"復讐者のその後　withてぃーげる" by 夜菊

「あ～・・ダリィ・・・・」
特に面倒なことがあったわけでもなく、いつものように呟く。
こりゃもう無意識だ。口癖。

年明けたばっかだってのに街には妙に人が多いし、そのくせ正月気分が抜けてねェから
どいつもこいつも一皮向きゃアだらけきってるし。
働くんなら真面目に働けよな。オレみたく。

オレ、アヴェンジャー。
本名は違うんだが、どっちかっつーとこっちの方がいいかな。響きカッコイイし。
現在復讐者と正義の味方と左腕を兼業してる働き者だ。誰か誉めて。

んで、そんな復讐者サマがなんでこんな似合わねェ喫茶店にいるかっつうと。

ボケッとしてんのも飽きたし、ちょっくら知った顔探してみるか？なんて思ったわけですよ。
なんかあのまま人ゴミん中いたらガマンできそうになかったし。
おっかねえ元パートナーに怒られんのはイヤだったんで、気晴らしに散歩に出たってわけ。

そしたら喫茶店の中に見覚えある青いウェイターが立ってたんで、ぶらっと入ったわけです。

「いらっしゃ・・・なんだよ、お前まだいたのか」
接客態度Ｄ。クソ犬め。

「いいじゃーん、まだ帰る気分じゃないんだって。それより今ヒマ？」
「どこに目つけてんだタコ。仕事中に決まってんだろうが」
ほうほう、それが仕事中の態度なわけですな。接客態度はＥでしたか。
どうでもよさげにオレを見て案内すらしようとしない不良店員を無視して、勝手に窓際に座った。

「んじゃ、メニューくれ」
「お前、金あんのか？一文無しだったら叩き出すぞ」
「心配ご無用。ホレ」
ポケットからぐしゃぐしゃになった万札を取り出す。
以前街で会ったバゼット嬢から押し付けられたものだ。
仮にも英霊に物乞いや窃盗をさせるわけにはいきません、とのこと。
ちなみに最初にオレを見た時の彼女の驚く表情は素晴らしかった。わざわざ戻ってきた甲斐があるというものだ。その後ぶん殴られたが。

あ、ついでに服はバゼット嬢が見繕ったもの。上は直接ジャケットを羽織り、下はダメージジーンズ。あれでなかなかセンスがいいようだ。俺に似合ってるかどうかは知らんけど。

「はいよ。じゃあ俺が直々にアイリッシュティーを淹れてやるとしよう」
「・・・もしも～し、話聞いてた？」
「サービスだ、遠慮すんな。どうせ茶なんざわからんだろ？」
その通りである。生まれてこのかた茶を飲むような状況はなかった。
我ながらなんでこんなトコに来たのか謎だ。いや、槍男をいじりにきたのだが。

ぼんやりと茶を待つ間、何組かの客が出入りする。その様子をこれまたぼんやりと眺めていると

「やっほー！釣りのお兄さん！こんにちは～！」
オレとは違った意味でこの店に似合わない客が来た。

「お、縞々の姉ちゃんか。ひさしぶりだな」
「うん、お兄さんにはいつもお世話になってるからねー。たまには協力しようかと」
「んじゃ、客にこれ出しちまうから。席はどうする？」
「んー？えーっとねえ、窓際がいいかな～」

「・・・・」
あー、まずい。彼女と顔をあわせんのはあんま気乗りしない。なぜなら。

オレの動揺をよそに、バカ犬は茶と一緒に彼女まで連れてきやがる。
出来る限り身をすくめる。ムダだろうけど。

「・・・あれ？あなた・・・」
見つかった。

「ねえねえ、あなたどこかで会ったことない？」
こっちに近づきながら聞いてくる。初対面のやつに向かってなんて馴れ馴れしいんだ。
それが藤ねえの特徴だけど。

腹をくくって、今度はそっぽ向きながら
「・・・いや。人違いじゃねっすか」
わざとそっけなく答える。肯定するほどくくりきれない自分が可愛い。
これで退いてくれればいいが

「え～、そう？あ、ご一緒していいかしら？お兄さん、メニューちょうだい！」
聞いちゃいねェ。てか今の質問は何だ。そうか確認か。

私の家族にあなたそっくりの子がいてね、と聞いてもいないのにしゃべり続ける藤ねえ。
心の中で舌打ちする。本来のオレだったらこんな気分になることはないのに。

「そうだ。あなた、名前は？」
「・・・・アンリ」
「あんり？女の子みたいね」
くすくすと無邪気に笑う。
藤ねえに復讐者などとは名乗れない。

なぜなら。オレは。

この屈託なく笑う女性から、想い人を奪った男だから。

彼女の前では、今のオレは弟分であると同時に、殺人者であり略奪者。

聖杯の力を得て、かつてオレは、一人の男を呪い殺した。
衛宮切嗣。俺の親父だ。

今のオレは復讐者と正義の味方の中間。
俺は、藤ねえが親父を慕い、アンリ・マユが親父を殺したことを知っている。
■は、使役されて憎悪の炎を衛宮切嗣に向けたことを覚えている。

衛宮士郎が存在するこの世界。オレが役目を終えたこの世界。
何故オレがここに在るのかなんて正直興味はない。誰かがマスターなのかもしれないし、違う要因があるのかもしれない。
ただ四日間の縛りがなくなっているということは、もはやオレは三回目の聖杯戦争の時のオレじゃない。

そして今のオレは、昼夜問わずアンリ・マユの外見だが、昼は以前みたく衛宮士郎由来の道徳とやらが顔を出すのである。誰だ、妙なマネをしたのは。

「・・・でね、どう？このアイディア」
「んあ？」
「・・・どうしたの？変な声出して・・・」
ジト目で見られて返答に詰まる。
聞いていなかったと答えれば激怒するだろう。無視されるのがイヤなのだ、この人。

ここはとりあえず・・・
⇒当たり障りのない返事をして逃げる（選択肢）
「あ、ああ。オレはいいと思うけど」

「そう、じゃ、早速行きましょうか！」
「え？」
いきなり俺の手を掴むと、藤ねえは会計を済ませて店を出て行こうとする。
人が珍しく考え込んでる間になにやってたんだ？っていうかオレまだ紅茶飲んでないし。
いろいろ言うべきことがあるような気もしたけど、彼女が聞くわけがない。

あれよあれよという間に店の外に引っ張り出され、引きずられた末にバスに乗せられる。
「えーっと、もう一回確認。これからドコ行くの？」
一回も聞いちゃいないのだから確認もクソもないわけだが。

「え？だから、私んち。正確には私の家族の家」

「・・・・・・・・・は？」
とたん、全てが凍りつく。なに？どゆこと？

「あなた、家ないって言ったじゃない」
む。どうやら無意識に返答していたらしい。やるなオレ。
「だから、士郎の家に間借りしたらって言ったでしょ？部屋はたくさん空いてるから」
知ってます。暮らしてましたから。
「それに同じような人が大勢いるから、今更一人増えても変わらないわよう」
知ってます。散々振り回されましたから。

というか家に住まわせるかどうかを家主に相談なしで決めていいのだろうか。
・・・いや、藤ねえのことだからな。ガラクタを無断で持ち込むような感覚なのかも。

「いや、でも・・・」
「それにね」
反論しようとするオレに、藤ねえはあの綺麗な笑顔を向けて
「あなたとは、他人のような気がしないの」

・・・んなこと言われちゃ断れない。
そもそも人の好意を断るなんて「セイギのミカタ」にあるまじき行為。

「・・・わかったよ。オーケーオーケー。お世話になります」
「うん！これからよろしくね、杏梨くん？」
・・・なんか妙な漢字あててない？

さて。オレの役目はもうなくなったけど。
暴走トラのおかげで、どうやらオレの居場所は出来たようで。
問題は衛宮士郎とサドマゾコンビだな～、なんてどうでもいいこと考えながら、
久しぶりに退屈が紛れそうな予感に高揚を抑えきれないのも事実。

埋まることのない日々。
せいぜい楽しめるといいけどな？

復讐者のその後 withてぃーげる

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