一成の悩み
柳洞一成は悩んでいた。 いくら同年代より大人びているとはいえ、年頃の少年であるから悩みの一つや二つ、あって当たり前であるのだが、彼の場合は少々特殊だ。 「んで、悩みって何さ」 「聞いてくれるか、衛宮!」 いつになく深刻な顔で相談されたら、聞かない訳にはいかないだろうと、一年の時からの親友であるところの衛宮士郎は心の中だけで呟く。そして、その悩みの内容に見当が付いていることも黙っておく。 「うむ、実はな……」 そんな言い出しで語り始める一成の悩みの内容は、やはり士郎が予期していた通り、ただ今柳洞寺に居候中のキャスターのことであった。 曰く、彼女はひどく閉鎖的である。 曰く、なんだか敵対視されている気がする。 曰く、どんな会話をしていいのかわからない。 「妙齢の女性が、お山に長く滞在することなど、今まで無かったので、知れず失礼を働いているのではないかと不安なのだ。そこで、自宅には女性しかいない衛宮なら、何か対処方を知っているのではと――」 「その言い回しに、すごく棘を感じるんですけど」 語りながら一成が煎れてくれた熱いお茶を口にして、士郎は唸る。 キャスターが閉鎖的なのは、葛木先生以外の人間に関心がないからだ。敵対視するのは、おそらく一成が葛木先生を慕っているのを勘違いしているからで、会話は……特にする必要もないと、彼女が考えている為ではないかと思う。 だが、それを一成に正直に告げる訳にもいかない、か。 士郎は、そうだなーと考える素振りを見せて、ひと言。 「気にしない方が良いんじゃない?」 「な、なんと! そんな投げやりな回答とは。見損なったぞ、衛宮っ!」 「いや、そういうんじゃなくて、あんまり妙齢だとか女性だとか気にしない方がいいってこと」 激昂する一成を見て慌てて士郎が言い直すと、一成は訝しげに眉根を寄せた。 「どういう意味だ、それは」 「キャス――じゃない、メディアさんは葛木先生と結婚したばっかりだろう? 今はほら、新婚だから二人きりの生活を楽しみたいんだ。邪魔したらダメだよ」 「むむむ、しかし、進路相談のこともあるし……」 「一成はお山に入るんだろう?」 「それはそうなのだが、宗一郎以外の教師陣は、どうも俺を上に薦めたいらしいのだ」 一成は大きくため息を吐きながら、温くなったお茶を口に運ぶ。 確かに一成なら、どこに行っても見劣りしない実績を備えていて、学園のアピールにはうってつけの人材だ。しかし、当の本人はしっかりしている分、将来設計も完璧で、学園卒業後は仏道に帰依すると決めてしまっていた。それなのに、諦めきれない教師が何人かいるらしい。 「宗一郎には盾になってもらってるから、礼をしているだけなのだが」 「それは、学校でした方がいいよ」 一成もキャスターもいらん苦労背負ってんなと思いながら、士郎は音を立てて茶をすすった。
by aqua
駆け込み投稿で、オチありません(平伏) 前作から、ずっと一成が好きです。 ホロウでは、立ち絵が増えてて嬉しかったです。 ステキな作品を作ってくださって ありがとうございました(T▽T)
<<PREV<<
>>NEXT>>
一つ戻る
一覧へ戻る