す人たちに、心からの笑顔を残して。共に歩く人に、遅れないよう。 照れてそっぽをむかれても、強引に、その人の手を取ろう。 大丈夫。それは、きっと、あの日々よりも。 騒がしくて、忙しくて…………大切な、忘れられないものになる。 [完]
by 能登耕平
楽しい時間はあっという間。 承知のはずなのに、終わる度に思い知らされます。 さて、それではこれにて幕を。 いずれまた、この地にて再会を。
<<PREV<<
>>NEXT>>
一つ戻る
一覧へ戻る